嫌がらせばかりしてくる彼とは離れて正解でした。おかげで、今、こうして穏やかに幸せに暮らすことができています。
私イリーナは、今、ラウィンズという青年と夫婦になり、穏やかに暮らしている。
元々の趣味だった花を育てることを楽しみながら、地域を収める彼の仕事を手伝うなどして過ごす日々は、派手さはなくても確かな幸福に満ちている。
「パンケーキ焼いてみたよ!」
「ありがとうラウィンズ」
「今日はさ、前に言ってたベリークリームかけておいたからね」
「本当に!? とっても嬉しいわ!!」
「良かった。喜んでもらえて、僕もすごく嬉しいよ」
ラウィンズに出会う前、私には別の婚約者がいた。
彼は意地悪なところのある人で、会っても優しくはしてくれなかったし、何なら逆に嫌みを言ってきたり不快な思いをさせるような態度を意図して取ってくるようなところがあった。
名はガイアといったか。
私より二つほど年上だったのだけれど。
彼は私を良く思っていないようで、やたらと嫌がらせをしてきていた。
ある時は、紅茶に変な味がする野菜の汁を入れてきた。
また別の時には、複数人でティータイムを開催するから高級なドレスを着てきてほしいと嘘の連絡をしておいて一人だけ高級なドレスを着てきた私を参加者皆で馬鹿にして笑った。
他にも、お泊り会を急に開くと言い出しいきなり過ぎるため無理だと言えば友人らにありもしない噂を広めたり、私が大事にしていたアクセサリーを騙して奪い取り売り払ったり、もうとにかくいろんな意味で酷い人だった。
そしてやがて告げられる婚約破棄。
『お前みたいな無能、俺には相応しくない!』
そんなことを言っていたような気がする。
ただ、私としてはすごく嬉しかった。これでもう嫌がらせを受けなくて良くなるのだと思うと胸の奥に安堵感が広がって。思いを悟られないよう気をつけはしたけれど、その時のホッとする感じというのはとてつもなく大きなものであった。
「ベリークリーム、どう?」
「最高よ」
「新鮮なベリーが手に入ったからさ、前と同じ感じで作ってみたんだ」
「甘さと酸っぱさのコラボレーションがすごくいいわ」
「シロップもうちょっと増やす?」
「いいえ、今でちょうどいい感じよ」
「そっか。なら良かったよ。もうちょっと足したい、ってなったら、遠慮せず言ってね」
意地悪の塊のようだったガイアだが、私との婚約を破棄した数日後にこの世を去ったと聞いている。
改めて結婚相手を探し始めた彼は、一人の女性を非常に気に入ったそうなのだが、勢いのままに会いに行ってしまい、物事の順序を守らなかったために酷く叱られて――しかも女性自身から心ない言葉をかけられてしまい――それによって心が折れ、自ら命を絶ってしまったのだそうだ。
驚くくらいあっさりとした最期であった。
あれほどまでに性格の悪い人物であれば、なんだかんだで強くしつこく生き延びていきそうなものなのだが。
そういう意味では、彼の最期は、私の想像とは違っていた。
「あとこれ、ヨーグルトもあるよ。味に変化を付けたい時に」
「素敵ね!」
だが、ガイアが私の前から去ってくれたからこそ今の夫ラウィンズと結ばれることができたのだから、その部分だけはガイアに感謝している。
「酸味アップ、って感じ?」
「うん!」
「ありがとう。途中から試してみるわ。パンケーキにヨーグルトっていうのも美味しそう、試すのが楽しみだわ」
「前にちょっと試してみた時は美味しかったよ」
「ラウィンズがそう言うなら、もっと楽しみになってきたわ」
私はこれからもラウィンズと共に生きる。
どんなことがあっても折れない心で。
真っ直ぐに未来を見つめて。
大切に想える人と共に明るい人生になることを信じて歩む。
誰にも邪魔はさせない。
「あ、これ! ヨーグルトがけ、美味しい!」
「だよねー」
「さすがね! ラウィンズ、センスある!」
「やった。嬉しいな、褒めてくれてありがとう。次はヨーグルトメインでのパンケーキにも挑戦したいな」
◆終わり◆




