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第4話 見舞いとキッカケ

 翌日、それはお昼頃だ。

 換気でまた窓を開けていたら、黒く分厚いロープが屋上から投下されたのち見知らぬ青年が窓から病室に乱入したのだ。

 しかも特殊部隊のような身のこなしかつ、片手には花束が見えたのでさらに困惑した。


 精悍だがどこか作り物めいた顔に、短髪の赤毛。見た目は十代後半──もしかしたら二十代かもしれない。背丈は175ぐらいだろうか。やや筋肉質なのか軍服の上からでもすぐにわかった。


(え、不法侵入!? ってか、ここ五階なのだけれど!? というか誰!? 軍服ってことは浅間さんの関係者!?)


 情報量が多すぎて思考が追いつかない。思わずナースコールを押しまくった。これはしょうがないと思う。


「一二三〇無事に目的地に到着。これより任務(ミッション)を開始する」

「──っ!?」


 バッと、私にカモミールの花束と包装からして超高級品の菓子折を差し出してきた。


(ん?)

「これを渡してほしいと言われてきた」

「これは……もしかしなくともお見舞いの……品?」

「それ以外の何に見える」

「紛らわしいわ! 窓から不法侵入するからでしょう!」

「……こういう時は窓から入ってくると聞いた」


 冗談とかではなく至極真面目な顔で言うので「そっか」となりかけたが、いやいやいやと、ツッコミを入れる。


「──って、誰よそんなこと言い出したの!?」

「《心の友その壱》と《心の友その弐》だ」

 

 とりあえず受け取れという姿勢を崩さないので、おずおずと受け取る。私が受け取ると精悍な青年は小さく頷き、どこか満足げに口元が緩んだように見えた。


「ええっと、ありがとうございます?」

「礼には及ばない。《心の友その弐》も心配していた」

「その《心の友その弐》とは?」

「自分にとって……幼馴染みのようなものだ」

「へ、へぇ……」


 浅間さんも中々にインパクトがあって強烈な人だけれど、今度の人も中々に機械的というか、固いというか──。


「ちなみに《心の友その弐》は秋月燈だ」

「私なの!? この窓から入ることとか教えたの!?」

「そうだ」


 色んな意味で頭が痛くなった。記憶があった頃の私は一体どんな人間だったのだろうか。常識を疑うレベルだ。


「(過去の私、何をやっているのよ……)見舞いに誰も来てくれてなかったから、凄く嬉しいわ。でも普通はドアから入った方がいいと思う」

「秘密裏かつ有事の際は仕方がないとも聞いていた」

「これ有事だったの!?」

「そうだ。浅間龍我以外は面会謝絶となっている」


 そこまで聞いて、なぜ彼が窓から突入してきたのか分かった。正規ルートでは私に会えなかったからだ。


「気をつけろ。今の《心の友その弐》は、契約が切れているのだから」

「契約?」


 またもや意味深な発言が飛び出す。その先を聞いてもいいのか逡巡する。まだ自分の過去と向き合う勇気も、覚悟もない。


「一つだけ《心の友その弐》は独りではなかった。向き合うにしろ、忘れるにしても自分は味方でいる。《心の友その壱》もきっと同じだ」

「──っ、あり、がと」


 それだけを言いに来てくれたのだとしたら、なんとも義理堅い友人のようだ。そう思い、彼の名前を思い出せない自分がなんだか歯がゆかった。


「ねえ、こんなことを聞くのは失礼かもしれないけれど、自己紹介」

「──っ、浅間龍我の球速接近を感知。《心の友その弐》、ではまた」

「え、あ」


 軍人と思われる無駄のない動きで、素早く窓から撤退して逃亡。その数秒後に浅間さんがノックもせずに突貫してきた。

 ここは病院なのだが。


「燈、ここに誰か──()()()()()


 言い逃れしようにも花束と菓子折は隠せない。というかそんな時間もなかったし。浅間さんの表情は鋭い。獲物を狙う猛禽類そのものだ。怖っ!

 ここ五階だけど流石に走ってきてないよね。汗一つかいていないからきっとエレベーターできたはず、うん。


「あー、うん。見舞いにって」

「名前は」

「聞く前に窓から逃亡してった」

「そうか。まあ、窓から入って来る奴なんて三、四人しかいないしな」

(三、四人もいるんだ!? 私の友好関係どうなっているの!)


 そうまでして見舞いに来てくれる友人が複数人いることを喜ぶべきか、それとも非常識な感覚をお持ちの変わっていることを嘆くべきか。

 ひとまず浅間さんは「花束に罪はないからな」と花瓶を用意して生けてくれた。うん、安定のオカン。菓子折を開けた後、紅茶を用意してくれるって執事かなにかなのかな。


 執事姿を想像したら思いの外似合っていた。騎士の格好も似合いそうだし、なんだかんだ顔面偏差値が高いので、なんでも器用に着こなしそうだ。


「ほら、紅茶が冷める前の飲め」

「はーい」


 浅間さんが淹れてくれたお茶はとても美味しい。特に茶葉が良いのだろう。芳醇な香りに心が洗われる。

 浅間さんは何も言わない。時々気になるワードを口にするけれど、それをどう受け取るかは全て私にし一任している感じだった。

 干渉しすぎず放任しているけれど、抑えるところは押さえている──感じだろうか。だから不思議と浅間さんとの時間は心地よい。そしてお茶とクッキーが美味しい。



 ***



 平穏が崩れるのは一瞬で、そしてそれは予想外の方からだったりする。数日後、看護師さんが血圧を測りに来た時に、ふと丹村さんのことを知っているか聞いてみたのだ。なんというか「今日もいい天気ですね」とかのノリに近い。

 そんな和やかで日常の一ページあるあるの会話になるはずだった。しかし看護師さんはキョトンとした顔で──。


「丹村悟さん? ()()()()()()()()()()()()

「え? ……退院したとかじゃなく?」

「ええ。珍しい名字ですし、それに特徴もそんなイケメンいなかったですよ」


 そう言われて、ちょっと気になって看護師さん何人かに聞いてみたが答えは「そんな人はいません」と同じ。ちょっとホラーっぽくて、身震いした。


(え、私にだけ見えているってこと!?)


 いやいやまさか。頭を振ってその考えを否定する。アヤカシよりも幽霊のほうが怖い。なぜかは分からないけれど、怖いものは怖いのだ。そもそも私はホラーが苦手だったりする。


(記憶のある私はホラーって平気だったのかな?)


 そんな素朴な疑問を持ちつつも、ナースステーションから自分の部屋に戻ろうと歩いていた。そうエレベーターに乗って五階のボタンを押したはずだ。

 それなのに、ふと気付くとあの裏山に来ていた。


「え……?」


 霧が深くて、周囲の輪郭がぼんやりとしている。まるで別の空間に足を踏み入れたような、嫌な予感がした。早くこの場から去らなきゃ。

 そう思うも、足が重い。


「ああ、()()()()()()()()


 嬉しそうな声が聞こえた瞬間、凄まじい風が吹き荒れた。

 金属音のような悲鳴が上がる。 

 

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