【閑話】「社畜と悪役令嬢と、王立学院の魔力量測定」
【閑話】 「社畜と悪役令嬢と、王立学院の魔力量測定」
王立学院・魔法演習場
ルナリアのクラス。
「はい、それではこれより――魔力量測定を行います」
教師の号令に、生徒たちがざわざわと集まった。
『来たー! お約束のやつ!
異世界学園モノのテンプレ、魔力量測定!!』
順番待ちの列に並ぶルナリアの脳裏に、大喜びのまひるの声が響く。
(なんだか、楽しそうですわね?)
『もちろんです! 絶対にハプニングが起こって大騒ぎなやつですから!』
魔力量を測るクリスタルに、順に生徒が手を触れていく。
数値が表示されるたびに、周囲が一喜一憂する。
「おれ、Bランク、火属性だって!」
「……はあ、Dランクかよ……」
(ああ、素晴らしきかなテンプレ……でも、なんだろうこの安心感)
そんな中、白い神官衣風の制服を揺らしながら、ちょこんと歩み寄ったのは――
金の髪の少女、セリア・ルクレティアだった。
「……セリア様、お待ちください。聖女様は測定不要ですので!」
教師が慌てて手を差し出す。
「え、どうしてですの?」
きょとんとするセリアに、教師は青ざめながら説明した。
「い、いえ、その……以前、教会で測定されたときに――」
「わたし、何かしてしまいましたでしょうか?」
唇に指先を当て、セリアは首を傾げた。
「ええ、その……指先でちょん、と触れただけで……。
あ、あれはもう、国宝級の測定器でしたのに……」
生徒たちの間に、ざわめきが走った。
「壊したんだよな、測定器……」
「壊したというか、蒸発して天に昇って行ったらしいぜ」
「うわ~、測定器まで昇天させるって……聖女様、こええ……」
「しかも教会の宝具クラスのやつだって話……」
「結局、“もう測定しないでください”って言われたらしい」
セリアは首を傾げたまま、素直にとことこと列を離れ、
ユリシアのところまで戻ると、そっと耳打ちした。
ユリシアはふふっと笑い、セリアもつられてくすくすと笑い合う。
二人の間に、柔らかな空気が流れていた。
それをルナリアの目を通して見ながら、まひるはぼそりと呟く。
『……規格外過ぎる……いや、知ってたけどさ。
てか……規格外っていうより、もう別次元じゃん……神獣とか?』
***
王立学院・魔法演習場(同刻)
ルナリアのクラスの隣、上級生クラス
陽光の下、並ぶ二年生たちの前で、一際目を引く存在がいた。
さらさら・きらきらの髪をなびかせ、華麗なマントの翻りと共に、
くるり、と優雅に一回転。
「紳士・淑女の諸君。この私の華麗なる魔力測定をご覧に入れましょう!」
そう言うと、一輪の薔薇を口元に咥え、水晶を背に手を大きく広げた。
そして、拍手喝采を満足げに全身に浴びる。
「きゃ~、クラウディオ様!」
「華麗なお姿、もっと見せてくださいな!」
「……いや、華麗なるって、水晶に触れるだけだろ……」
「わたくしも水晶になりたいですわ!!」
黄色い声援の中に、微妙なコメントも混じってはいたが――
満を持してばさり、とマントを翻して水晶へと向き直る。
「では、参ります!」
気合の声とともに、流れるような美しい所作で測定用の水晶に手を添える。
ぽやん。
水晶が、控えめに、ほんのり光った。
「……判定、Eランク。属性は……土、ですね」
そう教師が告げると、周囲がなんとも言えない空気になる中――
「ふふふ、見たか。未だかつてない……美の結晶とも言うべき魔力測定を!
……見たか……あの輝き……水晶までもが我が美しさにひれ伏したのだ……!」
「さすがクラウディオ様……! 水晶にすら嫉妬してしまいますわ……!」
「あの輝き、網膜に焼き付けました……!」
「やだ、ドヤ顔もステキ!」
黄色い声に対して、男子生徒全員の心のツッコミは――
(いや、ランクはEだけどな!)
満足げに微笑んだその少年は――
クラウディオ・ベルトラム男爵令息。通称、“薔薇の貴公子”。
彼は腰元から一輪の薔薇を取り出し、後ろの女子生徒に差し出す。
「貴女の測定に、幸あれ」
「きゃっ……! わ、わたくしにですの!?」
「一生の宝物にいたしますわ……!」
薔薇を受け取った女子は頬を染め、胸に抱きしめた。
他の女子たちも、羨望のまなざしで彼女を取り囲む。
「まぁ……羨ましい……!」
「ずるいですわ、なんで貴女だけ……!」
「わたくしにも一輪……」
「次回の測定順、譲って頂けません?」
さらに、手を上げてキザに微笑むその姿に、女子たちから黄色い声が飛び交った。
「きゃー! クラウディオ様!」
「相変わらず素敵……!」
「わたくしにも、薔薇を一輪くださいませ……!」
(なんかもう、キザ度だけはSランクだよな、あいつ……)
(あいつ、なんで女子に人気あるのかわからん……)
(……薔薇、どこから出したんだよ……常備してんの?)
