表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵のハコブネ  作者: 朔蔵日ねこ
狐の嫁入り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/53

狐の嫁入り②

 夏休みになっても、七月中は午前だけ部活がある。東京は連日熱中症警戒アラートが出ており、屋外で練習できるのは早朝から二、三時間だった。部活が終わる頃には汗だくで、瑞貴は毎日、海斗と帰りにコンビニエンスストアでアイスを買って帰っていた。

 着替えを終えてロッカールームを出て、スマホを開いた瑞貴は、六花から着信があることに気がついた。アプリを開いてみると、複数回の着信の他にメッセージも入っている。

『蒼に連絡がつかなくて、瑞貴、何か聞いてない?』

 読んだ瞬間、「あー……」と声が漏れた。電話じゃなくてよかった、と瑞貴は思う。前置きなく六花にその質問をされたら、きっと挙動不審になっていたに違いない。今現在の蒼の消息は分からないが、六花に隠し事をしている後ろめたさがあるからだ。

 とりあえず、何も聞いていないことと後で電話するということだけ返信して、瑞貴はアプリを一旦閉じた。

「俺、八月は沖縄行くんだー。瑞貴は?」

 校門を出てフェンス沿いに歩きながら、海斗が屈託なく訊いた。空は雲ひとつない晴天で、陽射しが痛いほどだ。

「僕は、秩父のおじいちゃん家にしばらく行く予定」

「おじいちゃんの家かー。いいな。秩父、涼しそうだし」

 海斗のマイペースでひけらかさないところが、瑞貴は好きだった。根っからのお坊ちゃんで、変な対抗意識みたいなものはないのだろう。二人はいつも通り、高校から一番近いコンビニに寄ってアイスを買った。そのまま近くの公園に行き、日蔭のベンチに座ってアイスを食べる。一つ目小僧と話をした住宅街の公園と違って、大通りに面した公園は、遊具は何もないが広くて綺麗に整備されている。

「なぁ、海斗、これどう思う?」

 水色のアイスキャンディーを咥えながらスマホを弄っていた瑞貴が、隣で同じようにスマホを眺めていた海斗に画面を見せた。

「うわー。なにこれ、きもっ」

 海斗は覗き込むなり顔をしかめたが、身を乗り出してスマホを掴んだところを見ると、興味がなくはなさそうだ。

 瑞貴が見せたのは、『洛中あやかし台帳』というブログで、壱流から送られてきたものだ。縊れ鬼や狐の嫁入りのことで忙しく、すっかり忘れていたが、図書館で壱流から聞いた話を突然思い出したのだ。壱流がリアルだと言っていた通り、《《まるで本物のような》》妖怪の写真と、紹介文のようなものが載っている。

「え。すご。他にもあんの?」

 思った通り、ホラーゲーム好きの海斗は食いついてきた。瑞貴は画面を切り替えて、他の妖怪の写真も見せていく。

「もうこれ、本物じゃん。どうやって撮ってんだろうな」

 しきりに感心している海斗に、瑞貴は苦笑する。実際、《《本物》》ではあるのだが。

「これ、個人でやってるブログ?」

「この大江スタジオってとこがやってるっぽい」

 だが、この大江スタジオの詳細はブログには何も書かれておらず、検索しても該当する会社などは出てこない。これ自体が架空の団体である可能性もある。

「リンクも全然張られてないし、宣伝してる感じじゃないな。よく見つけたな、これ」

 それぞれの妖怪のページに『写真:外道丸』『文:かなわ』とある。文の内容は妖怪の訪問記のようで、『六月弐拾四日。輪入道と川のほとりで待ち合わせ。深夜二時。今日も凛々しいお顔。人がいないのをいいことに、炎の勢いも増している。久しく人間は捕まえていないご様子』などと記載されている。

「外道丸って、あれか。酒呑童子の幼名だろ」

「よく知ってんな」

「ゲームに出てくるから」

 確かに、酒呑童子の幼名を外道丸だとする説はある。一方のかなわは単独ではヒットしないが、「かなわ」と「妖怪」で検索してみると、どうやら橋姫という妖怪を題材にした『鉄輪かなわ』という能の演目があるらしい。酒呑童子と橋姫。そして、洛中あやかし台帳というタイトル。おそらく、京都の妖怪の仕業ではないかと瑞貴は踏んでいた。

「わー。ほら、見ろよ。釣瓶落とし。人を喰ったって書いてあるぜ。こんな見た目の奴に喰われたんじゃ、浮かばれないよなぁ」

 そうだな、と瑞貴は笑ったが、その笑顔はやや引きつっている。人を喰ったとか襲ったとかいう記述はそんなに多くはなかったが、瑞貴が見た中にもなくはなかった。これが全部本物の妖怪だとすると、けっこうまずい。

「まぁ、暑い夏に少しは涼しくなっただろ」

 予想以上の勢いでスマホに食いつく海斗に、瑞貴は軽く笑って言った。頭上では蝉がけたたましく鳴いており、この程度ではちっとも涼しくはならないが。瑞貴の目的としては、本物の妖怪を知らない普通の人の反応を見たかっただけだが、やはり素人目にも相当リアルなのだろう。

(これも、民保協報告案件だな)

 アイスを食べ終えてベンチにだらしなく身を預けたまま、瑞貴は心の中で呟いた。

※カクヨムでも同じ作品を掲載していますが、カクヨムでは章ごと、なろうでは1-2パラグラフごとに更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