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第13話「社畜と悪役令嬢と、みんなの甘々大作戦」 エピソード⑨

王立学院

中庭・特設会場(放課後)


大茶会も中盤、生徒たちが笑顔でケーキを頬張る中――


三人娘は、意を決してルナリアの元へ歩み寄った。


「ルナリア様……本日は、このような素晴らしい機会を……ありがとうございました!」


ベルが代表して頭を下げる。


「わ、私たちも……少しでも、ルナリア様のように気高くありたいと……!」


カトリーヌが続け、アンナが最後に勇気を振り絞った。


「ま、また機会があれば……お傍で学ばせていただけたら、嬉しいです……!

 それから……ずっと応援してます! アルフォンス様とのこと!」


「……!」


ベルとカトリーヌは顔を見合わせると、一緒に頷いた。


ルナリアは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべる。


「……ええ。精進なさい。あなたたちなら、きっと出来ますわ」


その一言に、三人は感激のあまり顔を赤らめ、嬉しそうに駆けていった。


遠くでその様子を見ていたセリアが、にこやかに呟く。


「ルナリアさん、本当に素敵でした」


まひるの声が脳内に響く。


『この世界に来たばかりのころ、いきなり絡んできた三人があんなに成長するなんて……』


(あれは、まひるさんが花壇にダイブした上に、泥だらけのまま舞踏会を覗きに行くからですわ!)


『いやその、ダイブはしてないから、ホントに。

 とはいえ……あれは確かにわたしの落ち度でして……。

 でも、これでまた学院のアイドルのファンクラブ会員が増えちゃいましたね♪』


「……まったく、厄介なことですわ」


小さくため息をつきながら遠くを見ると、生徒たちと談笑するアルフォンスの姿が目に入る。


『てゆうか、アルフォンス様とのことバレてるみたいですよ!?』


(まひるさん!……わたくしと彼とは何も……!

 まあ、さきほどの件もありますし、噂されるのは仕方ありませんわね)


『いや、前から知ってるっぽい感じだったけど……。

 まあ、応援してもらえるなら、いいですよね? ルナリアさん!?』


(もう! 何も応援することなどありませんわ!)


ルナリアはほんのり頬を染めながらも、どこか満足げに紅茶を口に運び――

妙に甘く感じて、わずかに眉を寄せた。

その仕草に気づいた者は、唯一、まひるだけであった。


『ルナリアさん、応援してますよ』


***


学院の中庭には、まだ賑やかな笑い声とケーキの甘い香りが満ちていた。

その中で――


「っと……!」


きりりと髪を結い上げたエミリー・フローレンスは一人黙々とケーキを食べていた。


(悪くないわね……。こういうのも)


考え事をしていたら、つい手元のケーキ皿を勢いよく傾けてしまった。

ふわり、と宙を舞うケーキ――


「きゃっ!?」


ひゅーっと飛んだケーキは、なぜか一直線に、よりにもよって令嬢三人組の前へ――


ぽとん。


間一髪――


「危ないな、まったく……」


たまたまそこにいたライエルが、ひらりと宙に舞ったケーキを見事にキャッチしていた。


固まった三人娘は、ライエルを見上げ、次いでエミリーを見る。


(くー、よりによって!)


エミリーは立ち尽くしたまま歯噛みした。


「……また、あなた?」


そして――ベルがジト目で呟き、


「……でも、広い心で赦すことも、貴族の矜持というものですわ」


しかし、カトリーヌが気取って言い、


「そうそう。このぐらいのこと、気にするわたくしたちじゃなくてよ」


なんと、アンナが最後に付け加え、三人は優雅に頷き合った。


エミリーの目が真ん丸に見開かれた。


(なんなのよ! そんなふうに言われたら謝るしかないじゃない)


「ご、ごめんなさい」


エミリーはスカートの裾を整えると、頭を下げる。


「よろしくってよ」

「これが気高さというものですわ」

「ルナリア様に教えて頂いたのですわ」


そして三人揃ってのユニゾン。


「……ええ、精進なさい」


そして、三人はにっこりと微笑み、再び談笑を始める。


(何なの? なんだか、調子狂っちゃうわね……)


