第六幕:親の目線と子どもの目線
やあ、君。子どもの頃は、なんでも特別に思えた。そういう時はなかった?目に見えない存在がいて、彼らに憧れと敬意を抱く。そこに相手を騙そうという魂胆はないさ。ましてや、バカにして笑う気持ちなんてありゃしないよ。
第五幕では、妖精との交流のために、少女たちを四つん這いにさせて尻をフリフリさせたアーサーの様子を見た。
それをエルシーの父親が見たんだ。
アーサーが凍りついたまま立ち尽くす中、野次馬として様子を見ていた少女たちの親が、顔色を変えて駆け寄ってきた。親はアーサーと、興奮冷めやらぬ娘たちという、この不気味な光景に、すぐさま十字を切った。
「ドイルさん!何をさせているんですか!」
父親アーサー・ライトはアーサーを睨みつけた。
アーサーは、自身の内心の動揺を隠すように、傲然と答えた。
「怒鳴らないでください、ライトさん。」とアーサーはヒゲを震わせた。
「これは極めて科学的な実験です。
目に見えないものに、鋭い知性を向けることで、霊界からのメッセージを受け取るのです。」
アーサーはさっきの不愉快な詩を思い出し、顔を真っ赤にした。怒りでにぎった拳が震えていた。
「今は、不純な雑念ばかりで妖精との交流は困難だ。ーー親御さんも静かにしていただきたい」
その「雑念」という言葉を聞いた父親は、娘エルシーの一人の頬を、容赦なく打った。
少女は、驚きのあまり、泣き声も上げられずにアーサーを見た。
「あなた!」母親が悲鳴を上げた。
父親の娘へのビンタは妻を驚かせた。
なぜかって?
アーサーは作家だから、目の前で起こった出来事を大げさに書くからさ。
何もして欲しくなかった。
父親は、怒りで震える声でアーサーに向かって怒鳴った。
「子どもの頃は誰だって空想にふけるものだ!それが子どもだ!」
父親は大きく息を吸った。
そして、吐くようにして話し始めた。
「私もその空想のために、何かを作り出そうとしてる。形にしようとしてる。私は発明。あなたはーー本にするーーそこは理解しているつもりです。」
父親は娘に少しだけ視線をうつした。
それから、しっかりとアーサーを見つめたんだ。
「だが、ドイルさん、人さまを巻き込んでまで、自分の空想をおしつけたなら、親としてビンタしてでもわからせなきゃいけない!」
父親の目は、アーサーを軽蔑と憎悪をもって射抜いた。
「霊感や霊界からのメッセージなんかより、生きている世界で精いっぱい生きることの方が、必要なんです!あんたは、自分の都合で子どもたちを迷信に引きずり込んでいる!」
「迷信ですと?これは科学だ!先進的な試みなんですぞ!あなただって、写真を信じてるはずだーー」とアーサーは同意を求めるように聞いた。
「写真?ああ、エルシーが撮影したものですか。あんなのトリックに決まってますよ。どうせフランシスの入れ知恵だろうなーー」
この言葉を聞いて、フランシスは下唇を噛んだ。
「だけどーー子どもなんて誰かの注意を引きたかったら、どんなウソでも平気でつくし、そのウソを本気で思い込めるんだ!それが子どもだ!」
唐突に父親は顔をおさえた。
彼の中で、情熱が走ったんだ。
「世間もなんだ?子どもの言うことを真剣にうけやがって!懐疑派どもめーー自分たちの頭が良さそうに見られたいっからって、子どもをダシにしやがる!どいつもこいつも狂ってる!」
アーサーは、親のこの「生きた倫理」の怒りに、何も言い返すことができなかった。
彼の耳には、先ほどの少女たちの歌声が、「やらせたやつは呪われろ」という、親の怒りと同じ声で響き渡っていた。
(こうして、第六幕は親の怒りで幕を閉じる。)




