魔剣ソウルベインと少年の始まり
「そうだこれは、、これは今からとても昔の話だ、、」
「人は死ぬことを恐れ、自分達の持てるすべてを使い、不死を作り上げた。寿命や老いでの死亡は止められなかったが、外的要因で死ぬことはない。」
「しかし不死を産み出したのはたった一人、大魔法士ヴェスリックだ、彼一人の不死はどこからか広がり、やがて人類の遺伝子に不死が組み込まれるようになった。」
目の前の少年は真剣な顔で聞いている、その手に握る剣を構えながら
それからしばらく私は少年に話す、この世の全てを。
「、、、さて、長い話になったなこれが全てだ、これを聞いて貴様はどう動く?」
少年を後ろにいる三人が武器を構えながらも判断を待つ、部屋は暗く月明かりだけがボロボロの床とやぶけたレッドカーペットを照らしている。
「そんなこと信じられるか、、、貴様は魔王!魔王の言葉など信じる事はできない!!!」
勇者の気迫が増していく。
「それに、それが真実でも、、私はこの仲間たちと、全てを乗り越える!」
強く言いはなった後に勇者一行は走り出す!目の前の魔王を討ち滅ぼすために!
「フフ、、、そうか、私と貴様ではちがうのだな、、、」
魔王も鞘に収まる剣を抜き放つ、空気が振動しその禍々しい剣は月光に妖しく光る
「やはり、勇者一行はこうでなくてはな!!!!!」
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鳥のさえずり、馬車の車輪が地面を叩きならす音様々な生活音で目が覚める
「もう朝か、、、」
眠たい体を起こし、毛皮でできた布団から出る。なんでも今日はこの国全ての人に王城への招集がかかっているのだ。
(王城にいくときって何か、しっかりした服を着たほうがいいのかな)
寝起きの眠たい体を動かしながらタンスに手をかける。
開けてみるが王様のまえで堂々としていられる服などなく、どれもみすぼらしい服ばかりが、掛けられている。
(まぁ知ってたけど、、)
布生地のズボンをはき、リンネルでできたシャツを着る、なにも変わらないいつもの服装だ。
自分の部屋の扉をあけると、いい匂いが朝ご飯を作る音とともに漂ってくる。
「おはよ、お母さん」
「あらおはよ、今日は王様のところに行くんでしょ?そんな格好でいいの?」
母親が何かを煮込みながら話しかけてくる。
「それはお母さんもだよ、お母さんも王城いかなきゃいけないの!」
「わかってるわよ、いまできるから、さっさと食べて行くわよ」
バケットのなかにあるパンを手に取り、果物のジャムを多めに塗り、口にいれる、色々な果物が混ざりあっているジャムは朝寝起きでぼーっとする頭もすっきりするような甘さだ。
「はい、お待たせ」
木でできたお椀に色とりどり野菜が入っているスープ、それに干し肉が出された。
「お母さんも早く食べないと、遅くなるぜー?」
出された物を頬張りながら母親に話しかける。
「ここだけ片付けたら食べるわ、それよりあなたちゃんと髪の毛整えて行きなさいよ。」
へーいなどと生返事をしながら、食べ進める、なんの事はない、いつも通りの朝だ。
朝食を食べ終わると、歯をみがき、いつも着ているローブを上にはおる、
(今日は学舎にも行かなくていいし、いい日だな)
玄関のドアを開けて、空を見る
(いい天気だな、、、)
空は雲ひとつない青空が広がっていた。
(ここから王城まで20分くらい、のんびりいきますか、、)
少年は歩き始める、いつもの見慣れた風景も今日はすこし物寂しくなっている。いつも出されている出店や、露店などはなく、人の活気はおろか気配すらない。
(もう、みんな王城にいっちゃったのかな?)
