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宵のハコブネ  作者: 朔蔵日ねこ
異変

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4/53

異変③

 寝坊して遅刻するなんて初めてだ。ロッカールームで着替えながら、瑞貴は溜め息をついた。ラップ音、というのだろうか。最近、毎晩のように家の中から大きな音がして眠れない。父親に訊いてみたら寝ていて気付かなかったと言われたが、あんな音の中で眠れるなんて、よっぽど疲れているのか、ただ鈍感なだけか。それともあの音は、瑞貴にだけ聞こえているのだろうか。

 遅刻したといっても、朝練に出られなかっただけで、始業時刻には間に合った。その代わり、父親がせっかく作ってくれた弁当を忘れてきた。おかげで今日の昼食は購買のパンと牛乳だけだった。

「まだお前、調子悪いのか?」

 隣で着替えていた海斗が、浮かない顔をしている瑞貴を覗き込んでくる。

「そういうわけではないんだけど……」

 と、瑞貴は言葉を濁した。

 正直に言って、身体の調子が悪いわけではない。ただ何となく、おかしなことが続いているのだ。ラップ音のこともそうだが、それ以外にも、動物の亡骸なきがらをよく見かける。家の前で蛇が死んでいたり、通学途中で大きな鼠の死体を見かけたり、校庭の隅に死んだ狸が横たわっていることもあった。都心の高校に狸はかなり珍しい。当初は嫌がらせや何かの事件も疑われたが、狸は痩せ細っていて怪我もなさそうだったので、食糧を求めてやって来たが、衰弱して死んだのだろうということになった。しかし、瑞貴の家だってそんなに田舎ではなく、家の周りで蛇なんかを見たのは初めてだった。しかもかなり大きかった。

 瑞貴は帰りの支度をしながら、海斗にそれを愚痴ってみた。

「俺も、この辺に狸なんて出るんだ、って思ったけどな。お前のせいかー」

 茶化すように海斗は言って、ふざけて笑う。

「お前、柄掛山から何か連れてきたんじゃねーの」

 瑞貴は無理やり薄く笑ったが、顔は少し引きつっていた。それはあながち冗談とも言い切れない。病み上がりで久々に登校してから一週間経つが、あの日以来そんなことが続いているのだ。

「美人な雪女とかならいいけどな。動物じゃあなー」

 ホラーゲーム好きの海斗は軽口を叩きながら鞄を背負った。

「お先しまーす」

 高二の先輩に挨拶して、海斗と瑞貴は肩を並べてロッカールームを出た。綾山高校は中高一貫で、部活も中高合同だ。運動部も割とゆるく、上下関係も厳しくはない。

 話題はいつの間にか、海斗の見たゲーム実況動画の話になっていた。

「いやー、まじで、あのプレイは神でさー、つい夜中まで見ちゃったわ」

 鷹揚な海斗の喋りに瑞貴は少し癒されながら、二人はエントランスを出た。その時だった。

 ゴウと大きな音を立てて突風が吹き、砂埃が舞い上がった。

「うわっ」

 瑞貴も海斗も顔を庇うように腕で覆う。瑞貴は手に持っていた制服のブレザーを落としてしまった。風はすぐに止んだが、瑞貴は右腕に何か生温いものを感じた。

「あ……」

 エントランス前の石畳に滴り落ちる真っ赤な血液。

「えっ⁉」

 自分でも驚いて瑞貴は声を上げた。

「あっ、お前、切れてんじゃん、腕」

 海斗に言われて慌てて自分の腕を見る。腕まくりして露わになっている右腕の手首と肘の真ん中あたりに、一条の切り傷ができていた。

「えー、なんだそれ、今の風……?」

 海斗は目を白黒させて慌てているが、もともとのんびりしているその声はやや間延びしている。瑞貴は咄嗟に傷を押さえたが、幸いそんなに深くはなさそうだった。

 突風の被害に遭ったのは、瑞貴たち二人だけのようだった。エントランスの正面で流血沙汰になっている二人を、他の生徒が訝りながら通り過ぎていく。最終下校時刻は過ぎていたが、まだ保健の先生がいそうな時間だったので、二人は校舎に引き返すことにした。

※カクヨムでも同じ作品を掲載していますが、カクヨムでは章ごと、なろうでは1-2パラグラフごとに更新します。

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