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本当にあったお引っ越しの話

作者: 森 杏

 旦那の転勤により引っ越しが決まった。というか、旦那の勤務していた営業所が成績不振の為閉鎖が決まったので違う営業所にまわされるというお話。

 

 会社の借りているアパートに入れるとの事で、自分たちで住むところ探さなくて良かった事だけはラッキーだった。


 旦那が下見をしてきたが、「ロフト付きでいい感じだったよ。ここよりも少し狭いけど」との事だった。

 じゃあ私がロフトで寝る、と少しウキウキ気分。「ベランダもあったぞ」の旦那の言葉に尚更ウキウキの私。今住んでるアパートにはベランダもバルコニーも無く、年中部屋干しを余儀無くされていた。憧れのお日さまの匂いのする洗濯物、やっと出会えると思うと凄く嬉しかった。実は私、趣味はお洗濯です。

 

 「まだ荷物あったけど」

 ん?旦那の言葉に不安を覚える。

 「前に住んでたヤツは会社の金持って逃げたんだって。だから荷物そのまんま」

 「私達入る迄には片付けてくれるんでしょ」

 「そうじゃなきゃ困るよ」

 

 一抹の不安を残し、引っ越しの日がやって来た。


 引っ越しには次に行く営業所の人も来てくれて、一時間程離れた新居へ無事到着した。


 外観はパステルカラーの壁に白いベランダ、まだ少し新しそうだ。結構可愛いじゃん、と一目で気に入った。


 さあ、新生活が始まると、期待をこめて玄関ドアを開けると、

 「!!」

 玄関前の床には酒の空き缶、空き瓶が山になっていた。

 何か変な匂いがした。

 部屋の中に入る。……最初に目に入って来たのはソファーベッドだった。他にカラーボックス二個、小さな机があった。


 キッチンを……見てしまった……。ワンルームなので部屋の片隅に水道、コンロ、その下に棚と備え付けの冷蔵庫があった。前の住人が電気を止める手続きをしなかったようで、モーターの音がしていた。コンロ周りの壁は黄色かった。コンロは油まみれだった。流しは異様な匂いを放ちつつ、水垢、カビ、そして前の住人の食生活の一端が垣間見える生ゴミが……。

 棚を開けるとゼリーか何かの空き容器が重なっていた。冷蔵庫の中にはチーズが入っていた。


 大きなクローゼットがあった。開けたくないが開けてみた。

 今は懐かしいブラウン管テレビさんがいた。その横には薄型テレビの入っていたであろう段ボールがあった。あとは会社の制服やら靴やらがわらわらと出てきた。


 しばらく部屋の中を歩きまわっていた私の靴下の裏は真っ黒だった。白い靴下を履いてきた事を後悔した、物凄く。


 そこへ旦那が荷物を持ってやって来た。いきなり布団を床に下ろす。

 「何するのよ!」

 怒鳴ってしまった。

 「何って、荷物運んでんだろ」

 旦那が少しムッとした。

 「これ見てよ」

 靴下の裏を見せると、さすがに旦那も事態が飲み込めたようだ。が、

 「このあと仕事に行かなきゃいけないから忙しいんだ」

 そういうとどんどん荷物を運び入れて来た。


 あわてて床に新聞紙やらビニール袋やらを敷き、その上に荷物を乗せた。


 荷物を運び終えた旦那は汗を流すとシャワーを浴びに浴室に入った。

 石鹸やタオルを荷物の中から慌てて探しだし浴室に行った。

 「ん?」足ふきマット、いつの間に出したんだろうと思った。今まで使っていたのと同じマットだ。でも、そんなはず無い。洗濯物一式、まとめてあったはずだ。これはウチノジャナイ!

 水虫とか移されちゃたまらない、とさっさと撤去。

 石鹸を渡そうと浴室のドアを開けると……全て揃っていた。シャンプー、ボディーソープ、体洗うスポンジ、椅子……。さすがに旦那は使っていなかった。後で片付けようと心に決めた。


 ついでに隣のトイレのドアを開けてみた。完全装備でした。便座カバー、蓋カバー、トイレマット、掃除用具一式、トイレットペーパー予備あり、ペーパーホルダーカバーも付いていて……。

 全てゴミ袋に放り込みました。


 旦那は急いで支度をし、仕事に出掛けました、私一人残して。


 兎に角夜寝られるようにしなきゃと、床の雑巾がけをした。一回ではとても綺麗にならず、二回、場所によっては三回拭いた。


 何とか布団を敷けるようにし、荷物はまとめておき、私もシャワー浴びたいな、あ、その前にお風呂場片付けなきゃとゴミ袋を持ってお風呂場へ。

 ……足を踏み入れると、滑った。ヌルヌルしている。壁は黒かび、床はピンクかび、換気扇は埃だらけ。排水口には毛……。


 その後泣きながらお風呂掃除をした。


 綺麗になったお風呂場でシャワーを浴びさっぱりし、疲れたのでちょっとお昼寝タイム。


 目を覚ますと暗くなっていた。電気を点けて驚いた。天井が高かった。さすがロフト付き、と思った。部屋は狭いが天井が高いのでそんなに狭さは感じなかった。


 そういえばロフトにはどうやって登るんだ?ハシゴが見当たらない。ロフトを見上げると……上にハシゴらしきもの発見。でも私にはとても届きそうに無いので、旦那が帰ってきたら取ってもらおう。


 窓の外は綺麗な夕焼けだった。あ、ベランダに出てみよう、と玄関からサンダルを持ってきてベランダに出た。

 今日は疲れた、明日もやる事いっぱいだな。夕焼けでも見てしばし癒されよう……。

 手すりにもたれ空を眺めていた。ふとベランダの隅に蛇口を発見した。洗濯機置き場だった。干すところは、と上をみるがそれらしき物は無い。よく見ると、手すりに物干し竿をかける金具が付いていた。低いタイプか、とガッカリした。これではTシャツとかをハンガーに掛けて吊るすと、下に付いてしまう。どうやって干すんだーと叫びたかった。


 「ただいま」

 旦那が帰って来た。

 言いたい事沢山あるけど、兎に角今日は疲れた。ご飯を食べて早く寝たい。

 近所の牛丼屋さんで夕飯を食べた。


 お腹がいっぱいになり後は寝るだけの態勢に入った。布団は二つ並んで敷いてある。

 「ロフトで寝るんじゃ無かったの?」

 「並んで寝るのやなの?」

 「そうじゃなくて、ロフト楽しみにしてたみたいだったからさ」

 「うん、でもハシゴが上にあって取れないんだ。まあどっちみち雑巾がけしてからじゃないとやだから、また明日だな」

 「そうなんだ。ハシゴだけ下ろしといてやるか」

 そう言ってロフトから結構苦労しながらハシゴを下ろした。木で出来た、かなり重くしっかりしたハシゴだった。

 「これは丈夫でいいねー」

 とハシゴを登ってみた……



 ロフトに布団があった。

 真っ黒に汚れた枕があった。


 枕元に


 盛り塩があった……


 その向こうに線香が立ててあった。


 「ぎゃーーーー!」

 

 慌ててハシゴから下り、

 「片付けて、片付けてよー」


 旦那に頼んで外に放り出して貰った。


 あれから半年、未だにロフトには上がっていません。多分これから先も。

 ていうか、早く引っ越そうよって旦那にプレッシャーかける毎日です。


 ほぼ本当にあったお引っ越しの話でした。 

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