第五幕:妖精の詩
やあ、君。自分の周りで起こる事、全て把握したと考えてない?
日常なんか当たり前ーーそれって本当なのかな。
人間は知識によって視野を広げて、
知識によって視野を狭めるーー。
第四幕では、妖精に対し価値を考えなおそうとしたアーサーだったが、少女たちから手助けをもらう事にした。
その結果、エルシーが妖精との交流に成功した。
「おじちゃん、妖精が話しかけてきた!」の言葉が再び少女エルシーの口から飛び出した。
少女の言葉が、アンソン大佐の不当な命令によってへし折られた「彼の心の棒」を、もう一度立ち直らせた。
ーー妖精はやはりいた。
写真だけでなく、アーサーの日常に飛び込んできたんだ。この事を本に書けば、新たな科学のページになる。
ーー彼は勝利したのだ。
論理ではない、純粋な信念がーー世界を動かす事になるんだ。
エルシーが妖精に会えたのに、喜んだのはアーサーだけではなかった。フランシスもエルシーの隣にうつぶせになって、草むらに頭を突っ込んだ。いとこのエルシーに負けたくなかったのかもしれない。
そして彼女も声を出した。
「本当!黒髪の男の子の妖精よ!」
彼は身をかがめ、少女の見てるものを覗き込もうとした。
腰を屈めて、少女の尻ごしから草むらをマジマジと見る。
その顔には探求者としての熱情が浮かんでいた。
だけどーーこの光景はちょっとシャレにならないぜ。
まるで女の子たちを四つん這いにさせて、しかも頭を草むらに突っ込ませてーーそれを真剣に見ている老紳士の出来上がりーー神秘と言えぬバカさ加減。
「ブラボー!実に素晴らしい!フランシス、そしてエルシー!どういう気持ちなのかい?ーー教えてくれないかね?」
「ええ。彼は驚いてるーー」とフランシスは答えた。
「それに怒ってる!」エルシーもまた、興奮した顔で草むらから頭を出し、続けた。
「おじちゃんへの歌をうたってる!」
二人の少女は、目を輝かせ、草むらにしゃがみ込んだまま、アーサーに向かって歌い始めた。
それは甲高くーーどこか子供の遊び歌のような、奇妙に耳に残る節だった。
それがこうだった。
「やいやい、お前らやめてくれ
オレの家になんなんだ
誰がさせたこんな事
小さな頭が一つ二つ
オレの家に突っ込んで
四つの目で見つめてる
やめてくれよ、こんな事
誰がやらせた、こんな事
やらせたやつは呪われろ
ノロマのドジのヘビ野郎!」
歌い終わった二人は、顔を見合わせて笑い、アーサーの反応を待った。
アーサーは動かなかった。
その代わりに、彼の顔から血の気が失せ、凍りついたような表情になっていた。
しかし凍りついたのは、
何もアーサーだけじゃなかった。
この光景を見て、最も凍りついたのはエルシーの父親アーサー・ライトであった。アーサー・コナン・ドイルに写真を送ったのを後悔したーー。
そもそも、エルシーにカメラを渡した事を後悔したのだったーーこれこそまさに後の祭り。
(こうして、第五幕は妖精の歌で幕を閉じる。)