「はい、これ」


ケーキ皿を差し出し、すまし顔でぶっきらぼうに言う彼。


見れば、見事にまっすぐキャッチされて型崩れもない。

まるで最初からそこによそわれたようだった。


「な、なんであんたが……!」


エミリーが顔を赤くして睨むが、ライエルは淡々とした表情で歩み寄る。


「ほら。せっかく僕たちで作ったケーキなんだから、大事に頂こう」


エミリーは口を尖らせたまま、視線を逸らす。


「べ、別にアンタに助けられなくても――」


だが、ふとセリアの優しい微笑みが脳裏をよぎる。


『ありがとう、エミリーさん。心強いです』


エミリーは唇を噛みしめ、一呼吸置いて――


(年下のくせに……ちょっとかっこいいじゃない……)


「……ありがと」


小さく呟き、ペコリと頭を下げた――

その瞬間。


「ゴツンッ!」


「ぐはっ……!」


勢い余って、ライエルの頭に頭突きを食らわせてしまう。

ライエルはのけそってその場に倒れ込み、ケーキはぎりぎり無事。


「いったぁ……! ……なぜに頭突き……」


「あ、ちょ、ちが――!」


慌てたエミリーは、思わずライエルに手を伸ばし――


「ご、ごめんなさいっ!」


赤面しながら、ライエルに手を差しのべた。

一瞬、ミスティウッドで馬上から手を差しのべたライエルの姿を思い出す。


ライエルは苦笑しながらエミリーの手を取った。


「……ドジなんだから、まったく」


「う、うるさいわね……!」


ふたりの距離が、不自然に近づき――


エミリーはさらに真っ赤になり、ぷいっと顔を背けた。

そんなふたりを、遠巻きに見ていたセリアとシャルロットが、ふわりと微笑む。


(……がんばってくださいね、エミリーさん)

(ふふ……これも学院の日々の輝き、ね)


視線を交わすふたり――

そして春風がライエルとエミリーの間をそっと吹き抜け、静かに――フラグが立った音がした。


――その頃、ルナリアの脳内。


『ちょちょちょちょっと待ったあぁぁぁ!!』


まひるの絶叫がルナリアの意識に響き渡る。


(……今度は何?)


『今の!今の見ました!? 完全にフラグ立ちましたよ!?』


(ええ、まぁ……微笑ましいじゃない)


『いやいやいや、青春爆発しすぎでしょ!!』


『ツンデレ少女×地味優男の王道フラグ成立!ごちそうさまです!!』


(……本当にあなたは、そういうところだけ無駄に詳しいわね)


まひるが興奮気味に続ける。


『これ、後日談で絶対進展してますって!』


『エミリーさん、絶対こっそり気にしてるし、ライエルくんは意識してなさそうで実はちゃんと覚えてるやつ!』


(……ふふ、そうね。あの二人なら、きっと――)


***


――後日談


夕暮れの光が差し込む中、エミリーは机に頬杖をつきながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

窓際にはスコップと、百合の鉢植え。


そして、机の片隅には――

あの日、ライエルがキャッチしてくれた皿が、なぜか綺麗に洗われて立て掛けられている。


「……べ、別に……ただの皿だし……」


小さく呟き、頬を赤らめながら視線を逸らす。

けれど、その視線は無意識に――学院の中庭へ向けられていた。


そこには、魔法の書物を抱えたライエルの姿が見える。


「……別に、同じ平民同士、ちょっと尊敬してるだけなんだから……」


そう呟きながらも、エミリーの表情はどこか緩んでいた。


その時――。

ライエルの視線がこっちを向いた。


その瞬間、エミリーはハッとして慌ててカーテンを引く。


「~~~っ! ……見てないわよ! 別に!!」


頬を真っ赤にしながら、カーテン越しにそっと外を覗き見る――。


実際のところ、こっそりどころか、しっかり気にしていたのだった。


――こうして、小さなフラグはエミリーの胸の中で静かに灯り続けていた――。



隣同士で座って談笑するエミリーとライエル。

やがて、ライエルがルーぺを懐から取り出しケーキの断面を観察し出すと――

興味深そうにのぞき込むエミリーの後ろから現れたティアナとフローラも一緒に覗き込む。


『うんうん、フラグ乱立、乙女ゲーってば最高!

 そうそう、いよいよ青春と恋の大茶会も終盤ですね!

 皆さん、次回はルナリアさんの大一番ですよ~!』


(だから、その謎のナレーション、誰に向けて言ってますの!? )


『ふふ~ん。それでは、皆さん、お楽しみに!』

※最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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