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宵のハコブネ  作者: 朔蔵日ねこ
都会の怪
17/30

都会の怪①

 東京に戻った瑞貴は、六花とメッセージアプリでやり取りした。六花たちは五月五日には東京に戻ったようだが、暁父山ぎょうぶさんの妖怪たちの登録作業はだいぶはかどったようだった。マーキングした妖怪をレーダーで追跡し、実際に接触を試みて、妖怪の棲息せいそく状況や全数の情報を集めるのだそうだ。もちろん、すべての妖怪が協力的なわけではなく、逃げ回ったり妨害したりする妖怪もいる。一筋縄ではいかないのだ。

 管狐を入手したことも、民保協の二人と千歳には報告した。管狐の逸話を知っている三人は訝しんだり心配したりしたが、管狐がまだ幼いこともあり、まずは外に出さずしつけと教育をしていくことになった。いざという時には斬ってやる、と言う蒼に、六花はまた渋い顔をしていた。

 大型連休が明けて、久し振りの登校だった。千歳は相変わらず、弁当と一緒にハーブを持たせてくれた。さすがに学校に化粧はして行けないが、六花が背守りを縫い取ったシャツを着て行った。いつも通り、陸上部の朝練に出ると、海斗からユニバーサル(U)スタジオ(S)ジャパン(J)のお土産を渡された。連休中に家族で行ってきたらしい。陸上部の他のメンバーからも、旅行先のお土産をいくつかもらった。連休中ずっと山奥の神社で修行していた瑞貴とは大違いだ。瑞貴はレジャー気分など微塵みじんもなかったため、お土産なんて思いつきもしなかった。

 久し振りの学校で、瑞貴は一つしたいことがあった。昼休み、早々に弁当を食べ終えると、瑞貴は校舎の別棟にある図書館に向かった。学校の図書館には滅多に行かないので、少し緊張する。一歩、足を踏み入れると、独特な香りがした。生徒は何人かまばらにいたが、お互いに気に留める様子もない。どこに何の本があるのか分からず、瑞貴は何列もの書架の間を順々に歩いて行った。

 一段と奥まった書架の『風俗・民俗学』という棚の前で、瑞貴は足を止めた。『日本の妖怪伝承』『怪異・妖怪の民話』『河童・天狗・狐狸』。少し眺めただけでも、参考になりそうな図書がたくさんある。瑞貴はその中から手始めに、絵の多そうな本を二冊選んだ。それから、さらに書架を巡り、『宗教』という棚も覗きに行く。神道や修験道の本は、難解なものが多そうだ。ずっと活字を読むことがそんなに得意ではない瑞貴は、もう少し簡単に読めそうなものを探した。そして、『怪異からの護身法』という本に手を伸ばした。と。右側から同じ本に手が伸びてきて、手と手がぶつかる。

「あ……」

 驚いて右を見ると、痩せぎすで茶色くブリーチした長い髪を後ろでひとまとめにした男子生徒と目が合う。

「こういうのは、女の子とやるもんだよなぁ」

 ぶつかった手を引っ込めながら、男子生徒は破顔した。笑うと八重歯が見えて、人懐っこい笑顔だ。

「……すみません」

 初対面で、相手の学年も分からないので、瑞貴はとりあえず丁寧語で謝った。相手は屈託ない笑顔のまま、言葉を継ぐ。

「C組の上条瑞貴くんだよね。オレ、E組の那珂川なかがわ壱流いちる

 瑞貴は驚いた。クラスでも、どちらかというと目立たない方の自分のことを、何故相手が知っているのか疑問だった。

「なんで、僕のこと……」

「知ってるよー。ね、そういう本、興味あるの?」

 那珂川と名乗った生徒は、瑞貴の手にある二冊の本を見ながらそう訊いた。瑞貴は返答に困る。

「あ、うん、まぁ……」

 興味があるというよりは、必要に迫られて、といった方が正しいが。瑞貴は曖昧に頷いた。

「そっか。オレもこういうのに興味あってさ」

 と、那珂川は本棚を見上げる。そこは、神道や修験道の他、密教や陰陽道の書籍が揃った棚だった。

「その本は譲るよ。オレ、他にも借りたい本あるから」

「いや、僕も別に、これじゃなくても……」

 瑞貴もこだわりがあるわけではなかったのだが、那珂川は二人が同時に取ろうとした本を棚から抜き取り、瑞貴に手渡した。

「これね、分かりやすいし、《《実用的》》だからオススメだよ。オレ、一回読んだんだよね」

 瑞貴が受け取ると、那珂川は満足げに付け足した。そして本棚の方に向き直り、他の本を物色しはじめる。

「……ありがとう」

 ひとまず礼を言って、瑞貴は本棚を離れようとした。

「またね、上条くん」

 振り返ると、那珂川が満面の笑顔で、ひらひらと手を振っている。

(変わった奴だな……)

 そう思いつつ、瑞貴はちょっと会釈して、図書館のカウンターに向かった。

※カクヨムでも同じ作品を掲載していますが、カクヨムでは章ごと、なろうでは1-2パラグラフごとに更新します。

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