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ムゲンの星空  作者: 左藤
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その二:み、み、み。

 男の名前はイズルゥと言うらしい。ここからおよそ五百光年離れたところにある、リュ…ええと、リュキャミャンショ?星とかいうふざけた名前の星の住人だそうだ。私が情報を叩き込まれたあの情景の星である。


 そのリュキャミャンショ星の彼がなぜここにいるのかというと、彼らのお隣のホニャンコロボレ星系のアッポロノンマ星人が、戦争で負けたので、もう面倒だから手近な居住可能惑星を攻撃して、逃げ込んで征服しちゃおう! 未開文明だから余裕だろ! というはた迷惑な行動に出たからであった。


 本来ならば、イズルゥの星としては迷惑な隣人がお引越しするということで、別に悪い話ではないのだが、それなりの良識を持ち合わせていたリュキャミャンショ星人は、それ良しとせず、いわばとばっちりで軽く滅亡の危機に瀕している地球に救いの手を差し伸べようということになったらしい。


「それでもうすぐ、奴らの無人攻撃艇(アニョロン)が到着する。それが」

「来月ってわけ」

「そうだ」

「意味分からん」


 てか何だよアニョロンて。説明されてもひ弱な印象しか受けないよ。そんな素直な私の言葉にイズルゥが眉をひそめる。すいません、性分なもんで。


「そもそも、どこでどうなってそれが私に関係するのか分からないんだけど」


 別に私には某光の国からやってきた超人と協力してカップ麺が出来上がるまでという無茶振りもいいところの制限時間内に敵の怪物と戦って勝利をもぎ取るような特殊な能力は無いと思うのだが。


「ヒカリノクニ…? どこの惑星だそれは?」

「気にしないでください」


 っていうか私の質問の答えは?


「ああ、貴女に助けを求めた理由、か」

「そうそう」

「実はこの体は、俺の本来の体ではないんだ。フニョラリン、訳すと、そうだな、精神感応装置、か。その装置を使って、意識をこの体に飛ばしている」


 じゃあ昼間のお巡りさんが、この体の本来の持ち主ってわけね。


「そういうことになる」


 つまり、この体の本来の持ち主を眠らせて、体を借りているんだそうだ。しかもどうやっているのか知らないが、体を返すときはしっかり疲労回復させているものだから、宿主はすっきりさっぱり爽やかな目覚め、夢遊病者のごとくふらついてるなどとは気付かないし、まあ多少眠る時間が早くなっても、疲れているのだろうと思う程度で、気付かれないのだという。


 そうしてお巡りさんの非番のときを狙って体をのっとり、私に迷惑この上ない台詞を吐きつけていたらしい。だが、お巡りさんにも生活があるし、昼間に意識をなくしたらさすがに不自然だ。


「なるほど、だから、あんまり動き回れないから、私に協力を仰ぐと」

「そうだ」


 それにしてもお巡りさんも良い迷惑だな。いや、むしろ最初から地球人には迷惑でしかないが。


「でも何で私?」

「貴女には適正がある」


 おおう。さっきまで超展開の連続だったのに、何だか王道の影がちらほら。ついに私の隠された素敵パワーが覚醒するのか、そうなのか。


「? いや、貴女はいたって平凡な人間だが」


 平凡って酷い言われようだな。普通と大して意味違わないのに平凡と言われたほうが心抉られる不思議。


「俺がこの体を借りているのも、この体に適正があったからだ」

「適正って何ですか?」


 そう聞くと、男は突然口を大きく開けた。突然の奇行に呆気に盗られていると、


 っ!?


 私は、身を強張らせる。もう、これは音ではなく、まさにそう、衝撃波(インパルス)


 や、や、や、


「やめろドアホーっ!」


 叫んだ私に、イズルゥは分かりやすく「?」と首をかしげて私を見た。どうやら意味が分かっていないらしい。私はというとわなわなと体を震わせて、


「み、み、み」

「み?」

「耳が潰れるわーっ!」


 そう、このイズルゥ、良い子ならそろそろ眠りに着いているだろうこの界隈で、あろうことか、突然唄いだしたのだ。いや、百万歩譲って、それならまだ良い。だが問題は、


「どんだけ下手なんじゃボケェ!」


 私はもうあまりの衝撃にキャラ崩壊をきたし始めている。しかしイズルゥは、


「これが適正なんだ」


 と涼しい顔。


「…ちょっとまて、それじゃあもしかして」

「貴女にも同じ適正がある」


 これって、もしかしなくても『お前は音痴だ』って言われているのか? そういえばキョーコとカラオケに行ったとき顔が引き攣っていたように見えたのや、最近はもう誘われすらしないのは気のせいではないのだろうか?


「…それは知らないが、確かに音程が重要だ。起動シークェンスのキィは、複雑な音波の集合だ。常人の発声と音程では、音の組成が単純すぎて起動に使えない」


 はいはい、私の歌は騒音ですよ。


「…。このため、無人防衛機構(ヒョナレイ)を起動するための特殊な音波は、限られた人間にしか出せない。本来なら専用の音声端末も送ることが出来れば良かったんだが…」


 時間が無く、そのまたしてもどこか頼りない名前の機器をいくつかと、自分の意識を飛ばすのが精一杯だったという。


「光速の壁は分厚いんだ」


 むしろその壁をぶち破る方法が知りたいよ。ギブ・ミー・ノーベルプライズ!


「それは機密だ」

「ですよねー」


 うん? なんか話しが逸れている気がするけど、私の精神衛生のために忘れたほうが良さそうだ。


「要するに、私がそのなんちゃらという機械を起動するのに適した声の持ち主であると」

「ああ。今から他の人間を探すのは、恐らく間に合わない」


 なるほど。なんか色々突っ込もうと思えば突っ込めそうだけど、筋が通っていなくも無い。いや、良く分からん。もう頭いっぱいいっぱい。パァーンってなりそう。


 で、もう面倒だから聞くけど、


「具体的に私はどうすりゃいいわけ?」

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