それでも、のんびりと歩く、いつもと、違う町の雰囲気を楽しみながら。
しばらく
「おっ、おーい!ガキー!」「ん、あぁ八百屋のおっちゃんー」
屈強な体の大男が少年に声をかける、
「お前も今から行くのか?」
「そうだよ、でもゆっくり歩いてんだ」
「まったく、王様からの呼び出しなんてなんだろうなぁ、、くだらない事ならぶっ飛ばしてやる!朝の売り上げってのはな!、、」
「はいはい、あんな町外れの場所じゃあ売り上げなんて、たかが知れてるでしょ」
「おぉ!?言うじゃねーかクソガキ」
冗談を言い合いながら二人ならんであるく、気がつけば王城の近く、人の気配がどんどん多くなった来ていた。
「それでさ、本当になんなんだろうね?国の人全員集めるなんて」
「まさか、他の国と戦争がはじまるとか物騒な話じゃなーよな」
「怖いこと言わないでよ、あ、見えてきた、」
「おうおう沢山いるなぁ、、」
目の前に沢山の人がごった返している王城、ではなくほとんどの人が王城前広場に集められている。
「「ん!?」」
その団体を目指して歩いていると、突然目の前に、広場中心の風景が見えた。二人は驚きのあまり立ち止まる
「おっちゃん、見えてる?なんか不思議な事が起こってるんだけど」
「おう、見えてるぞ、、なんか不思議な感覚だな」
目に写っているのは人混みだが、同時に違う景色、見えるはずのない広場の中心が目の前に写っているのだ。
「なんか、、目に張り付いてるみたいだね」
「これがあれだ!ガキ!魔法ってやつだろ!」
「あー、、なるほど、魔法かそれなら納得だね」
目の前ではなく、目に写る光景に意識を向ける、
「、、、、おっちゃん剣だ剣を抜こうとしてる」
「おうおう、見えてるぜ、真ん中の剣だろ?」
沢山の人が見守るなかで、筋骨隆々の男が顔を真っ赤にしかながら剣を引き抜こうとしている。だがしかし、その剣はびくともしない、
「もしかしてあれかな?王様の用事って」
「おいおいまじかよ!?こんなくだらないことのために俺たち全員集められたのか!?」
八百屋が太い手で目元を抑え天を仰ぐ、
「、、、いやおっちゃんまだ絶望する時じゃない」
「あ?なんでだよガキこれで朝の売り上げはまったくのなし!なのにこんなくだらないことのために待たせられるんだぜ!」
「静かに!いまから教えるから!」
そういうと少年は前にいる夫婦に話しかける。
「あの剣抜いた人は税免除で全て金いらずにするって本当?」
突然話しかけられたことに驚く夫婦、しかしすぐに男の方が少年に口を開く。
「あぁ本当みたいだよ、税の免除、全て金は払わなくていいようになるんだとよ!王様本人が言ってたんだ!」
「王様本人が!?そ、そっか、ありがとう!」
聞きに行った少年ですら驚くような内容だ、何せ剣を抜くだけで国の税は免除、さらにお金がいらなくなるのだ。
「まじかよ、、、あの剣を抜くだけでそんな施しがもらえるのか」
「そうみたいだね」
目の中に不自然に写るスクリーン、次は細身の女の人が抜こうとしている、もちろん剣をびくともしない。
(あの剣を抜いたら。母さんを楽させてあげられるかな、)
少年はそんなことを考える、女手一つで自分を育ててくれた母親
国の年々増える納税にもしっかり耐え不自由なく育ててくれた。
(抜けるといいな、、、)
「ほぉーガキまさかおまえが抜けるなんておもってんのかぁ?そんなひょろひょろの体で抜けるわけないだろ!」
がははと笑いながら少年の背中を叩く
「ちっ、、うるさいなぁ、、」
(そんなこと薄々わかってるよ、、、母さんにはまた今度お礼をしっかりしよう。)
ふと空を見上げる
「いい天気だ、、、」
空を見上げながらくもひとつない青空を見る、だが突然視線のはしに動くものがあった。
(、、、、雲か?にしてとても小さいしはやく流れて、、、)
その小さな影は急停止すると、次第に大きくなる。
大きくなっているのではない
落ちてきているのだ。
「おっちゃん!空から何か!降ってくる!」
「あ?なに突然大きな声だして、、、」
空から飛来した物体は、王城広場の真ん中に爆音を立てて落ちる!!!
