1.異世界転生
人は寝ている時考えている事が夢になることがある。
寝る前恋する相手人の事だけを考え寝れば、その人と夢で会うことが出来たりもする。
夢とは脳が今まで経験したこと考えた事を整理する際に見るらしい。
逆を言えば、自分の想像の範疇からかけ離れた夢は見ることは出来ない。
見たこと無い風景や知らない事実を夢で知ることは出来ない。
俺は目の前に広がる光景に唖然としていた。
部屋の広さは近所にあった公園程あるだろう。
床には赤い絨毯、目の前を真っ赤に染め上げ階段の先の豪華な椅子下まで続いている。
絨毯横を見ると騎士と見られる者達がずらりと並んでいる。
天井には豪華なシャンデリア、デカすぎる窓
(これは、夢じゃないよな)
俺は目の前の光景に圧倒されながらそれだけは確信できた。
なぜなら、視界に入る生き物は全て獣人なのだ。
俺は生前獣人に対する興味、性癖はこれっぽっちも無かったので美しいそのデフォルメに感動しながら奴らを初見であることを確信していた。
ふと、横に目をやるとつり目の男が裸で座っていた。
ふぅ、どうやら彼は人間らしい都合良く全裸でいてくれたので分かりやすかった。
(って、俺も全裸かよ)
慌て俺が恥部を隠すのと同時に、目の前の如何にも偉そうな立派な椅子に堂々と座る、たてがみの獣人が話し出した。
「なぜ人間が召喚された。これは我を愚弄する余興か何かであるか?」
「陛下!!申し訳ございませぬ!
確かに書物には王家の血液で陣を描けば良いと書いてあったのです!」
階段横で跪き頭を膝より低く下げた年老いた狼の様な獣人が懸命にこの状況を説明している。
「セグニ貴様が責任を持って、もう一度書物の解読を進めろ。次は無いと思いたまえ。」
どうやら、この偉そうなたてがみの獣人が王であるらしい。
「ご寛大なお言葉ありがたく存じます。
ライネル陛下の仰せのままに」
セグニと呼ばれた老狼は頭を下げたまま感謝の意を述べた。
「こいつらは牢屋に入れておけ」
たてがみ獣人のライネル王がそう宣言すると、周りの騎士達が一斉に俺を囲み、連行し始めた。
「ちょっ、やめろ!どういう状況だよ説明してくれ! 」
言うも虚しく俺を掴んだ腕は動かそうともビクともしなかった。大人しくするしかなさそうだ。
「ンアァァ!?殺すぞお前ら!触るなっっ」
瞬間、一人の騎士が大袈裟に金属音を立てて転んだ。
つり目の男が騎士の1人を振り払った様だ。
この時騎士達がやけに動揺している様に見えたのを覚えている。
「何をしている、さっさと運べ」
ライネル王からそう命令されるとそそくさと騎士達は俺とつり目を運んだ。
近くで見るとやけにでかい騎士に両腕を引っ張られながら、俺はこの信じがたい状況をどうにか理解する様に努めた。
最後に覚えているのは車の運転だ。
毎度の如く残業続きでほとんど寝ていなかった。
あれは、深夜4時に仕事を終えて帰宅している時。
確か大きな道路同士の交差点で遠くの青信号を確認した。
安心して数百メートル前から意識が飛んだんだ気がする。
その後は良く覚えていないが、およそ聞いたことのない轟音が聞こえて一瞬視界の端に2tトラックのヘッドライトの様なまばゆい光が見えた気がする。
(...あれが確かなら俺は、一度死んだのか?)
なるほど、これが転生というやつか。
俺は自分が一度死んだという仮定を軸に不確定ではあるが、この状況の推測をした。
そうこう考えている内に2メートルはあろう大きな扉の前に出た。
「王の命により、近衛兵6名は牢屋へと向かう。扉を開けよ」
騎士の中で先頭を歩いていた騎士が声高らかにそう宣言するとギシギシと音を立てて扉がゆっくりと開いた。
扉が開ききると、また騎士達はつり目と俺を先導しだした。
「すみません、私たちはあなた方に何か悪いことをしたのでしょうか?牢屋に入れられる覚えが無いのですが」
おそるおそる俺たちを先導する騎士の一人に聞いてみた。
話しかけられた騎士は上からギョロリと鋭い目で俺の方を向いた。
その時、兜の中が初めて見えたのだがこの騎士も獣人だった。
「お前らニンゲンの分際で大事な儀式の邪魔をしたからな、王がお怒りになるのも最もだ」
「それはそれは、心から申し訳ない限りなのですが、儀式の邪魔と言うのはどういった事なのでしょうか。やはり、身に覚えがないのですが。」
どうやら、話してくれそうなので続けて質問してみた。
「うるさいな、黙って歩け毛無し」
どうやら、立て続けに質問したことが良くなかった様で後方を歩く騎士に背中を蹴られてしまった。
激痛でその場にうずくまりたかったが、別の二人の騎士両腕を捕まれているので歩くしかなかった。
さらに、最悪なことに、これ以降騎士達は話してくれる気配は無かった。もう一度蹴られると意識を保てる自信が無いので話しかける勇気も自分には無かった。
王城から出て城壁沿いにしばらく歩くと黒い石で出来た巨大な四角形の建造物の前に出た。
鉄格子の門の前で俺とつり目は横並びで立たされると先頭を歩いていた騎士が巻物の様な書物を広げ俺達に刑期の説明を始めた。
「お前らにいくつか必要事項を説明をしておく。
お前らの刑期は30年だ。上手くやれば最短30年後には外の空気を吸えるだろう。
刑期をしっかり全うすればその後は、城周辺のゴミ拾いとして雇ってくださるそうだ。
王に感謝するんだな。」
なるほど、どうやら俺の異世界生活は初日にして
バッドエンドで終了するらしい。
前世でブラック企業に勤めていた時は運が悪かったと思っていたが、俺が社畜になることは神様の確定事項のようだ。
「30年、あまりにも長い年月ですね。」
俺はショックのあまりそう呟いていた。
「当たり前だ、国の存続を賭けた儀式を台無しにしたのだからな、すぐに殺されないだけ感謝しろ。
何か質問はあるか」
ぶっきらぼうに騎士がそう言ったのですかさず質問をしてみることにした。
「あの、ひとつ質問があるのですがこの国に人間は他にいないのですか?」
騎士は鼻を鳴らしてこう答えた。
「フンッ、実に低能な人間らしい質問だな
人間はこの国、というより大陸全土で最も数が少ないと聞く。
なぜなら、低い知力、筋力お前らニンゲンはどいつも無能すぎて国に必要ないからな!
中々繁栄出来ないのさ。奴隷になる事すら難しいのだぞ。
我が国、『ムファサ王国』では王の意向でたとえニンゲンであっても殺しは禁止されている。ニンゲンの命が保証される数少ない国の一つだ。
まぁ、『ムファサ』にいても精々なれて奴隷なんだから、ニンゲンにとって牢屋に入る事ってのは幸せな事なのかもな!」
「なるほど、この世界に人間の居場所は無いんですね。それは愉快。」
あまりにも絶望的な状況に笑うしかなかった俺は、新しい異世界での牢屋生活を想像して深いため息をついた。
そんな絶望の縁でつり目の様子をうかがうと彼もさすがに堪えたのか顔を下に向けうつむいていた。
俺はこの時つり目の口元を見れていなかった。
つり目が少しだけ口角を上げていたのには、俺同様、誰も気が付けなかった。




