幕間『極・異常な高校生の幼馴染と女神』
場所は変わって、真千代が死んでから2日後の地球。
真千代がお世話になっていた一家……尾根家の人々は、未だ立ち直れずにいた。
---特に、彼女は。
「……まちよ…… 」
ここ4日間、ずっと真千代の死体の隣に寄り添っている彼女は、尾根 心。
真千代の幼馴染であり---その死の現場を一番間近で見た張本人である。
「まちよー……わたしを置いてどこいったんだよ〜……」
火葬してなお傷一つつかなかった真千代の肉体を見つめて、心が弱々しい声で呟く。
その死体はまだ温かく、心は、真千代が死んでいるとは到底信じられていなかった。
「あんなアホな事する前にさ〜……せめてわたしの裸を見た詫びを入れろよアホ〜…… 」
心が真千代の死体に手を近づけ、その頰に触れようとする---
瞬間、心の世界が真っ白に染まった。
「!? 何!? 」
心が驚きの表情で目を見開き、辺りを見回す。
周りには何もなく、人っ子ひとり存在しない。
世界にまるで自分1人だけになったような感覚を覚え、心は内心不安を覚える。
「……えっ!? お、おい! 誰かいないのか!? ねぇ!?」
---コツ、コツと。
どこからともなく聞こえて来た足音に、心の体がビクッと反応する。
「うふふ、そう慌てなくてもここに……」
---後ろぉぉぉ!!!!
「ぜりゃああああああ!!!! 」
「いますよぶごっはぁぁぁ!!!! 」
心は声の方向に向け、鋭い蹴りを繰り出した。
声を発した存在---謎の女は槍の如き蹴りを喰らい、宙を舞って10m後方に吹っ飛んだ。
「ぉぉぉぉあばらが……あばらが…… 」
「何者だお前!!わたしに何の用だ!! 」
心がファイティングポーズをとり、未だ悶えてゴロゴロ転がる謎の女に警戒の表情を向けた。
「お、落ち着いて!!大丈夫、悪いようにはしないから!! 」
「まずお前は誰なのか! ここは何処なのか! 私に何の用かを10秒以内に答えろ! 」
「えぇっ!?えぇっと…… 」
「10!9!8!」
心が無慈悲なカウントダウンを唱えながら、もう一発今度は鉄拳を入れる準備に入る。
「わ、私は女神ソワレ!! ここは私が用意した異空間です!! 真千代さんの件で話があって来ました!!」
「何を寝ぼけ……待て、まちよだと!? 」
ピタッと、真千代の名を聞いた途端、心の攻撃モーションが止まる。
「どういうことだ! まちよについて、だと!? 」
「は、はい……結論から言いますと……」
「結論だけ言うんじゃない! 長くてもいいから説明しろっっっ!!」
「はい」
間髪入れない即答。こういうタイプには大人しく従う小物気質が、ソワレには生来備わっていた。
「えーと、かくかくしかじかさくさくぱんだ…… 」
ソワレが、真千代が異世界に行った旨を詳しく、それは丁寧に説明する。
それはもう、端折るのが面目無いほどに。
「……というわけです、はい 」
「異世界……魔王……にわかには信じられない話だな…… 」
「でも真千代さんですよ? 」
「それもそうか」
納得の理由だった。『無茶』も『不可能』も『真千代』という言葉で大体片付く、それが尾根家の理だった。
「心配させて……今度会ったら引っ叩いてやる……」
「あはは……納得していただけましたか?」
「ああ、納得した……しました」
「それは良かったです、親御さんにも私が説明しておきますので」
「……それにしても混乱していたとはいえ初対面の人を蹴るなんて……」
「ん?」
「いくら戸惑っていたとはいえなんて私は酷いことをしてしまったんだ……ほんとに申し訳ありません……」
ぺこりと、心が頭を下げる。
「いえいえそんな、アバラが2、3本持っていかれただけなので全然気にしなくてもいいですよ」
人間単位で考えると病院案件な惨状を淡々と口にしながら、気にしてないという感じでソワレが言葉を返す。
そもそも女神の肉体には銃弾程度では傷一つつかない程の強大な加護が宿っており、アバラを蹴りで折るなど普通の人間ではどだい出来っこないのである。心の力を侮っていたソワレも、若干負い目を感じていた。
「2、3本……!?ほんとにすみません死んで詫びます!!」
ゴヅッ、ゴヅッと、心が自らの頭に洒落にならない打撃音が響くほどの強チョップを連発する。
「わー!!!大丈夫!!ほんとに大丈夫ですから!!いのちだいじに!!! 」
「止めないでください!!!こんな私は地獄に行って閻魔様に四肢を引き千切られた上で臓物を煮込まれて美味しく食べられればいいんです!!」
「エグい!!やめてくださいほんとに!!自分の骨が軋む音で寧ろ少し心地いいですから!」
秘めた性癖を無意識に暴露したソワレが、心の暴挙を必死で押さえつける。
この幼馴染にしてあの漢在り、と言わんばかりである。非常に面倒くさい。
「でもせめて何か償わないと私の気がすみません……女神様、何か私に命令を!!なんでもしますから!! 」
「だから重いですって……ん?今、なんでもする、と……? 」
ピタリ。と、ソワレの動きが止まる。
う〜んと唸りながら、顎に手を当て、何かを考え始めた。
数十秒思案した後で、よし、と声を上げる。
「それでは一つお願いを聞いてもらいましょうか、心さん」
「はい!! 出来ることならなんでもっっ!!!」
ニヤッとソワレが笑みを浮かべ「では遠慮なく」と言わんばかりに、心に自らの頼みを突きつける。
「来週から一ヶ月だけ、私の代理をして下さい」




