第16話「社畜と悪役令嬢と、恋と波乱の学院祭」 エピソード⑥
読者の皆様へ。
本作ですが、作者都合で申し訳ありませんが、現在カクヨム様にて改稿連載中です。
追い付き次第、小説家になろう様での連載も再開予定ですので、
今しばらくお待ち頂けたら嬉しいです(=^・^=)
王立学院・“聖光祭”
高等部校舎 二階・新聞部展示室
「さあ、ここまではまだ“序章”!
真実は――本邦初公開!
『特集④ ルナリア様の秘密』にありますわ!!
ルナリア様? スクープですわよ? 心の準備はよろしくて?」
展示室いっぱいに、カレンの朗々とした声が響き渡った。
***
案内されたのは――暗幕で仕切られた小部屋。
黒布が重く垂れ、空気がひんやりとしている。
まるで舞台裏へと続く“告解室”のようだった。
カレンはその前でくるりと振り向き、艶やかに笑う。
入口の上には、手書きの可愛らしい文字でこう掲げられていた。
《特集④ ルナリア様の秘密(総力取材・本邦初公開!)》
眼鏡の奥がきらりと光り、唇がゆっくりと吊り上がる。
「こちらの“スクープ”――その余裕、いつまで保てるかしら?
ふふ、泣いてしまわれても責任は取りませんわよ?」
『泣かす気かい!?』
(スクープ……? 今朝いただいたスープ……?)
『違うっ!! 今ボケるとこじゃない!!
“特ダネ”って、“超重要ネタ”のことですよ!?
つまり、“誰にも知られたくないルナリアさんの秘密”ってこと!!』
(わたくしの――“誰にも知られたくない秘密”……)
ルナリアの瞳が、わずかに揺れた。
その微細な変化を見逃さず、カレンが満足げに頷く。
「ふふふ……ルナリア様、今、ドキドキしてますね?
してますね? 撮りますね? ドキドキして――ますよね?」
「え、ええ。ドキドキしますわ」
ルナリアは胸に手を当て、わずかに頬を染めた。
「ルナリア様が……瞳を震わせて……!」
「頬が染まっていらっしゃいますわ!」
「なんてお可愛らしい……!」
周囲からからざわめきが起こる。
『今、“撮りますね”ってサラッと混ざってなかった!?』
カレンが小さく「よしっ」とガッツポーズ。
直後、暗幕の奥から黒い箱を抱えた新聞部員が進み出る。
「ルナリア様、失礼いたします」
――パシャリ。
「少々お待ちを」
カレンは部員を伴い、暗幕の裏へと消えた。
『な、何……!? この一瞬でフラッシュ撮影!? プロの犯行!!』
(なんでしょうか? お写真を撮られてしまいましたわ)
『いや、今さらすぎる! 警戒心どこ行ったんですか!!』
(……あら、ちゃんと笑顔で撮れましたかしら……)
『笑顔なわけないでしょ!? しかも心配の方向おかしい!!
わたし、もう今日のツッコミ残量マイナス記録更新中ですから!!』
やがて――。
カレンが写真をひらひらと乾かしながら戻ってくる。
「ルナリア様、こちらをご覧ください」
「え、ええ。……わたくし、ですわね」
カレンの唇が、ゆっくりと上がる。
「ふふふ。違います。“ドキドキしたルナリア様”――です!!」
どよめきが爆発する。
「ドキドキしたルナリア様!?」
「そんな……ルナリア様がドキドキされるなんて……!」
「“ドキドキルナリア”って略したい……!」
「貴重すぎる……早く見たい!」
カレンは誇らしげに笑い、カメラを構える部員に合図した。
「ですよね? 見たいですよね? 皆さま、注目!」
――カメラ、オン。
カレンにカメラが寄った。――ドリーイン。
「こうして生徒の期待に応え、真実を暴くために日々戦う――
それが王立学院新聞部! これぞジャーナリズムです!!」
――満場の拍手。
ゆっくりとカメラが会場をパンして、観衆の熱気を余すことなく撮影する。
『いや、突然の宣材撮影かい!!』
もちろん、カレンにはまひるの声など届かない。
「さあ、次はどんな表情を見せてくださるのか。
あなたたちの関係――暴いてみせますわ!」
『やば……やばやば……!
”あなたたちの関係”って、まさか“中の人”関係!? まひるバレ!?』
ルナリアの心も、わずかに揺れた。
(まさか、彼とのこと……?)
