心は恋に揺れるもの
ふるべ、ふるえ、揺ら揺らと。
あやし、おかし、いと尊し。
心はいつも揺れている。
何かの因果で揺れている。
誰かの為に、揺れている。
自分にも不思議のままに、
どうして揺れているのか分からぬままに、、
でもそのことを無性に尊く感じさせたまま。
そうして心は日々に揺さぶられる。
でも何よりも。
私の心を揺らしているのは、なに?―――――――
◇ ◇
初めの印象は”泣いている男の子”
誰よりも話すことが苦手で、だから話せない自分が悔しくて泣いていた。そんな強がりな男の子の姿。
泣いているのを見ることが悲しくて、ついつい言ってしまった一言。
「大丈夫。無茶しなくていいよ。頑張ってるのは分かってるから」
お父さんの仕事の都合で、新しい幼稚園に転入したてで不安ばっかりを抱えていた私
自分だって不安だらけで、不安定になってるくせに。
他人の心配なんてできるようなまっとうな状態でもないくせに。
どうしてもその姿を見て言わないではおれなかった。
思えばそれが、最初の転換点だったのだろう。
君はその後、私の後をついてきた。
すぐに話せるようになって、誰よりも流暢に話して。
時に一緒に怒られて、時に一緒に遊んで。
時につまらない喧嘩して。
君は私の不安を、ゆっくりと安らぎの中に埋めていった。
揺らいでいた心は君の誠実さに包まれて。
私の中で君は特別になって。
二人してお祭りに行ったとき、永遠を誓い合って。
そうして、私たちはお互いに特別になった。
君の背が少し伸びて。
私の背がそれよりも少しだけ伸びて。
私たちは同年代の子供たちの中へと入れられた。
でも私は困らなかった。
君がくれた安らぎと特別は、私の根っこを強くした。
誰かと会話することは怖くなかった。
どんな人でも、私の心を揺らがすのに足りる人はいなかった。
君が支えを作ってくれた心は、誰にだって揺らがせることはできなかった。
私はそれが誇らしかった。
胸一杯の嬉しさと満足が私を包んだ。
「これは君のお蔭なのだ」と大きく叫んで主張したくなるほどに。
そうして私が浮かれていたら、いつの間にか。
周りには私と同じ目線の人はいなかった。
◇ ◇
気づいたときにはいなかった。
同じ目線で、同じ思考で。
私を”自分と同じ人”として見てくれる人は周りからは消えていた。
誰もが私に理想と幻想を見て、等身大の私は無視された。
真実の私はとても卑怯だった。
本当の私はとても狡猾だった。
誰かに清いと賞賛され、誰かに聖女とたたえられ。
でも実際は、ズルいだけの子供だった。
私は私にとって一番大切なものを持っていて。
君にだけ信じてもらえていれば、誰とだって向き合えた。
怖いものなんてなかったし、辛いことだっていとも簡単に乗り越えた。
それをズルと呼ばずしてなんというのか。
少しだけ早く知った世界の秘密が、私をひとりぼっちにした
◇ ◇
孤独の中に生きていて。
惰性のままに、誰かが作った幻想を律儀に守って。
このまま誰も自分を知らない場所へと行きたくなって。
けれど知らない世界は脆弱な心には恐ろしすぎて。
不安で振り返った時、ようやく私は待っている君に気付いた
いつも、いつも、いつも。
不安で振り返った私の視線の先にいた君は誰よりも努力していた。
私とも違う形で。皆とも違う場所で。
誰もが私を遠くへ置いて。
誰もが私を理解しない。
そんな世界で、君だけが私と対等にあろうとしてくれた。
どこまでも追いかけてきてくれた。
そして私を見て、私に届いて、私の心を揺らすのは君だけになって。
ああだから。
いつも空を眺めている君を縛り付けてしまいたい。
誰よりも努力家な君を、私の物にしてしまいたい。
「好きな人ができた」
そう君に告げて、反応を窺って。
君が今でも私を好きかを確認なんてしたりして。
いくつもいくつも網を張って。
何をしてでも君を私のものにしたい。
私を一番揺らすのは、君。
だから私は君を絶対に逃がさないのだ。
近日中に活動報告に作品解説とあとがきを予定。