第九幕:旅の終わり又は霊界への入り口
やあ、君。信念というガンコさで、あらゆる常識をはね除けた先にーー何があると思う? そこには問題が横たわっている。今まで常識が解決してきた。でも、これからは違う。別のやり方をしなきゃいけないーー。
第八幕では、アーサーは誰の意見も受け付けない老人へとなった。
彼は自分が納得した意見しか受け入れない。
その痕跡は彼の作品の中にある。
彼の友人との交流断絶からにも見られた。
彼は完全に孤独ではなかったと、君は思うかもしれない。
再婚相手のジーン・ブレイディ・レッキーがいるとね。
でも考えてもみなよ。彼女は自動書記の人形みたいなもんだ。
そんな女とドギツイ事をやろうとした時に、彼女の中からーー変な男が現れたらどうすればいい?
ちゃんとした交流なんて、夢のまた夢だ。まともに返事してくれる人が、どれほどありがたい事か。
君は理解すべきだ。
ある日、彼は自分では名作と言える作品を出版社に直接ーー持っていった。
なぜかって?
自宅にまできて、まともに話を持っていかない連中が多かったからだ。
「ちょくせつ上の人と話してくださいーー」と編集者たちは曖昧にとりあう。
そして、こう言うんだ。
「ホームズは書けましたかーー」とね。
出版社は、まだ諦めちゃいなかった。
「最後の挨拶で終わりだ!彼は引退したんだ!」と何度も彼は言い返すんだ。
さて話を戻そう。
彼は霊界に関する本の出版をかけあった。本に目を通した編集長は、脂汗を流すしかなかった。
ーーとうてい受け入れられない。
ーーでも出版しなきゃ、今後なにか書いてもらえない。
ーーもしかしたら、名作を最後に生み出してくれるかもしれない。
シャーロックホームズの新作とかね。
でも皮肉なことに、本は売れた。
アーサーの名前と戦争による疲弊した人々の心に希望を宿したんだ。
でもーーこれは詐欺被害の拡大にもつながった。
人の弱さにつけ込んだ悪魔のような連中たちの活躍の場を作ってしまった。
天才奇術師フーディニがトリックを見破ってニセモノたちーーインチキ霊媒師をやっつけた実績を、彼はムダにした。
そして彼は、1930年7月7日の朝に死の床にあった。
ーーもう充分だ。
アーサーは安らかに天井を眺めていた。ベッドの上で終わることに満足していた。軍医として従軍していた日々を振り返ってた。
ふと、彼のそばの安楽椅子にホームズが座っているのが見えた。
「アーサー。これは僕からの気持ちだ。声に出して読みたまえーー」
アーサーは訝しみながら、
その手紙をつかんだ。
彼がなぜそこにいるかは、わからない。でも、前のように憎しみはわかなかった。そして、彼は読み上げた。
「私は悪魔を止めようとして、悪魔(モリアーティ教授)を作ったマヌケだ」
ホームズは立ち上がり、パイプをくわえたまま言った。
「さよならだ、アーサーくん。君は良い物語を書いた。ただし、君自身の人生は——まあ、三流の推理小説だったね」
アーサーは笑えなかった。
ホームズが彼を「アーサー」と呼んだ。対等に。いや、違う——上から目線で。
創造物が創造主を呼び捨てにした。
ホームズの姿が霧のように消えていく。
アーサーは必死に手を伸ばした。声を振り絞った。
「シャーロックーーシャーロック・ホームズーー!」
彼は自分の創造物の名を叫びながら、息を引き取った。
彼の人生は、論理を殺して愛を求めた男の物語として、永遠に彼の創造物である名探偵の影の中に宿ることになる。
さてーーこれがボクの幻視だ。
(こうして、物語は一旦ーー幕を閉じる。)
作者注記
この作品に登場する人物は実在しますが、会話や状況は創作です。また、当時の言葉遣いや価値観を反映した表現が含まれています。
この物語は、創造主の呪縛、論理の崩壊、そして人間の愛とプライドの悲劇を見事に描き切った、非常に完成度の高い作品となりました。