スカートの裾を翻し、暗幕の入口がぱんっと跳ね上がる。
カレンは恭しく手を差し出した。
「どうぞ、こちらへ」
『怖いけど――確かめなくちゃ……』
(まひるさん、なんだか……ドキドキしますわね)
『そう言うレベルじゃないでしょ? 社畜バレですよ!?
バレたら労基来ますよ!? 深夜残業できなくなりますよ!?
お願いだから、もう少し緊張感持って――!!』
ごくり――。
まひるが喉を鳴らす音が、ルナリアの中で小さく響いた。
***
「ふふふ、ではさっそく――こちらをご覧ください!」
ぱっと魔導映写機が灯り、水晶板に光が走る。
――真ん中でカウントダウンが始まる。
「3」、「2」、「1」――。
暗幕の内側が、息を呑むように静まり返った。
手作り感満載の映像だが、字幕の文字だけは無駄に重厚だ。
【特集④ ルナリア様の秘密】
――タイトル、ど真ん中にドォーン!
荘厳なファンファーレ。
ナレーションが始まった。
『ナレーション付き!?
イケボ! 音声豪華すぎない!?
予算どこから出てるの!?』
(まあ……手が込んでいますわね)
軽やかな音楽と共に、魔導写真がテンポよく切り替わる。
王立学院新聞部のエンブレム(非公式)がド派手に回転し、金粉が舞う。
【第一の真実】
「この真実を、誰が予想しただろうか――!」
「なんと、ルナリア様とラファエル殿下、アルフォンス殿下、
シャルロット殿下――そして“隠れ公爵令嬢”ヴィオラ様は……
実は――幼馴染だった!!」
――沈黙。
『…………え? そこ!?
第一弾それ!?
ぜんっぜん秘密じゃない!!』
(……あら)
カレンが勝ち誇ったように髪を払う。
「ふふふ、これがルナリア様が”絶対に知られたくなかった真実”――
まさに、スクープ! ですわ!!」
ドヤァァァッ。
映写機の光を反射して、眼鏡がギラリと輝く。
『いやいやいや! みんな知ってるんじゃないの!?
学校紹介パンフレットレベルでしょ、それ!?
もはや“常識”を暴露する系!?』
(いえ、王族や貴族の子弟の関係性は、一般には公にされませんわ)
『え!? そういうものなの!?』
(ええ。将来に渡る利害関係を公にするようなものですから。
まあ、わたくしは、かまいませんけれど――
なんだか少し恥ずかしいですわ……。
あまり話題にしてほしくはなかったかもしれません……)
『えっ!? まさかの照れ要素!?』
(皆さん、“運命”とか“宿命”とか、そういう響きに弱いと思いますの)
ざわっ。
――群衆が、一斉に熱を帯びた。
「まさかっ……!」
「貴族子弟が幼馴染っ!? それは、尊いっ!!」
「ということは――ご婚約は“運命”ということに!?」
「ロイヤル・ロマンス誕生ですわーー!!」
「シャルロット殿下も! ヴィオラ様も! なんという眩しい人間関係!」
「まさか幼少期から……! これはもう宿命――むしろ伝説……!!」
ざわざわざわざわざわ――。
まひるは頭を抱えた。
『なんで幼馴染ネタでここまで熱狂できるの!?
この世界、“幼馴染萌え効率”が良すぎるって!!』
(でも……“幼馴染”って、響きがやっぱり可愛いですわよね)
ルナリアはそっと胸に手を当て、小さく微笑んだ。
その瞬間、淡い光が頬を照らす。
女神が一秒だけ照れた。
「見た!? 今、照れたわ!!」
「“照れルナリア様”尊死事件ですわ!!」
「ああ……照れまで尊い。あとはツンさえあればカンペキ!!」
「新聞部ありがとう!! 尊死の前に聖光祭グランプリ、投票します!!」
『やめてーーっ!! なんで羞恥が宗教イベントに昇華してるの!?
信仰のインフレ止まらないんですけど!!』
ルナリアは胸の奥で、ふっと息を整える。
(……でも、少しだけドキドキしましたわ)
『なんで、満足トーン!?
アトラクションの感想じゃないんだから!!』
***
だが――映像は止まらない。
「そしてこちらは、その匿名の“証言映像”です!!」
『えっ!? 証言……映像!?』
ぱっと水晶板に光が宿る。
ざわめきが静まり、次の瞬間、闇の奥にひとりの影が浮かび上がった。
黒い魔具で目元を覆い、輝く金の髪が光を弾く。
だが――その癖のある髪、隠しきれぬ王族オーラ。匿名の意味、完全喪失。
『いやもう! 匿名の意味ゼロ!! 一秒でバレる即答レベル!!』
※最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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