第12話
今日は編入学試験を受ける日だ。
王立魔法中央学院は王城のすぐ傍の広大な土地に立っている。教室棟、実験棟、職員棟の3棟の校舎から成り、その他魔法競技用の体育館が3棟。それに加え400メートルトラックが4つほど入りそうな広い校庭もある。
学院では魔法論文やら魔法実験やらで毎日が忙しく、その研究発表の場として年に1回、学院選抜大会というものがあり、王国中の魔法学院から選抜選手が集まりトーナメント制で戦うらしい。
優勝者には宮廷魔導師団に配属が決定される。いわゆる出世コースである。
その人気度の高さから、中央学院の全体が約2500人いて出られるのはたった10人だけ。出場権の倍率は有り得ないほど高い。
将来のライバルになるかもしれない、しかも国王陛下推薦者の編入学試験を、見学しない者は居なかった…
アルナは学院の方から指定された魔法競技専用第1体育館に来ていた。高い天井に設置されているライトがステージを、アルナを照らしている。
「なんでこんなに人がいるの……」
その体育館には学院生徒が全員座れる観客席が完備されており、その数は2000人を遥かに超えていた。
「あの子可愛くない??」
「わかるぅ~」
「国王陛下推薦ってすごくない!?」
なんて適当なこと言われている。
今まで俺は外に出なかったから知られてなくて当然か。それより日本の女子高生みたいなテンションだな。
「憂鬱なんだけど~……はあ……」
1人で会場の真ん中で注目を浴びているとアルナの立つ場所の反対側から動きやすそうなシャツに黒いズボンを着た長く蒼い髪をなびかせながら1人の女性が歩いてくる。
「おい、もしかして……」
「あ、ああ、あの人だよ」
え? なになに? あの人有名なの??
「やぁ、初めまして。私はアリステア=フォルテリーゼ、この学院の学院長をしている。昔は《最強》なんて呼ばれてたけどね」
「ご丁寧にどうも、俺はアルナ=アルヴアート。王国筆頭公爵アルヴアート家の次男だ」
大声で館内中に聞こえるように話した。館内が騒然となる。
「剣聖と戦乙女の息子!?」
「聖騎士の弟様よ!」
「精霊に好かれし者がお姉様なんて羨ましいわ!」
「あんな可憐なのに男の子って!」
うっわぁ……なんだこれ。
会場中の熱烈な視線を浴び引いている最中、追撃するようにニヤニヤしている学院長。
「君は国王陛下より古代魔法の使い手として―古代を司る者を承ったみたいだね」
なんで余計な事を!?
館内が再び驚きに包まれる。全員が目を見開き、言葉も出ない様子である。
「国王陛下だって1つしか使えないのに」
「でも、アルヴアート家の方ならあり得そうよ」
「たしかに、一理あるわ」
ここ、女子率ハンパないな……男と女の比率は1:4くらいだなぁ、女子が多い
「私が試験官でないと測りきれないとノギータも言っていたしな」
学院長はおどけて言う。
え? 知り合いなの?
「ノギータとはどんな関係なんですか?」
「私があいつの師匠ってとこかな」
なるほどね、だから体内の魔力の質なんかも似てるのか。
「なんだい? 私の身体を舐め回すようにみて……恥ずかしいじゃないか」
その視線に気づいた学院長はわざとらしく胸の前で身体を守るよう両手で抱く。
なんでいちいち大声で話すんだよ! 何見てたか分かってるだろ!
「ま、まさか、学園長を狙ってるのか!?」
「あの学園長が恥ずかしがってるぞ!」
男子には盛況のようだな。
それもそのはず。アリステアは海のように蒼い髪に燃えるような真紅の眼、誰もが羨むようなスレンダーな身体に目を引きつける大きな胸。
逆に目を奪われない者がいるなら教えてほしい。
「え? ああ、失礼しました。」
アルナは慌てて目を逸らす。
おいなんで俺は逸らしたんだ? 胸を見てたわけじゃ無いのに! っていうかこの世界って胸が大きい人多くね!?
「いやぁ、この歳になっても言い寄られることが多くてね、困ってるのだよ。」
「誰も聞いてないんですけど……」
「では試験を始めようじゃないか。」
学院長は魔力を全身に纏い始める。魔力を[身体強化]みたいな使い方をしているようだ。
「それで俺は何すればいいんですか?」
ふつうに疑問なんだけど、まあだいたい予想はつくけどね?
「私を倒せ。それが試験だ。」
ドヤ顔で言い放つ。
はいでたぁ、やっぱりね。
「それはいいんですけど、ここの空間で死んだりはしないですか?」
「大丈夫だ、私の光属性上級魔法【仮想化】を館内全域に施してあるからな」
それじゃあちょっとやばいかな?
「いやぁ、多分俺はそれさえも破壊しますよ?」
「なにっ!? ……じゃあ君の古代魔法で強化しておいてくれ…………。」
学院長は顔を引攣らせる。
なんかすいませんね、規格外すぎて。
「おっけーです。[仮想空間化]発動」
アルナがスキルを発動させるとアルナの魔力が館内全域に広がる、2000人を超える人がいても、これに気がついたのは2人だけ――スサノとアルミスだけだった。ぴくっと頬を引き攣らせている。学院長も同じようだ。
「君は、本当に人間なのかい?」
うーん、多分人間かな?
「まあ、始めよう。手段は何でもあり。魔法を使うも体術も武器も使うもいい。私をこの空間から弾き出せたら君の入学は決定だ」
再び騒然とする観客。
「あの最強の魔導師を倒すだって!?」
「いくらなんでも厳しくない?」
「「「「…………」」」」
急に場が静かになる。アルナが殺気を放ち黙らせたのだ。
「何でもありってことは全ての手段を許可するってことですよね?」
「え、あ、ああその通りだ。」
学院長もアルナの殺気に当てられ身構えていた。
(久しぶりの感覚だ、平和ボケも程々にしないとな)
学院長は冒険者であった頃を思い出し、魔力を全開にする。
(この人も俺とおんなじくらい魔力あるんじゃね?)
アルナは誰にも聞こえない声でボソッと呟く
「[創造]魔大剣 ニーズヘッグ」
アルナの背に一本の大剣が創造される。無造作に柄を握り、勢いよく引き抜く。大剣とは思えないヒュンと空気を斬り裂く軽い音が会場中に響き渡る。アルナは両手で正面に構える。
漆黒の闇を思わせる黒く長い刀身、女性のような体格であるアルナに不相応なほど長く重いはずなのだが、誰も何も言わない。
――――喋ったら殺される。そんな気がしてならなかった。
アルナはニーズヘッグの造形に見入っているアリステアに向けて歪んだ笑みを浮かべ言う。
「合図はもういいですよね?《最強》?」
「――もちろんだ。こい、《古代を司る者》!」
アルナは学院長を倒すべく地を蹴った。学院長は俺を迎撃すべく魔法陣を複数生成した。
異次元の戦闘が開幕したのだ。




