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プロローグ
頭の中で何度も同じ旋律が流れていた。律動的で、呪文のようであり、喧騒のようであり、優しい子守唄のようでもあった。闇の中に極彩色が溢れ出し、色彩は何かの姿になりかけては消えていく。同時に、旋律も何かの言葉を形作ろうとするが、はっきりとは聞き取れない。
(これは、見えてはいけない、聞こえてはいけないものだ……)
朦朧とする意識の中で、瑞貴はそう感じていた。
(いやだ。聞きたくない……)
身体全体が灼けるように熱く、眼の奥がじんじんと疼く。
突然、火照った額の上に冷たく濡れたタオルがあてがわれた。
「瑞貴、大丈夫か」
聞き慣れた父親の声が、遠くくぐもって聞こえた。そして、豊かで青々とした香りが鼻を打った。安らかな香り。それは、極彩色の光を収束させ、闇を呼び戻し、気怠く重い瑞貴の身体を優しく包み、深い眠りへと誘った――。
※カクヨムでも同じ作品を掲載していますが、カクヨムでは章ごと、なろうでは1-2パラグラフごとに更新します。