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宵のハコブネ  作者: 朔蔵日ねこ
一つ目小僧の孤独

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23/53

一つ目小僧の孤独①

 翌日の月曜日。早朝の教室で、瑞貴は登校するなり、隣の席の風子と目が合った。風子は広げた文庫本越しに目立たないように、意味深な笑顔を投げかけてくる。不思議の国のアリス柄のブックカバーに、風子はRICCAのサインをもらったようだ。

 風子はドリーム(D)ドール(D)ハウス(H)というゴスロリファッションサークルに、風月ふづきるなという名前で所属していた。DDHはいちかの主催するサークルで、いちかはインターネットのホームページのプロフィールに自分の正体をそのまま載せていたが、それはそれで設定として違和感なく受け入れられているようだった。

「上条くん、ゴスロリもきっと似合うと思うんだよね。今度、メイクさせてよ」

 まだ人気ひとけのない静かな教室で小声で囁かれ、瑞貴は赤面する。瞳をきらきらさせて眼鏡を押し上げる風子に曖昧な返事をして、瑞貴は陸上部の朝練に向かった。

 放課後の部活はない日だったが、特に六花から呼び出しもなかったため、瑞貴は終礼後、「最近やけに勉強家だな」と冷やかされながら海斗と廊下で別れ、図書館へ向かった。

 活字を読むことにだいぶ慣れてきたので、絵が少ない本も手に取るようになった。妖怪に関する本を何冊か読んでいると、その存在は日本人に存外、愛されてきたことが分かる。天狗や河童、狐狸の類は全国にいて、中には名の通った有名な者たちがいることも知った。いちかの祖父である淡路の芝右衛門狸も日本三大狸に数えられている。いちかもいずれ、日本三大狸のようになるのだろうか。

 新たに何冊か本を借りて、瑞貴は図書館を後にした。部活がある日よりは一時間近く早い下校だった。最寄り駅まで歩きだが、中途半端な時間のせいか他の生徒の姿は見当たらない。瑞貴は以前雄然と出会った住宅街の近道に入った。

(ああ、まただな……)

 連休明けからずっと気配を感じている追跡者。高校の周辺か、桃泉堂の周辺で主に出没する。しかも、徐々に距離が近くなってきている気がする。つきまとわれて、かれこれ二週間近くになるが、瑞貴はいい加減捕まえて、ついて来る理由を問いただしたい気持ちになっていた。

 住宅街の、さらに路地に入れば、人通りはほぼない。瑞貴はわざと袋小路に入り、十分に相手を引きつけてから歩みを止めた。右の掌から仄かに白い光を立ち昇らせ、ゆっくりと身体ごと背後に向き直る。後をついて来ていた影のような追跡者が、びくりと体を震わせ、同様に立ち止まった。

「何か用があるんだろ」

 無感情な声で、瑞貴は話しかけた。相手は、身長百五十センチほどで痩せており、小学校高学年男子くらいの見かけだ。灰色のマントのようなものを着ており、フードを目深にかぶっていて口元しか見えない。体つきはほぼ人間で、遠目には妖怪かどうか分からなかった。

『宝珠……』

 そいつは小さく呟いた。声変わりしていない、少年の声。

「お前、誰だ?」

 瑞貴が問うと、そいつは突然、瑞貴に向かって駆け寄ってきた。

『宝珠、頼みがあるんだ!』

 走った勢いで、マントのフードが脱げて、顔が露わになる。その顔には、目が一つしかなかった。

(一つ目小僧……)

 関東にいる妖怪を主に調べていたので、なんとなく予想がついていた瑞貴は、それほど驚かなかった。しかし、絵で見たことはあったものの、実際に動いているところを見ると、奇妙ではある。

『おれの妖力を、吸い上げてくれ』

「えっ⁉」

 一つ目小僧の口から出てきた言葉は意外なものだった。

『宝珠は、妖力を吸い上げることもできるんだろう。だったら、おれの妖力を全部吸い上げてくれ』

「いや、でも、そんなことしたら、消滅しちゃうだろ」

 一つ目小僧の勢いに少々たじろぎながら、瑞貴は宥めた。

『だからだよ。そうしてほしいんだ!』

 ……妖怪の自殺願望か。それは困った。瑞貴が返答に窮していると。

「なー。お前ら、何してんのー?」

 一つ目小僧の背後から、緊張感のない人懐っこい声がした。背丈の低い一つ目小僧を挟んで瑞貴が対面したのは、見知った顔。

「那珂川くん」

「やぁ、瑞貴くん。そ。《《壱流くん》》だよー」

 変なテンションでにこにこしながら立っているのは、先日図書館で出会った那珂川壱流だった。今日も茶色い髪をひとまとめにして、しっぽのように垂らしている。妖怪に自殺願望を打ち明けられながら、同級生に遭遇してしまったこの状況をどうすべきか、瑞貴が考えあぐねていた時。

「んー。怪異に襲われてるんなら助けなきゃいけないかと思ったんだけど、人生相談かー」

 八重歯の覗く気の抜けた笑顔を見せて、壱流は言った。怪異?助ける?壱流はこの状況を解って言っているのだろうか。

「オレ、妖怪は専門外なんだけど、一緒に話、聞こうか」

 ポン、と壱流は一つ目小僧の肩に手を載せた。一つ目小僧は壱流を仰ぎ見て、一つしかない目を白黒させている。怯えたような一つ目小僧と、訳が分からない瑞貴の腕を掴んで壱流は、

「じっくり話ができるとこに行こ!」

 と陽気に歩き始めた。

※カクヨムでも同じ作品を掲載していますが、カクヨムでは章ごと、なろうでは1-2パラグラフごとに更新します。

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