『囚われのお姫様』
あるところに、気まぐれな悪い魔女にさらわれて、
雪の国にある、高い氷の塔の最上階に囚われた、
とある国の、美しいお姫様がいました。
このお姫様には、塔から少しでも外に出ると、
見るもの聞くもの全てが、
正しく見えず、正しく聞こえないという、
恐ろしい呪いがかけられていました。
ある日、遠征の果てに辿り着いた国の兵士達が、
お姫様を助けに来ました。
兵士達は、お姫様に助けに来たことを伝えようと、
大声で呼びかけました。
外から聞こえる声に気付いた、お姫様は、
それを確認する為に、窓から顔を出して、
下を見ました。
しかし、お姫様が目にしたのは、
塔の下に群がっている、不気味な怪物の群れが、
こちらを見上げていて、
怪物共は、そこから飛び降りて、俺達の餌になれと、
罵る恐ろしい声が次々に、聞こえてました。
お姫様は怖くなって、小さな窓を閉めてベッドに隠れて、
怖くて震えていました。
この後、窓を閉める音で、兵士達に気づいた魔女は、
魔法で兵士達を、追っ払ってしまいました。
またある日、今度は隣の国の王子様が、
遠路はるばる単身で、お姫様を助けに来ました。
王子様は、お姫様のいる牢の小窓へ向かって、
小石を投げて、救出に来たことを知らせながら、
魔女に気付かれないように、
静かに氷の塔を、よじ登り始めました。
外から聞こえる物音に、気付いたお姫様は、
それを確認する為に窓から顔を出して、下を見ました。
しかし、お姫様が目にしたのは、
不気味な目玉を手にして、
今まさにそれを、投げつけようとしている、
恐ろしい姿の悪魔が、
気味の悪い顔で、あざ笑っているのが見えました。
お姫様は怖くなって、小さな窓を閉めてベッドに隠れて、
怖くて震えていました。
この後、窓を閉める音で、王子様に気づいた魔女が、
魔法で王子様を塔から落としてしまい、
王子様は、大怪我をしてしまい、逃げ帰りました。
これ以降も幾度となく、救出の手は差し伸べられましたが、
お姫様にかけられた呪いのせいで、全て失敗に終わり、
救出へ向かう者たちの数は、日増しに減っていきました。
やがて月日は流れて、お姫様の存在は忘れられていき、
お姫様も、半ば諦めていました。
ある日、お姫様は窓から、
空を飛ぶ、大きな鷲の姿を見ました。
あの大鷲なら、私をここから、
救い出してくれるかも知れない。
お姫様はこれを、最後の希望と信じてみる事にしました。
お姫様は、大鷲が助けに来てくれる事を願って、
毎日祈りました。
お姫様の願いが通じたのか、大鷲は日が経つごとに、
こちらへと、近づいてくるようになり、
ある日ついに、窓の外の柵に止まりました。
お姫様は喜んで、
魔女のいない隙にと、急いで窓から身を乗り出して、
大鷲の足につかまろうとして、
その姿を見てしまいました。
その時、お姫様が目にしたのは、
大きな鷲ではなく、小さな蝙蝠でした。
その蝙蝠は、お姫様に向かって、
もう誰も、お前を助けには来ない、
みんな、お前の事など忘れたのだ、
と、お姫様を罵りました。
お姫様は、その言葉に、
やはりこれも、失望させられるだけだったと、
最後の希望を失ってしまい、
ここまで繋ぎ止めていた心は、ついにくじけて、
窓から身を投げてしまいました。
蝙蝠はその鉤爪で、お姫様に掴みかかってきましたが、
お姫様はそれを振り払い、あとちょっとの所で届かず、
お姫様は地面に落ちて、死んでしまいました。
お姫様が最後に見たのは、紛れもない大きな鷲で、
その正体は、大鷲に姿を変えた、
魔法使いの弟子だったのに。
魔法使いの弟子は、貴女を助けに来ました、
祖国では多くの人々が、貴女の帰りを待っています、
と伝えたのに。
身を投げたお姫様を、必死で救おうと、
急降下して、追いかけたのに。
全ての善意は、魔女がかけた呪いのせいで、
歪んだ悪意としてしか、お姫様には届く事はなく、
こうして、気まぐれな魔女の悪戯により、
一人の罪もない、お姫様の人生は、
短く、そして不幸に、幕を閉じました。