1.二人の軍人
「いいかい、いくよ」
マズナルク駅前に立つ二人の軍人のうち、一人が口を開いた。
「リ」
「リ」
「コ」
「コ」
「リー。はい、続けて」
「リコリー」
「うん、そうだよ。やれば出来るじゃないか」
「で、これがなんだ」
「だから双子ちゃんのお兄ちゃんの名前だって言ってるだろ」
ミソギ・クレキは疲れ切った表情でそう言った。
黒髪黒目、切れ長の双眸がいかにもヤツハ国らしいと言われている男は、フィン国軍十三剣士隊に属する中尉である。
その隣に立つ金髪碧眼の大男は、同じ隊に属する軍曹のカレード・ラミオン。見た目だけは美男子であるが、頭の中は殆ど空に近い。
「あぁ、兄貴の方な」
「だから、ちゃんと名前覚えてあげなよ。大体、セルバドス准将のことはわかってるのに、どうして双子ちゃんの苗字は出てこないの?」
「あいつら、なんて苗字だ?」
「だから、セルバドスだって五分前に言っただろ」
ミソギは大きなため息をつく。
十三剣士隊の問題児であるカレードは、悪気もなくとんでもないことを仕出かすことが多い。そのため、ミソギがその監視役として一緒にいる。
勿論毎日というわけには行かないし、それでも目の行き届かないところは諦めているのだが、そんな関係性であるが故に二人の共通の知り合いは多い。
「リコリー君とアリトラ嬢は、セルバドス准将の身内なんだよ。わかる?」
「だから?」
「だから苗字が一緒なんだよ」
「へぇ、同じ苗字なんて奇遇だな」
「奇遇じゃない」
制御機関の一階にあるカフェを、最初に見つけて入り浸ったのはカレードだった。ミソギは珈琲など飲まないが、故郷のヤツハ茶を出していると聞いて気になって足を運ぶようになった。
そこで働くアリトラと、制御機関で働くリコリーを知ったのも、カレードがきっかけである。
「で、何でそんな話になったんだ?」
「お前と話していると、理性とは何か忘れそうになるよ。お前が持ち帰ってきた魔導装置の話だろ。双子ちゃんが関わってるなんて知らなかったよ、俺は」
「黙ってたからな」
「双子ちゃんが魔導装置に追いかけられて、それを七番目が助けた。……お前、よくあの男を連れ出せたね」
カレードは少し首を傾げて、思い出すような素振りをする。
「いや、連れ出したっていうか……、最初は七番目も渋ってたんだけど、色々言ってたら諦めたようについてきたというか」
「そうだろうね。お前と話すのは至難の業だから」
「お前、それと似たようなことを七番目にも言ってねぇか?」
「あいつは単に性格が悪いんだよ。双子ちゃんを助けたらしいけど、どうせこんなことでも言ったんだろう?「くだらないことに巻き込むな」とか」
「おー、言ってた言ってた。言い方も似てるぞ。よかったな」
「よくないよ」
ミソギは眉間に皺をよせて吐き捨てる。
「俺はあの男が嫌いなんだ」
「そう言われると傷つきますね」
突然後ろから話しかけられて、ミソギは慌てて振り返る。
ミソギと同じ年頃の、青い髪に赤い瞳をした男が立っていた。




