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極・異常な高校生の筋肉無双烈伝  作者: 喪服.com
第1章『異常な高校生と元ニートの竜殺し』
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第10話『反省とデコピン』

 魔王到来という、アンファンスに訪れた未曾有の危機。

 しかしそれは、真千代の剛腕によって、文字通り容易く砕かれたのだった。


 「す……すげぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!! 」


 「凄い! 凄いわ! あの魔王を……! 」


 「すげぇぜ本当! マジでやべぇぜ! 」


 余りの凄まじさに語彙力すら失いかけている街の人々が、口々に真千代を讃える。

 ユウイチは呆然としていたが、すぐに魔王討伐を果たした英雄--真千代に駆け寄った。


 「お、お前、ほ、ほんとに……あの魔王アルバーを……」


 「漢に二言無しッッッ!!! やると決めたら必ずやるのがこの俺だッッッ!!! 」


 「……本当に、すげぇよ」


 高々と笑う真千代を、ユウイチは羨ましげに見つめる。

 真千代のその真っ直ぐさが、ユウイチにはとても眩しいものに見えた。


 --ユウイチに無かったものは……色々あったが、この『真っ直ぐさ』が主だろう。

 さっきだって、前の世界だって……いつだってユウイチは、その場さえしのげばいいと思っていた。面倒な問題は常に先送り、その日その日を楽しく暮らせればそれでいいと。

 この世界に来て、やっと勝ち組になったと思いお山の大将気取りでイキっていた。

 だが現実は、魔王が来る原因を引き起こし、挙句その事実から逃げようとした。


 結局、どれだけ取り繕おうと、ユウイチの本質は変わってなかったのだ。

 全てを誤魔化していった自分自身は、何も変わってはいなかった。

 だがしかし--


「……俺も、お前みたいになれるかな……」


 35年動かなかった男は、初めて変わろうと思えた。目の前の真っ直ぐな男を見て、心から強くなろうと思えたのだ。


 「やめておけ、生活とかそこそこ不便になるぞッッッ」


 「……そうか」


 ガチめに諭された。


 「……しかし、なぜこんなところに魔王が来たのだッッッ? 祭りか? 」


 「そ、そうだ! そいつのせいで魔王が来たんだ! 」


 「そいつが黒龍を倒したから、魔王が怒って来ちまったんだ! 」


 「そうだこの野郎!馬鹿野郎! この街から出て行け! 」


 街の人々が、ユウイチを指差して口々に非難する。


 「コクルー……? カレーでも溢したのかッッッ? 」


 「いや、そういうことじゃ……とにかく、俺のせいだよ……」


 これも、覚悟していたことだ。今更言い訳する気はない。

 ユウイチは大衆の前に出て、地面が割れる程の勢いで地面に手をつき、


 「本当に、すみませんでしたッッッ!!!! 」


 物凄い勢いで、土下座をかました。


 「この街の修繕費用も必ず払います!償いはします!許して貰えるとは思っていませんが……本当に、すみませんでしたっ!!!」


 「すみませんじゃすみませんってんだよ! こちとら街壊されてんだぞ! 」


 「命も取られるところだったのよ! 謝ったぐらいじゃ……」


 「その辺にしておけ、人間達よ」


 制止をかけたのは、コフィンだった。


 「その男が魔王を食い止めなければ街が壊滅していたのも事実……そうだろう?皆の衆」


 コフィンの言葉に、街の人々の非難が止まる。


 「で、でも俺たちは実際危なかったし……」


 「ていうか一番止めてたのアンタだろ」


 「み、皆さん……ユウイチさんも反省してますし……」


 「こ、これまでの功績を加味して、許してあげられないかしらっ!?」


 アイシャとエリザヴェータも、ユウイチを必死に弁解する。


 「え、エリザ……アイシャ……」


 「……泣いてるのは少し、格好悪かったですけど…」


 「……そのあとはちょっと、かっこよかったから……プラマイゼロってことで」


 「ふ、二人とも……うぅっ」


 自分を認めてくれている存在に、ユウイチは思わず涙する。

 それを見ていた真千代が少し考え込み、




 「……よしッッッ、ならば俺が罰を下そう、それで文句無いなッッッ」


 「えっ」


 処刑宣言ともとれる発言を放った。

 罰を受ける覚悟をしていたユウイチも、これには冷や汗を流しながらケータイのマナーモードの如く震え上がった。


 「ええっ!?殺すのか!? 」


 「やりすぎじゃ……」


 「安心しろッッッ、軽いデコピンだ死ぬことは無い……後遺症は残るかもしれんがなッッッ」


 キリキリキリ、と、真千代が指を締め付ける。

 ただのデコピンのはずなのに、その溜めの音はバリスタを彷彿とさせた。


 「ちょ、おい、まてよ……」


 「そいやっさッッッッッッ!!!!」


 バッッチィィィィィィィィン!!!!!


