一つ目小僧の孤独③
週末は、風子、もとい風月るなに誘われて、ドリームドールハウスのお茶会とやらに連れて行かれた。お茶会といっても要は、先日の薔薇の庭で撮影した写真を加工してSNSにアップする作業がメインのようだった。場所はいちかの所有するサロン兼スタジオだ。いちかはインフルエンサーとして、けっこう稼いでいるようだ。作業の日にもメイクと衣装は手を抜かないようで、メンバー全員、気合の入ったゴスロリファッションだった。そしてその中で、瑞貴も相当気合の入ったゴスロリファッションに変化させられている。
「あー、やっぱり。上条くん、似合うー」
『うんうん、いいね。写真撮ろ』
風子はご満悦で、なぜかいちかもノリノリだ。他のゴスロリ少女たちも、キャッキャしながら、レフ板の位置を調整したりと撮影を手伝って盛り上がっている。そうして撮られたキメキメのゴスロリ版宝珠のポラロイドは、もはや六花の護符をも上回る特級呪物だ。
「この写真、SNSにアップしてもいい?」
デジタルカメラを覗き込みながら、風子が言う。厚塗りのメイクで原型をとどめていない瑞貴は、好きにしてくれ、と投げやりな気持ちで頷いた。
『そういえばねー。この前の小十郎爺の曾孫の太月くん』
撮影が一通り落ち着き、他の少女たちもそれぞれ作業のため散っていってはいたが、それでも周囲に筒抜けな声でいちかは切り出した。
『いちかに弟子入りしたんだよ』
「えっ⁉」
びっくりして、瑞貴も大声を出してしまう。
『うまく化けられるようになりたいんだってー』
「あの小十郎さんが許したんですか?」
『いちかは現代社会で立派に活動する化け狸だからねー。曾孫を預けるには安心でしょ』
いちかはあっけらかんと言った。六花の話では、いちか狸は人魔相殺の契約はしておらず、今も狸に戻れるれっきとした化け狸らしい。素性を大公開するスタンスはブレない。そして、あの子狸・太月もなかなか根性があるようだ。
「ところで、いちかさん」
アンニュイな表情をして、黒いレースのオペラグローブで頬杖をつきながら、瑞貴はいちかに話しかける。
「化けることができない妖怪が、現代の都会で生きていくのって、難しいですよね」
デュアルモニター付きのパソコンで編集作業をしていたいちかが、手を止めて瑞貴の顔を見る。
『どうして?』
「いちかさんみたいにうまく化けられれば、人間社会になじんで生きていけるじゃないですか」
いちかは人差し指を顎に当て、小首をかしげて暫し考えた。
『そりゃ、いちかは人間社会によくなじんでるとは思うけど、社会になじむことが妖怪の目的じゃないしね』
それは、確かにそうだ。いちかは笑いながらパソコンの編集作業を再開する。
「そのままの姿で都会で暮らしてる妖怪だっているよ」
「そうなんですか?どこに?」
『妖怪だって、みすみす滅んでいこうとしているわけじゃない。自力でしたたかに妖力を維持してる妖怪もいる。いちかだって、宝珠のいなかった百五十年間、妖力を衰えさせずにいられてる。どうしてだと思う?』
いちかはブラインドタッチを続けながら、にやりと、瑞貴に意味深な微笑を向ける。瑞貴の脳裏を、一つ目小僧の言っていた共喰いのことがよぎった。いちかが他の妖怪を喰っているなんて、考えたくない。
『妖怪にとって、妖力を維持する一番の方法は、昔と同じように人間との関わりをもつことなの。狸として言えば、人間をいかにうまく欺けるかが、この若さと美貌を保つ秘訣だよ』
ふぅん、と唸って、瑞貴は目の前に置かれた赤いハーブティーを飲んだ。一つ目小僧も同じようなことを言っていた。人間との関わりが、妖怪にとっては大事なのか。テーブルの上には、いちかチョイスのローズヒップティーが、ウエッジウッド風のティーセットで、マカロンとともに供されている。徹底した世界観だ。
『都会で《《生きてる》》妖怪を見つけたかったら、式神に探させてみたら?』
「え?」
『天下の宝珠様なんだから、いるでしょ、式神くらい。大抵の式神なら、強い妖力のある妖怪の《《匂い》》は分かるからね』
式神と聞いて、瑞貴の頭の中にタカネとフウロの姿が浮かんだ。二匹の管狐はまだ教育中で、世間知らずで頼りない。だが、下手くそながら、ようやく獣の姿くらいになら化けられるようになってきた。
「上条くーん、見て見て、ほら、こんな感じでどう?」
離れたところで編集作業をしていた風子が呼んでいる。こちらを向けられたパソコンのディスプレイには、先ほど撮られた写真が加工されて大写しになっている。ソフトフォーカスのかけられたゴスロリ姿の写真は、我ながら男子には見えないし、なんならけっこう美人だ、と瑞貴は思う。口が裂けてもそんなことは言わないが。改めて写真を見て、「ふむ」と瑞貴は考え込む。そして、あることを思いついた。
※カクヨムでも同じ作品を掲載していますが、カクヨムでは章ごと、なろうでは1-2パラグラフごとに更新します。




