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anithing+ 番外編  作者: 淡島かりす
+剣士達の厄日
3/8

3.王城に出る人魂

 フィン民主国はかつて王政だったが、魔法の力に溺れた王族に因る悪政が長引き、クーデターによって民主国へと変わった。

 とは言え、それは数百年以上前の話であり、当時の遺産以外でその痕跡を探すことは難しい。


 残された遺産の中で最も大きなものは、東区にある王城であり、そこは現在は公園として機能している。城門を出入り口として、丹念に手入れをされた庭園があり、王城の一部を改築したレストランなども作られている。下町の子供が遊ぶような公園とは一線を画した、大人が休日を過ごす場所として認識されていた。


「あんまり此処は来ねぇけど、相変わらずデカイ城だな」

「お前が言うと風情の欠片もないね」


 王城は一部分だけが国民に公開されており、他は安全上、あるいは史料的意味合いから非公開となっている。


 レストランがある場所は、古くは衛兵達の詰所として使われていたらしいが、特にその面影はない。レストランの正面図だけ切り取ってしまえば、誰もそこが城だとは気付かない。


 だがレストランの右側にそびえ立つ塔は、鋭利な円錐型の屋根や手の込んだ彫刻などが、城の面影を色濃く残していた。中は螺旋階段になっており、一番上からは四方を見回せるようになっている、所謂展望台だった。


 入口にはやる気のなさそうな係員がいて、入場料を取っている。入場料金は非常に安いが、螺旋階段の途中で引き返しても返金はしない旨が、その傍の看板に書かれていた。


「此処が、目撃証言が相次いでる場所だね」

「……なんだって?」

「飛び回る人魂を見たって、皆が言っている場所だね」

「あぁ、なるほど」


 ミソギは係員に二人分の入場料を支払うと、塔の中に足を踏み入れた。


「お前、此処に入ったことは?」

「ねぇな。興味ねぇし。リムとかは好きそうだけど」

「あの傭兵、今はどうしてるんだい?」

「知るもんか」


 階段を昇りながら、カレードは素っ気なく答える。


「この前はハリにいたけど、今は戦争もないから戻ってきてるんじゃねぇか?」

「いい加減決着付けてくれないと、迷惑なんだけど」

「知るか。大体あいつが勝手に俺を目の敵にしてるだけだ」

「お前は違うっていうのかい?」

「俺は別に。あいつを殺してぇなとは思うけど、それだけだよ。あいつみたいに殺してやるオーラ出てないし」

「……違いが全くわからない」


 哲学なのか認識違いなのか馬鹿なのか、恐らく後半二つだろうとミソギは判断する。カレードという男を理解するのに、最も有効なのはそのあたりの獣の気持ちになることである。


「お前らと来たら、所かまわず殺し合いを始めるんだから、性質が悪いよ」


 螺旋階段を昇りながら、二人は息一つ切らさずに応酬を続ける。軍人は体が資本であり、特に魔法を使えない彼らの場合は、身体を鍛えることが即ち戦力へとつながる。


「そういえば、お前って戸籍はないけど血筋的にはフィンの人間なんだろう?」

「多分な」

「この国の王族って、金髪碧眼だったらしいね」


 螺旋階段の壁には、小さな明り取り用の窓が並んでいて、その間には国の歴史が刻まれた金属製の板がはめ込まれている。

 そのうちのいくつかは王族の肖像画を一緒に飾っていて、油絵具で丹念に描かれた絵はいずれも金髪碧眼だった。


「王政崩壊後に、最後の王の隠し子が逃げ延びたって話だけど、お前のご先祖様だったりしてね」

「くっだらねぇ。他にもいるだろ、同じ色なんて」

「見たことないし、この国で金髪は非常に珍しいって話だよ」


 カレードは鼻で笑っただけだった。


「それよか、このまま真面目に上を目指すつもりかよ?飛び回る人魂って、螺旋階段のところに出たんだろ?」

「あぁ、それだけどね」


 ミソギは足を止めると、螺旋階段の支柱を指さした。それは塔の一番上までを貫き、階段を支えている。支柱には等間隔に魔法陣が描かれていたが、今はいずれも沈黙していた。


「人魂の目撃談だけど、夕方から夜にかけての証言が多かった」

「そうだっけ」

「つまりいずれの場合も、塔の中に明かりを灯していた時だ」

「昼間の目撃もあっただろ?」

「それは雨の日だよ。曇っていたら、灯りはつけるだろうからね。この国は寒冷だから窓が小さい建物が多いし、ちょっと曇っただけで真っ暗になるところも珍しくない」


 この展望台は夜まで営業している。無論、下のレストランの営業時間に合わせたものであるが、酔っぱらった客が入っては問題を引き起こすことが多いので、有料制になっているらしい。


「この中を照らすための魔法陣がこれ。支柱にいくつも書かれているだろ?」

「まぁ見てもさっぱりだけど」

「俺もそうだけど、文字は読めるからね、幸い。「光源」と書かれているから間違いないだろう。さて、ここで思い出してほしいのは、あのクソ野郎のことだ」

「リムか?」

「キャスラーだよ」


 互いの考えるクソ野郎は随分と違っていた。

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