劣等感
友達が貸してくれた本は、どれもまっとうなことばかりが書かれていた。
ナナが自分が持っていない、優しさと気遣いを持つ彼女といるとどうしようもない劣等感に襲われるというだけだ。自分より勝っている存在に囲まれて、毎日、どんな時も空虚な感じになるだけだ。何も彼女に限ったことではないし、勿論彼女のせいでもない。彼女はナナを想って貸してくれた、それはわかってる。
ナナは結局それらを全部読んだ。
神を信じて成功した人たちの話と、神を信じるためにはどうすればいいかという話だった。そしてそれらはナナがいかにひねくれているかを証明していた。
もしも賢い子だったら、なんでもかんでも真実を知ろうとはしなかっただろう。知らないほうが幸せなこともあるのだから。
まっすぐな子だったら、なんでもかんでも言葉の裏を読もうとするようなことはしなかっただろう。テレビとか、聖書とか、童話とか、それこそこの本とか…………人の心からの、言葉とか
神を信じれば幸せになれるとか言うけれど、神を信じていなくても幸せな人はいる。それに幸せになりたいからという理由で何かを信じるというのは不純すぎるし、意味が無いんじゃないかと思ってしまう。
ひねくれてるからこんな考え方しかできないのも、こんな考え方は世間一般ではないということもわかっているんだけど。神を信じられないのも、人を信じられないのも、ナナ自身の性格とひねくれ加減のせいなのはわかりきったことだった。
もしも神を信じられるなら、きっとそのほうが楽なのだろう。
誰も疑わずに、決して消えない希望を持ち、絶対裏切らない友を得て、罪深くても愛してくれる存在がいて。
そんな風になれたら…思うだけでもいい、そう思えれば、きっと人生はもっと楽しくて、幸せなものだろう。
だから信じていたいんだ。
だから信じようと試みるんだ。
神様がいるとかいないとか、本当はどっちでもいい。こんな日々から抜け出したいだけ。今日をやり過ごすのにどっちかって言うとその方が楽だから、神様を信じて、未来があるっていうことにしておく。
終わってるんだ。すさんでいるんだよ。
何やったって変わらないし、何知ったって意味無いんだよ。
壊れすぎた人に、救いは来ない。『普通』にはなれないんだ。罰を受けて死ぬ筈だったのに生かしてもらってんだよ。
「わかってるよ」
「わかってるよ」
…………わかってるの?
ナナは多分、わかっていない。