そんな声は、誰も口には出さない。
とにかく、学院の誇る“薔薇の貴公子”は、今日も絶好調だった。
次の測定をするはずの女子生徒。
薔薇を抱きしめ、頬を染めて俯く彼女の周りには人だかりが。
最後に教師がぼそっと零した。
「……そろそろ再開したいのですが……。
はぁ……毎回こうなるんですよ……。
それに次の子も上の空で測定どころじゃなくなるんですから……」
『……テンプレにも程がある!』
まひるの魂の叫びが、ルナリアの心の中に虚しく響いていた。
***
王立学院・魔法演習場
ルナリアのクラス。
「次、ヴィオラ・ブランシェットさん!」
「はいっ」
呼ばれた少女――ヴィオラは少し緊張しながら前に進んだ。
彼女は目を瞑ると、ぎゅっと片手を胸元で握る。
そして、もう片手でそーっと水晶に手を触れた。
次の瞬間――
ぶわっ!
眩い光が水晶からあふれ、周囲の生徒たちが思わず目を細める。
目を開けると――
「……な、なんと……Sランク……!?
土属性……さらに、光属性も……!」
教師の驚きの声に、生徒たちから一斉に歓声が上がった。
「すげえ!」
「二属性持ちだってよ!」
「しかも希少な光属性まで!」
「やっぱりヴィオラさん、ただの平民じゃないんだよ」
「公爵家の血、伊達じゃないな……」
「え、えええ……わたし、そんな……」
ヴィオラはおずおずと手を引き、困惑したように指先を見つめる。
その横で、誰よりも誇らしげに胸を張ったのは――エミリーだった。
「ふふふ。ヴィオラさんはわたしの友達ですのよ!?」
なぜか得意げに宣言するエミリーに、周囲が「ああ……」と妙な納得顔になる。
『なんかわかるぅ。エミリーさん、友達少なそうだもんね……』
まひるがしみじみツッコんでると――
「では、次。エミリー・フローレンスさん」
その名が呼ばれ、男子生徒の間にざわめきが広がった。
「”平民の氷姫”、特待生のエミリー・フローレンスさんだ」
「……なんか今日のエミリーさん、いつも以上にキマってない?」
「ああ……こっち見ないでほしい、心臓止まる……」
「うん。てゆうか、さっきのヴィオラさんもそうだけど――
やっぱルナリア様を筆頭に、うちのクラスって美人多くない?」
「……でも、一人たりとも手が届かないけどな……高嶺の花に、天空の花……」
「……いやいや、目の保養だけにしとこうぜ……」
そんな囁きが聞こえる中、エミリーは胸を張って水晶の前へ。
鼻息荒く、ぴたりと手を当てた。
水晶に手を当てた瞬間、三色の光がふわふわと交じり合って輝く。
教師が驚きつつ判定。
「判定、Cランク。属性は、火・水・土の三属性……ですね。これは大変珍しい」
生徒たちがどよめく中――
「ふんっ。三属性持ちは珍しいでしょう?」
エミリーは得意満面で、水晶から手を離すとくるりと振り返る。
まっすぐにルナリアを見つめ、少しだけ顎を上げた。
『おお、三属性!? すごいじゃんエミリーさん!』
「……ただ、器用貧乏と言われがちですがね」と教師が小声で付け加える。
『言うなよ先生ー! 空気読んでー!』
「なんですって!?」
エミリーがピクリと反応するが、
ルナリアはふわりと微笑んで、
「素晴らしいですわ、エミリーさん。
きっと、誰よりも器用に魔法を使いこなせますわ」
その言葉に、エミリーは頬をぷいとそらしながらも、耳が赤くなる。
「……ちょっと助けたぐらいで……馴れ馴れしくしないで欲しいんですけどっ……」
聞こえないぐらい小さな声で呟くエミリー。
『もう、エミリーさんのツンデレムーブ、ほんとかわいいなあ……!』
*
そして、次の名前が呼ばれる。
「ルナリア・アーデルハイトさん」
「……はい」
ルナリアは静かに前へ進んだ。
まひるの心の声が響く。
(うわ、来た。ルナリアさん、いったいどのくらいのランクなんだろ……)
(まさか、チート級だったりして……?)
そして――
ルナリアは、そっと水晶に手を置いた。
指先から、ほんのりと風の気配が広がる。
ぽふん。
小さく、可愛らしく光る水晶。
表示されたのは――
「判定、Cランク。風属性、ですね」
(え!? C!? ルナリアさん、あの森での迫力はどこに!?)
しかし、ルナリアはふわりと微笑みながら。
「……抑え過ぎましたわね」
次にもう一度手を触れると、先ほどより少しだけ光が強まった。
「判定、Bランク」
「もう少しかしら……」
(あれ、これもしかして――)
『ルナリアさん、魔力制御してるんですか?』
(ええ、少しだけ練習しましたのよ)
(えええ、練習したら抑えられるものなの!?)
