3.王城に出る人魂
フィン民主国はかつて王政だったが、魔法の力に溺れた王族に因る悪政が長引き、クーデターによって民主国へと変わった。
とは言え、それは数百年以上前の話であり、当時の遺産以外でその痕跡を探すことは難しい。
残された遺産の中で最も大きなものは、東区にある王城であり、そこは現在は公園として機能している。城門を出入り口として、丹念に手入れをされた庭園があり、王城の一部を改築したレストランなども作られている。下町の子供が遊ぶような公園とは一線を画した、大人が休日を過ごす場所として認識されていた。
「あんまり此処は来ねぇけど、相変わらずデカイ城だな」
「お前が言うと風情の欠片もないね」
王城は一部分だけが国民に公開されており、他は安全上、あるいは史料的意味合いから非公開となっている。
レストランがある場所は、古くは衛兵達の詰所として使われていたらしいが、特にその面影はない。レストランの正面図だけ切り取ってしまえば、誰もそこが城だとは気付かない。
だがレストランの右側にそびえ立つ塔は、鋭利な円錐型の屋根や手の込んだ彫刻などが、城の面影を色濃く残していた。中は螺旋階段になっており、一番上からは四方を見回せるようになっている、所謂展望台だった。
入口にはやる気のなさそうな係員がいて、入場料を取っている。入場料金は非常に安いが、螺旋階段の途中で引き返しても返金はしない旨が、その傍の看板に書かれていた。
「此処が、目撃証言が相次いでる場所だね」
「……なんだって?」
「飛び回る人魂を見たって、皆が言っている場所だね」
「あぁ、なるほど」
ミソギは係員に二人分の入場料を支払うと、塔の中に足を踏み入れた。
「お前、此処に入ったことは?」
「ねぇな。興味ねぇし。リムとかは好きそうだけど」
「あの傭兵、今はどうしてるんだい?」
「知るもんか」
階段を昇りながら、カレードは素っ気なく答える。
「この前はハリにいたけど、今は戦争もないから戻ってきてるんじゃねぇか?」
「いい加減決着付けてくれないと、迷惑なんだけど」
「知るか。大体あいつが勝手に俺を目の敵にしてるだけだ」
「お前は違うっていうのかい?」
「俺は別に。あいつを殺してぇなとは思うけど、それだけだよ。あいつみたいに殺してやるオーラ出てないし」
「……違いが全くわからない」
哲学なのか認識違いなのか馬鹿なのか、恐らく後半二つだろうとミソギは判断する。カレードという男を理解するのに、最も有効なのはそのあたりの獣の気持ちになることである。
「お前らと来たら、所かまわず殺し合いを始めるんだから、性質が悪いよ」
螺旋階段を昇りながら、二人は息一つ切らさずに応酬を続ける。軍人は体が資本であり、特に魔法を使えない彼らの場合は、身体を鍛えることが即ち戦力へとつながる。
「そういえば、お前って戸籍はないけど血筋的にはフィンの人間なんだろう?」
「多分な」
「この国の王族って、金髪碧眼だったらしいね」
螺旋階段の壁には、小さな明り取り用の窓が並んでいて、その間には国の歴史が刻まれた金属製の板がはめ込まれている。
そのうちのいくつかは王族の肖像画を一緒に飾っていて、油絵具で丹念に描かれた絵はいずれも金髪碧眼だった。
「王政崩壊後に、最後の王の隠し子が逃げ延びたって話だけど、お前のご先祖様だったりしてね」
「くっだらねぇ。他にもいるだろ、同じ色なんて」
「見たことないし、この国で金髪は非常に珍しいって話だよ」
カレードは鼻で笑っただけだった。
「それよか、このまま真面目に上を目指すつもりかよ?飛び回る人魂って、螺旋階段のところに出たんだろ?」
「あぁ、それだけどね」
ミソギは足を止めると、螺旋階段の支柱を指さした。それは塔の一番上までを貫き、階段を支えている。支柱には等間隔に魔法陣が描かれていたが、今はいずれも沈黙していた。
「人魂の目撃談だけど、夕方から夜にかけての証言が多かった」
「そうだっけ」
「つまりいずれの場合も、塔の中に明かりを灯していた時だ」
「昼間の目撃もあっただろ?」
「それは雨の日だよ。曇っていたら、灯りはつけるだろうからね。この国は寒冷だから窓が小さい建物が多いし、ちょっと曇っただけで真っ暗になるところも珍しくない」
この展望台は夜まで営業している。無論、下のレストランの営業時間に合わせたものであるが、酔っぱらった客が入っては問題を引き起こすことが多いので、有料制になっているらしい。
「この中を照らすための魔法陣がこれ。支柱にいくつも書かれているだろ?」
「まぁ見てもさっぱりだけど」
「俺もそうだけど、文字は読めるからね、幸い。「光源」と書かれているから間違いないだろう。さて、ここで思い出してほしいのは、あのクソ野郎のことだ」
「リムか?」
「キャスラーだよ」
互いの考えるクソ野郎は随分と違っていた。




