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宵のハコブネ  作者: 朔蔵日ねこ
首塚

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首塚③

 平将門の首塚――将門塚まさかどづかは、大手町のオフィス街の中にある。ガラス張りの立派なビルに囲まれて都心の一等地に鎮座する様にはいささか違和感があるが、これをここから動かそうとすると祟りが起きるのであるから、その威力は現代でも健在なのである。平将門は、桓武天皇の曾孫にあたる平安時代の関東豪族であり、朝廷に反逆したとみなされて討ち取られた。その首は平安京で晒されたが、数か月もの間、目を開けたり叫んだりし、挙句、怨念により故郷である東国まで飛んで戻ったといわれている。その首が落ちたところが首塚である。菅原道真や崇徳院と並んで日本三大怨霊の一人とされる平将門は、確かに品格も実力も十分で、華があって豪胆だ。

 皇居からもほど近い、地下鉄大手町駅を出てすぐの歩道にあるベンチで、瑞貴たちは作戦会議をしていた。時刻は午前零時過ぎ。もうすぐ、大手町駅のすべての終電が発車する時刻だ。

「ねぇ、瑞貴。本当に平将門を召喚するつもり?」

「うん。頼むよ」

 瑞貴の目の前には、困り果てた顔をした壱流が立っている。降霊術をしてほしいという瑞貴の頼みに駆けつけてくれたのだが、瑞貴の家に泊まりに行くということにして夜中まで付き合ってもらっている。

 迎え盆の深夜のオフィス街には人通りはまったくなく、車もほとんど通らない。街路樹に囲まれた歩道には瑞貴と壱流の他、民保協の二人、そしてぬらりひょんが立ち会っている。ぬらりひょんは瑞貴が差し向けた管狐の報せを聞いて、すぐに都内に馳せ参じてくれた。

「そりゃ、怨霊ではあるから、降霊術で召喚できないことはないけどさ。いや、でも平将門なんて、超弩級ちょうドきゅうの怨霊だよ⁉もう、怨霊の付喪神みたいなもんだからね⁉」

 壱流はそうまくしたててごねている。怨霊を呼び出すなら霊媒師が専門、ということで頼み込んでいるのだが、いつも猫のような好奇心を見せる壱流がこれほど尻込みするのは珍しい。こんな調子で先ほどからずっと押し問答が続いている。

『ほほ。怨霊の付喪神とは、言い得て妙だな』

 のんびりとぬらりひょんが笑う。都心の夜は、夜更けでもむっとするような蒸し暑さで、ぬらりひょんはまた扇子をパタパタと扇いでいる。

「瑞貴が手を貸してほしいって言うから来たけどさ。だいたい、召喚できたとしても、オレ調伏できないよ⁉自分で調伏できない霊を召喚するのは一番やっちゃいけないことだって、いつも父ちゃんに言われてるし……」

「後のことは何とかするからさ」

「いや、平将門だよ⁉三大怨霊だよ⁉何ともならなかったら、どうすんのさ」

 壱流は頑として首を縦には振らない。宝珠、妖怪の総大将、民保協と揃ってはいるが、怨霊を呼び出せる霊媒師が承知してくれないことには始まらない。

『わたしからもお願いするよ。お前さんの力をぜひ貸してほしい。わたしとて、将門殿はそれほど近しいわけではないが、知らぬ仲でもないからの』

「いざという時は、私たちも協力するから」

 ぬらりひょんが腰を低くして申し入れ、六花は各種護符の入ったポーチを広げて見せる。壱流は分が悪いと悟ったのか、後退りしながら全員の顔を見回す。

「……分かった。分かったよ!でも、どうなっても知らないからね!」

 半ば投げやりに壱流は叫んだ。こうして、一行は歩道から移動し、首塚の中に足を踏み入れた。

※カクヨムでも同じ作品を掲載していますが、カクヨムでは章ごと、なろうでは1-2パラグラフごとに更新します。

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