教師が怪訝そうな顔をしながら、口を開いた。
「魔力を制御できるのですね……素晴らしいですわ。
でも、アーデルハイト嬢。
それでは測定になりませんので、どうか制御はなさらずに」
「よろしいのですか?」
「ええ、もちろん」
少しの間があって、もう一度ルナリアが質問する。
「本当に?」
「え、ええ……。全力で、どうぞ」
この時、担当教師は思ったそうな。
(これ以上やったら何かが起こるのでしょうか……!?)
(けれど、未来の王妃となられる公爵令嬢様に『やめて』とは言えませんわ……!)
ルナリアは小さく頷き――目を閉じた。
「……では、失礼いたしますわ」
次の瞬間、ルナリアの身体が淡く光り始め、足元から吹きあがる風がルナリアの金糸の髪を激しく巻き上げた。
瞬時に周囲の生徒たちが凍り付いた。
「こ、これは……!?」
教師が止める間もなく、ルナリアが手を添えると――
ぶわっ!
まばゆい光が水晶から溢れ、一同は思わず目を覆った。
「ま、まぶしっ!」
視界が戻ったとき、
そこには――
水晶が真っ白に蒸気を上げながら、
派手にヒビが入っていた。
「……ひ、ヒビ!?」
教師が蒼白になりながら確認する。
「し、Sランク以上……風属性……これが、アーデルハイト嬢の全力?」
「いえ、きちんと手加減はしましたわ」
(え、これで手加減!?)
「な、なぜ手加減を……」
「これ以上ですと、完全に壊れてしまいそうでしたから」
『もうほぼ壊れてるんですけど!!!』
生徒たちはあまりのことに呆然としていたが――
今回の測定には参加しない第二王子 アルフォンスだけは、お腹を押さえて肩を震わせていた。
「ルナ、やり過ぎだって。ほんと、君らしい。あは……あはは……」
堪えきれずに笑い出すアルフォンスにつられて、生徒たちも次第にくすくすと笑い始める。
ルナリアは頬を膨らませ、むっとした顔でその様子を見ていたが――
次の瞬間、ふっと笑みが零れていた。
(もう……ほんと、納得いきませんわ……)
そんな穏やかな笑いに包まれた中、ヴィオラが頬を染めながらエミリーに耳打ちする。
「……やっぱり、ルナリア様って、すごいですよね?」
「でも……わたしなんて三属性なんですから! 完全勝利ですわ!」
鼻を鳴らすエミリーに、ルナリアはふわりと微笑んで。
「わたくしは、魔法はあまり得意ではないのですわ。
風属性しか操れませんし……たった一つの属性を極めることすら、まだ……。
ええ、三属性を使いこなせるなんて……本当に素晴らしいですわ、エミリーさん」
「で、ですよね!? ……でも、なんか褒められてる気がしない……ぐぬぬ……」
赤くなってぷいと横を向くエミリー。
『いやいやいや!今比べるとこそこじゃないでしょ!!』
まひるの心のツッコミも虚しく、ルナリアは涼やかに一礼した。
「ご迷惑をおかけしましたわね」
「ご、ご無事でなによりでございます……」
教師は半ば目を回しながら、次の名前を呼んだ。
『ああ、なんかもう色々と規格外だよルナリアさんも……』
まひるの心の叫びをよそに、測定は何事もなかったかのように進んでいった。
*
演習場の隅っこ、例の令嬢三人組がこそこそと扇子で口元を隠しながら。
「……やっぱり、ルナリア様、只者じゃないわよね」
「ふふ、あれが庶民とは違う公爵令嬢の格というものかしら」
「……でも、あれじゃあ、お嫁入り前の娘には見えませんわ」
三人は顔を見合わせる。
「あら、では貴女はお嫁入り前だから控えめに?」
「……い、いえ、それはその……こう、なんというか……そう、控えめに……?」
「……ルナリア様は“控えめ”にして、あれなんですのよ?」
「お、おほほほ……そうですわね、さすがは王太子の婚約者ですわ……」
「おほほほ……ねえ、今の私たち、完全に負け惜しみよね?」
「おほほ……ほ……ほ……や、やめなさいよ、気づいたら……そのときが負けですわ……!」
“おほほほ”の輪の中、唯一気づかれなかったのは――
彼女たちの“ライバル”であるエミリー・フローレンスが、
ぼんやりと、笑顔を零すルナリアを見つめていたこと。
(なに、見とれてんのよ、わたし……)
エミリーははっとして、唇を噛みしめる。
(ぐぬぬ……やっぱり、いろいろと悔しい!)
(まったく、あんな笑顔見せられたら――ずるいじゃない)
※最後までお読みいただき、ありがとうございました!
※お約束の魔力測定回の本作バージョンいかがでしたでしょうか?
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※明日は、第11話のエピソード①をお届けします(=^・^=)