「っ!!!」
あまりの音に耳と目を塞ぐ、だがすぐに目をあけ状況を確認する
「なっ、、何が、、」
「おい、、ガキ!逃げるぞ!!!!」
空から飛来した物体は広場にいた人たちを踏み潰し着地、目の中に写るスクリーンには地獄のような景色が広がっていた。
そしてそれは物体ではなく、生物であった。大きなスパイクのついたメイスを持っている。大きさは6メートルと言ったところか。
体についている脂肪のような肉は足を隠し妙に短足に見えている。
「な、、なんなんだあいつ、、」
人の波が押し寄せてくる、その異形の物から逃げようと全員が一目散に走り出したのだ。
その異形は肉で埋もれた目を凝らし人を見つけてはそのスパイクメイスで凪ぎ払う!!!!
辺りに真っ赤な血が飛び散り、欠損した腕や足、頭やどこのものかもわからない肉片が飛び始める
まさに地獄だ、地獄のような光景だ。
(おれも、逃げなきゃ!!!)
幸い広場の中心からは遠く人の波に乗って走り出そうと後ろを振り向く。
(まだ距離はある、逃げれる!)
だが少年はみてしまった。
目のなかに写る光景のなかに足から血を流し、、這いつくばり必死に逃げる母の姿を。
「かっ母さん!!!!!!!!!!!!」
「おい!ガキ!!!!どこに行くつもりだ!戻ってこい!!!」
少年は振り向いた足を戻し!人の波に逆らうように走り出す!必死に!
「ぐっ!!!!あっ!!!!」
何回も人にぶつかる、邪魔だと手で払い除けられる転びぶつけた箇所に血がにじみ始める、
「くそっ、くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
しかし少年は走り出す!目のなかに写る地獄の中の自ら身を投げ込むために!母を助けるために
中心に近づくに連れて、酷い臭いが鼻をつくきはじめ
目のなかに写る景色と目の前の景色が重なる!!!
ぜぇぜぇと息を切らしながら見渡す異形から距離はまだあるがすでに地獄の中、逃げ遅れ、怪我をした人が次々とその異形によって肉片にされていく、その光景がまさに目の前に広がっていた。
「かっ、、母さん!!!母さん!!!」
(まだあいつからは距離がある、はやく見つけて助けないと!)
少年は必死に目を凝らす、剣の近く、人でつまり始めた通路入り口付近、綺麗だった花壇の近く、次々と見ていく
(くそっ母さん!どこにいるんだ!さっきまで花壇の近くに、、)
ふと少年は異形を見る、一番避けていた異形をみる
その体は岩のような皮膚であるが、でっぷりと太り腕のしたから羽のような翼膜がついている
その異形は足をあげて下で苦しむ人たちを踏み潰している
(まさか、、そんなことは、、まさか、、まさか、、)
まさに潰される瞬間、その目はとらえた、
踏み潰ぶされひしゃげる母の体、足の下に消えた母の顔を
「っ!!!!!!おおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
その光景を見た瞬間、恐怖は消え去り自分の何倍もある異形の元へと少年は走り出した!
(死ぬことはない!!!人間は不死身だ!だが!母さん!!!)
足下に転がる肉片を蹴り飛ばし全速力で走る!
(死ななくても痛みはある!!!!!)
異形はその少年に気がつき体の向きを変える、少年の母を踏み潰しながら、汚い声で笑う
「くそ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
笑いながら異形は自分と同じサイズはあるスパイクメイスをふりおろす!煉瓦で整った地面が抉れ凄まじい音が響く!!
「っ!!!!!!!!!」
少年はとっさに横に飛ぶ、しかし抉れ飛んできたいしつぶてと風圧に当てられ吹き飛ぶ!
