仮説
『それって、神という大きな存在に自分たちが似ていると思いたい人間のエゴなんじゃないですか』
ばたりとまたベッドに倒れこみ、うつ伏せになる。
それからまた小さくひとりごちた。ひとりごとが多い中学生のようだ。
「戦争だって独裁政権だって、人種差別や動物虐待だってそうやって起きたんじゃないのかよ…そもそも動物虐待っていう呼び方が差別じゃねぇのかよ」
知ってはならないものを見てしまったかのように、布団をばふっと頭からかぶる。人がきれいなものだとでも思っていたかのようなそぶりだ。
「You've got mail!」
返信がきたが、携帯を手に取る気配は見せない。
ナナは、しばらくそうしていた。
*
ナナはどこからか紙を持ってきて、シャーペンを走らせていた。今度は驚くべき速さで。そもそも答えなんかないのかもしれないのだが、そんなことはどうでもいいらしい。
まあたしかに、紙に書き出したほうが上手く考えがまとまることもあるだろう。
まず紙の端に、『神=全てを創造し、全てを凌駕し、全てを愛する人と似た形のもの。絶対の存在。運命や偶然さえもつかさどる』と書いた。その横に、神はいると仮定する、と付け足す。
ナナは唇を噛んだ。紙の中央上のところに、人を作った理由と書く。ナナはどんどん書き出していく。
気まぐれ、気分、自分のクローン計画、実験、人がもたらす破壊を見たかった。人を滅ぼして破壊衝動を満たす=今すぐ消されるかもしれない。
そうして一人、禅問答を繰り返す。きりがない言葉の数々。ときに、神の定義――全てを創造し、全てを凌駕し、全てを愛する人と似た形のもの。絶対の存在。運命や偶然さえもつかさどる――と矛盾するものも出たので、それは上から線を引き消す。
と、そこで急に手が止まる。
「そんなわけ、ないじゃん…そんなのって、ない」
その目は、愛の対象を人に求めたという、その文章を睨むように見ていた。