 「ぐわっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 」


 「「ゆ、ユウイチ(さーん)ーーーーーー!!!!!」」


 景気のいい音を立てて、ユウイチは空の彼方へと飛んでいった。

 アイシャとエリザヴェータはそれを追いかけて、街の外へと消えていった。


 「……浅すぎたなッッッ」


 「案外厳しいな貴様」


 制裁を目の当たりにしたコフィンは、心に誓った。この男だけは、怒らせないと。

 真千代は今日だけで、二人の魔王を恐怖させたのだった。





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 「暇すぎるッッッッッッ!!! 」


 「クエストしないのか……」


 魔王アルバー襲撃から1週間。

 真千代の目的は果たされ、目標を無くした真千代はひたすら鍛えるだけの生活を送っていた。


 「目標も無いのでは筋肉も躍動せんッッッ、どうすればいいのだッッッ……」


 1億回目の腹筋をやり終え、真千代が床につっ伏せる。

 隣でそれを見ていたコフィンは、少し思案する。

 --もしかしたら自分のように、『ネクロレイブ』から死んで転生してきた魔王がいるかもしれない。

 それこそ、アルバー級の強さを持った強大な魔王も、もしかすると--。

 その事実を伝えれば、真千代は真っ先に飛びかかるだろう。しかし、コフィンはそれを伝えなかった。


 (流石に、仲間を売るような真似はできないからな……)


 コフィンも元は、『ネクロレイブ』出身の魔王だ。

 アルバーのような異界の魔王ならまだしも、同郷産まれの同種族を真千代(こんな化け物)の餌にするわけにはいかなかった。


 (これは私の胸にそっとしまっておこう……)


 「そういえばコフィンッッッ、お前は魔王と勇者だらけの国にいたと言っていたなッッッ……お前以外にもいるんじゃあないのかッッッ!? 強い魔王がッッッ!!」


 「あぁっ、早速バレた! 」


 まるで狙いすましたかのようなタイミングで、真千代はコフィンが隠していた事実を言い放った。

 こうなってしまえば隠すことは出来ない。お手上げである。


 「……まぁ、いるかもしれんな……」


 「なにィィィィィィっ!?ならば当面の目標はそいつらだッッッ!!! 目指せ魔王1000人撃破ッッッ!!! 」


 「ほ、程々にしてくれ! 私が恨まれる! 」


 「そうと決まれば着いてこいッッッ!!! 旅支度をするぞッッッ!!! 」


 「即実行すぎるぞ貴様ぁ!」


 真千代は勢いよく起き上がり、宿屋のドアを突き破って街の外へと向かう。

 目指すは、まだ見知らぬ強敵に出会うため。

 鬼向 真千代は、強く大地を踏みしめた。





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





 世界の果てに、一つの城があった。

 人間が近づけない程の濃密な闇の魔力に満ちた空間。何者の攻撃をも寄せ付けない強固な魔力防壁。空は黒雲で覆い尽くされ、絶え間なく雷が鳴り響く。その真下に、その城は存在していた。

 城の名は『アルバー城』--即ち、魔王アルバーの住処、魔物達の総本山である。


 ……遅い……遅すぎる……」


 城の中、一人の男が呟いた。

 タキシードを纏い、左目にモノクルをかけている初老の男性だ。

 しかしこの城にいるということは、それは当然人間ではなく--その頭には、上位の魔物特有の、二つの大きなツノがある。

 『魔宰相メアラドレク』。

 魔王アルバーの右腕を務める、魔王軍のナンバー2である。

 彼は今、主君--アルバーの帰りが遅いことを憂いていた。


 「始まりの街に行くと言って1週間……あまりにも帰ってくるのが遅すぎる……」


 その時、コンコンと、誰かがメアラドレクの部屋の扉をノックした。


 「……入れ」


 「ハァッ……ハァッ……メアラドレクさまぁっ!!!」


 扉を開け入ってきたのは、彼の配下であるミノタウロスだった。

 顔は蒼ざめ、息も切れ切れだ。


 「何事だ」


 「も、申し上げます……っ!ま、魔王様が……っ!敗れましたぁっ!! 」


 「そうか…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」


 --2秒後、メアラドレクの絶叫が、魔王城中に響き渡った。

 魔王敗北。

 そのあり得ない事実が魔王軍に広まるまで、そう時間はかからなかった。


 --これは、後に『筋肉の神』として讃えられることとなる、現人間『鬼向真千代』の物語である。

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