第一話 虫使い
朝、誰かにおでこ辺りを叩かれているような感覚で、目が覚める。
体を起こして大きくあくびをした後、手の甲に何かが飛び移った。
それは小さなクモで、いつもこの時間になると、私を起こしてくれる。
「おはようはーちゃん。いつも起こしてくれてありがとう」
私が挨拶をすると、はーちゃんはそのまま肩に移動して片足を上げて私に挨拶を返してくれた。
どうやら私の肩がお気にいらしくて、初めてこの部屋であった時からずっと一緒にいる。
動きがとても早いから、はーちゃんって名前にしたけど..少し安直だったかな..?
身支度を整え、朝食を済ませれば外にでて冒険者ギルトに向かう。
この世界ミュートでは、魔物と呼ばれるモンスターを、人々から守るべく結成された組織がある。
でも所属するには、生まれた時に神から授けられるジョブが、戦闘向けである必要がある。
例えば【剣士】【魔導士】【戦士】【契約獣使い】などが上げられる。
彼らの組織は冒険者と呼ばれ、依頼を受けその報酬で生計を立てている。
依頼はランクによってその難易度が変わり、F級~A級まで存在している。
しかし高いランクの依頼はそれに似合った強さの冒険者でないと受けられず、条件として自身のジョブランクを上げる必要がある。
ランクは、ジョブを使っていけば上がり、それに似合ったスキルも習得できる。
でも私のような駆け出しの3レベルじゃ、Fレベルの依頼しか受けられない。
だから報酬もかなり少なく、一日にいくつもの依頼をこなさなければいけないので、かなり大変。
まぁ仕方ない。だって私の場合レベルもそうだけど..
「キャステリアさん。おはようございます」
「はい!おはようございます!ラヴルさん」
この人は冒険者ギルドで依頼を冒険者に案内をしてくれる、キャステリアさん。
彼女たちギルドで働く職員さんは、冒険者に依頼を出す前にその人が今どれくらいの強さなのか、確認できる【鑑定者】ジョブか魔道具を使って鑑定し、その人の強さに合わせた依頼を出すことになっている。
「あれ?!ラヴルさん16歳になったんですか?!」
「あはは、昨日誕生日だったみたいで..私も忘れてたんですけど、友達がお祝いしてくれて」
「もう!ダメですよ?自分の誕生日は、しっかりと覚えていなくちゃ」
「す、すみません。孤児院にいたころは、お祝いなんてされなかったので、なんだか忘れちゃうんですよね..」
「.........」
お、重い雰囲気にさせてしまった...
「はぁ、とにかく今度からはきちんとお祝いさせてくださいね!はい。今日の分の依頼です」
「ありがとうございます。では行ってきますね」
頭を下げながら挨拶をして、ギルドを後にする。
今回依頼されたのは、野草採取と未開拓地域の森の生態調査。
私が今拠点としている町があるヨーシナ大陸は、まだ未開拓な地域が多く、冒険者が調査をして情報提供をすることもある。
特に生き物を使役できる力を持つ冒険者は、この依頼を任せてもらうことが多く報酬も高い。
「私みたいなテイマーに回ってくるとは思わなかったけど、多分キャステリアさんが回してくれたんだろうなぁ..後でお礼言わなくっちゃ」
がんばろー!と言わんばかりに肩で飛び跳ねるはーちゃんを見て微笑みながら、未開拓地エリアに向かって歩き出す。
道中入った森で、依頼の野草を採取してまたしばらく歩いていくと、未開拓地エリアに入るための関所が見えてきた。
近くには門番が二人立っていて、依頼書を見せないと中には入れない決まりがある。
「こんにちは。依頼できました。通過しても大丈夫でしょうか?」
「君は..バイガス町の冒険者か。確か虫使いの」
「あぁ!知ってるぞ!虫なんて弱っちくて、醜い生き物しかテイムできない奴がいるって聞いたことあるな」
「おい!シュパルズやめろ。彼女も立派な冒険者だろ?すまない..同僚の態度が悪くて君に嫌な思いをさせた」
「い、いえ!言われなれているので」
「はっ!ヴァルト。俺は本当のこと言っただけだぜ」
「おまえは....はぁ...本当にすまない。依頼書の確認は済んだ。通ってくれ」
「ありがとうございます」
「...ちょっとまった」
呼び止められて振り返ると、視線を合わせるように軽くしゃがんで目を合わせる。
「いいか?無茶をするんじゃないぞ?」
「....!」
掛けられた言葉に、ビックリした顔になってしまった気がするけど、なんだ嬉しかった。
依頼書を返してもらい、門をくぐる。
はーちゃんは怒っているのか、ずっと両手を上げて威嚇のポーズをとっている。
人差し指で、そっと撫でながら落ち着かせる。
しかし彼の言う通り、私は契約獣使い..専門用語で言う名のテイマーの中ではかなり下の方だ。
通常のテイマーは自身と波長が合う生物と共鳴しあい、その力を借りることができる。
これがテイムと呼ばれる状態なのだが、私の場合何故か虫意外をテイム出来た試しがない。
それに低ランクってなると、力も実績もない。
まぁそもそも虫が嫌いな人が多いって言うのも、あるんだろうけど..
「こんなにかわいいのに。なんでみんな君たちのことを嫌うんだろうね」
撫でられて気持ちよさそうにするはーちゃん。
気にしていないとは言ったものの、少し落ち込んでいた心が和んて行くのを感じた。
「でもここから気を付けて行かないと..」
眼前に広がる樹海、この先内があるのかわからない。
少し怖いけど、大きく深呼吸をして足を踏み出した。




