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宵のハコブネ  作者: 朔蔵日ねこ
百鬼夜行

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百鬼夜行②

 二人は、静かな山中を寒月峰神社まで戻った。身体は火照り、興奮は醒めやらず、到底眠れる気がしなかった。

「僕も、拝殿で瞑想してきます」

 神社の境内まで戻った瑞貴は、美弦にそう告げる。すると、瑞貴と同様に頬を紅潮させている美弦も頷いた。

「僕もそうするよ」

 二人が塩と手水で身を浄めて拝殿に赴くと、晴海が一人、暗闇で畳の上に座して瞑想していた。晴海は二人の気配に気付いても微動だにしない。美弦と瑞貴はそっと晴海の横に並んで座り、瞑想を始めた。

 目を閉じて、瑞貴は百鬼夜行に思いを馳せる。今も、関東上空をはじめ、各地の空で妖怪たちが歌い、踊っているのだろう。それを考えると、鼓動が鳴りやまなかった。静寂の中に拝殿の外から虫の音が届く。

「百鬼夜行は無事通過したか」

「はい。滞りなく」

 明かりのない拝殿の中、二人を顧みずに尋ねた晴海は、美弦の答えを聞くと徐ろに立ち上がった。百鬼夜行を通達してきた神社本庁に報告を上げるのだろう。

 全国のどれだけの寺社仏閣が、妖怪の存在を信じ、今夜の百鬼夜行への警戒をしているのかは分からない。この百鬼夜行が、人間の社会生活にどんな影響を与えるのか、妖怪が人間社会で認知されるようになるのか。百鬼夜行は妖怪の過大なエネルギーを放出させるための姑息的な手段に過ぎない。これは、ゴールではなく始まりなのだ。

 間もなく晴海は戻ってきて、先ほどと同じ位置に腰を下ろす。三人は朝まで、拝殿で瞑想を続けた。午前四時過ぎには東の空が白み始め、百鬼夜行もお開きになるはずだ。妖怪たちもそれぞれの棲み処に戻っていくだろう。

 鳥たちの囀りが聞こえ始め、空気が緩み、拝殿の中を薄い光がゆっくりと満たし始めた。その頃には瑞貴の鼓動も落ち着き、平静を取り戻していた。それと同時に睡魔が顔を覗かせ始め、瞑想を続けながらも時に微睡みそうになる。危うく舟を漕ぎそうになった瑞貴の頭の中に、突然、シャン、と明瞭な神楽鈴の音が聴こえた。瑞貴ははっとして目を開ける。すると、拝殿の静止した空気の中、天井から瑞貴の目の前にふわふわと舞い降りてくる一片の羽毛があった。白く透き通るような、美しい羽毛。わずかに光を纏っている。夢現ゆめうつつの心持ちで、瑞貴はその不規則な動きを無心に目でなぞった。羽毛は音もなく下降し、畳の表に達するその時に、コトリと音を立て、姿を変える。

(え……)

 鼈甲のような飴色の花弁。畳の上に忽然と現れたそれを、瑞貴は呆然と見つめていた。

「瑞貴」

 放心している瑞貴に、美弦が隣から声を掛けた。夢ではないのか。瑞貴は弾かれたように顔を上げ、美弦と晴海の顔を見て、それから、目の前に降りてきた花弁を再びまじまじと見た。

『活』

 花弁の真ん中に、その文字が浮き出ている。

「それは、お前の一葉だ」

 厳かな声で、晴海が言った。

「甦った妖怪の妖力を発揮し、百鬼夜行を成し遂げたお前が生み出した、八葉の内のひとつだ」

 瑞貴はそっとにじり寄り、その花弁を拾い上げた。まだ温かい。これまで、祀が錬成した八葉を集めることしか考えていなかった。初めて自分で作り出した八葉。瑞貴は、昇ってきた朝陽にそれを透かして見た。美しい飴色が、光を吸収してまろやかに輝いている。

「お前は真に宝珠なのだ」

 晴海の声が、眠っていない瑞貴のおぼろげな意識に響いた。なぜだか分からないが、急に胸がいっぱいになり、瑞貴の頬をひとすじの涙が伝った。


※カクヨムでも同じ作品を掲載していますが、カクヨムでは章ごと、なろうでは1-2パラグラフごとに更新します。

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