ごろごろと転がり受け身をとり、体制を建て直し、顔をあげる
目の前には巨大な異形と、、、地面に突き刺さる剣が見えていた。
(剣!!!!!!!これが抜ければ!!!)
力を足に込めて走り出す!少年の思考は様々な事を考え始め、やがて視界がスローモーションになる
(あんなに、筋骨隆々でも抜けなかったんだぞ、俺に抜けるか)(抜けなきゃ戦えない!母さんをたすけられない)(抜いたところでこんなやつに勝てるのか?)(いいや、人間は不死身何度でも立ち上がって、、、)
「殺してやる!!!!!!!!!!」
少年が叫び放ち走りながら剣に手をかける、するといままでピクリとも動かなかった剣がするりと地面を離れ、少年の手に収まったのだ!
瞬間少年の腰に鞘が巻き付く、そしてその剣は太陽の光を受けながら妖しく煌めき地面から擦れ出た金属音を響かせる!
「おおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
少年は剣を両手にもち叫ぶ!だが異形も待ってはくれない、すでにスパイクメイスを振り上げていた!!!!
風を切り裂きながらスパイクメイスが横凪ぎに振られる!!!
「!!!!!!!」
異形の腹を裂こうと必死な少年は自分を肉片に変える一撃を見逃していた。気づいたときにはもうすでにすぐ近くまできていたのだ!
(あっ、、、おれ、、やられる)
スローモーションな視界の中で、体を肉片に変えられる痛みを想像していた。吹き飛ばされ肉片にされる想像を
だが
スパイクメイスは少年の体に当たる瞬間青い光が炸裂し少年の頭上を空振りする!
(な、、なんで痛くないんだ、、、いや、そんな事を考える時間はない!!!)
少年は考える事をやめ咄嗟に走り出す。異形との距離はすでに近く!左足で踏み込み思い切り剣を握る!
「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
あらぬ方向にスパイクメイスがずれ、体制を崩した異形に妖しく煌めく剣が異形を切る!それはあまりにも小さな一撃であり異形の膨らんだ腹に浅い切り傷をひとつつけた、だけであった。
(次を!次の一撃を!)
少年は慣れない体制で横に凪ぎ、その勢いで転んでしまっていたすぐ立ち上がり二発目をいれようと異形に向き直る。だが、、、
(、、、、なに、、、死んでる?、、、)
異形は既に倒れ伏していた。その巨体はピクリとも動かなくなり生気すら感じられない。
(なぜ動かない、、こんなので死んだのか、こんなに大きな奴が、、、)
しかし死んでいるか確認する余裕はなかった。少年は異形の足元、母親の元へ駆け寄る
「母さっ!!」
少年は悲惨な光景を見てしまった。自分の知っているはずの顔はぐちゃぐちゃになり、体のあちこちから訳のわからないものが沢山出ていている。分かるのは踏まれていない左手と母親の服装だけ、血まみれになり見るも無惨な姿をしている。
「母さんっ、、母さっ、ウッ」
我慢できず腹から込み上げる物を吐き出す、朝食べたジャムが吐瀉物を綺麗に染めている。
「ゴホッゴホッ、、母さ、、母さん、」
何度も嘔吐しながら母を呼ぶ
(人間は不死身なんだろ!!!動いてくれよ!!!)
少年が力強く左手を握るといままでピクリとも動かなかった母の左手がうごいた、さらにぐちゃぐちゃになっていた顔もすこしづつ戻っているではないか、
「母さん!!!っっっ!」
しかしそれはあまりにもおぞましい光景である、血まみれの肉がうごめきながら徐々にもとの場所に戻り皮膚もすこしづつ止まった肉の上に出来てきている。
(母さん、、ごめん!)
少年は心のなかで謝ると目をつぶった。そのおぞましい光景をみてられなくなったのだ。
握っている左手が握り返してくる感覚と、周りの喧騒と、うめき声が少年を襲っていた。