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宵のハコブネ  作者: 朔蔵日ねこ
天狗

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31/53

天狗②

『宝珠よ。もう後戻りはできぬようだな』

 錫杖を失い、両手にひどい火傷を負った季仙坊は、洞窟のそばの大きな岩に腰を下ろし、なおも眼光を鋭くぎらつかせながら言った。

『神職ではないと聞いて、早いうちに抹消しようと考えたが、さすがは祀の選んだ後継者だ』

「選んだ……?」

 思いがけない言葉に、瑞貴は怪訝な顔をした。季仙坊は苦痛に歪んだ表情の中、わずかに笑みを見せる。

『先代の宝珠がお前を選んだのだ。お前は加護を受けている。だから先ほど、天女の姿をした祀が現れただろう』

 白い光が吸い込まれた真珠色の雲の上にいたのは、祀だったのか。そして、祀が瑞貴を選んだと。わざわざ、神社を継がずに家を出た父親に育てられた、神職について何の知識もない瑞貴を。そこに何か意図はあるのだろうか。

『覚悟が必要だぞ、宝珠』

 そこへ、黒瀧稲荷社の京弥と蒼が山を登ってやって来た。タカネもピョンピョン跳ねながらついて来ており、それを見つけたフウロが駆け寄った。

『おや、季仙坊。ずいぶんと派手にお怪我をされましたね』

 京弥は驚いて、岩に腰掛けている季仙坊に近付いた。腰袋から、小さな瓢箪と布を取り出す。

「瑞貴。きみも勝ったんだな」

 その場の状況を見て、蒼は察したようだった。そして、タカネとの再会を喜ぶ、尻尾を半分失ったフウロを一瞥した後、辺りを見回した。

「六花は?」

「烏天狗に連れ去られてしまって、まだ戻ってきません」

 京弥から火傷の手当てを受けながら、季仙坊は鼻を鳴らす。

『我々は民保協を信用していない。動物とは異なり、妖怪には知能が高く、意思のあるモノも多いのでな。保護するだとか、共生するだとか、そんな僭越せんえつな考えは改めた方がいい』

 ヒュウ、と突風が吹いて、何もない空間に突如として檜扇坊が出現した。地面には、籠の中で丸まっていたのと同じ姿勢で、六花が横たわっている。

「六花」

「六花さん」

 いち早く駆け寄ったのは蒼だった。地面に膝をつき、首筋に触れて脈を確かめるのは、医者としてのさがか。

「おい、六花、聞こえるか?」

 軽く肩を叩くと、六花はうっすら目を開けた。

「蒼……?」

 六花は自分で上半身を起こした。周囲を見回して、不思議そうな顔をしている。

「蒼、勝ったんだね……。瑞貴も…無事ね……」

「大丈夫ですか、六花さん」

 瑞貴も屈んで六花の顔を覗き込む。

「うん……。どこも、何ともないみたい。ごめん、役に立てなくて」

「いや、無事で良かったです」

 瑞貴は胸をなでおろした。ひとまず全員、生きて再会することができた。

『季仙坊も、宝珠を仕留め損なったんだな』

 檜扇坊が上空から残念そうに言う。両手に布を巻かれた季仙坊は鼻で笑った。

『宝珠を潰せれば良かったがな。また、新たな力を開花させてしまったようだ』

 そして、瑞貴の方をちらりと見た後に視線を外す。

『自身で気付いているかどうかは知らんが、宝珠は強い感情を抱いた時に新たな力を開花させるようだ。最初に宝珠の力が顕現したのも、青天狗がお前を襲って強い身の危険を感じた直後だった』

『あれで死んだと思ったのにな!』

 思い返してみれば、確かにそうだ。宝珠が顕現した時は記憶がないが、妖力を与えたり吸い取ったりできるようになったのも蛟に喰われそうになって死ぬ思いをした時だし、宝珠の気配を遮断する黒い靄を作り出した時には別人を演じてかなり気持ちが昂っていたのを覚えている。

『そして今日も、仲間を奪われそうになったお前の怒りが、赤い炎を生み出した』

『季仙坊が煽ったんだろう。物好きめ』

 分かっていたことのように、檜扇坊が言った。

『つい、怖いもの見たさでな。新しい力を得られたのだ。宝珠には感謝してほしいものだな』

 季仙坊はニヒルな笑いを浮かべた。瑞貴の赤い火焔が現れた時にも、季仙坊は笑っていた。宝珠を葬り去ろうとしながら、力の顕現を期待している節もある。

『先々《さきざき》、全国の妖怪たちが騒がしくなろうな。お前たちは妖怪を刺激して呼び覚まし、その責任をどう取るのか』

 言葉は厳しいが、もはや追及するつもりはないようだった。

『先行きをとくと見せてもらおう』

 と、季仙坊が付け足すと、檜扇坊は上空に浮遊しながら腕組みをする。

『ちぇっ。お前が季仙坊を灼き尽くしていれば、この山の総力を挙げて心置きなくお前を潰しにかかったのにな』

 表情は笑っているが、あながち冗談ともいえない。白い光とともに降臨した悠花が瑞貴をいさめていなければ、危うく柄掛山の妖怪たちと全面戦争になっていたのか。そう考えると、瑞貴はぞっとした。

『私は蒼さんとチェスができて楽しかったですけどね』

 季仙坊の手当てを終えて、道具をしまいながら、相変わらずの美しい笑顔で屈託なく稲荷の京弥が言う。

「大して強くもないがな……」

 本人に聞こえないように蒼が低く呟いた。

「あいつは本当にただ、チェスが好きなだけらしい」

 蒼がどのくらいチェスが強いのか分からないが、その言い方だと楽勝だったのだろう。

『それでは、麓まで私がご一緒いたしましょう。道すがら、お話したいこともありますので』

 京弥が道案内を買って出る。瑞貴と六花は瞬間移動で洞窟の前まで連れて来られたので、今いる場所も正確には分からない。天狗は、連れて来た時と同様に瞬間移動で帰してくれる気はないようだ。最後に葉団扇を大きく扇いでゴウッと突風を起こすと、季仙坊も檜扇坊も一瞬で消えていった。瑞貴たちは京弥の先導で、どんよりとした曇天の下、下山を始めた。

※カクヨムでも同じ作品を掲載していますが、カクヨムでは章ごと、なろうでは1-2パラグラフごとに更新します。

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