愛しているからつらいなら
私は国王陛下の妃となるために生まれてきた。
それは誇張ではなく、本当にそのために作られた存在なのだ。
我が公爵家の念願の女の子。
私は期待通り、誰よりも美しい女性となった。
当たり前だ、それだけのお金を掛けて育ててもらったのだから。
「けれど、国王陛下の御心をこちらに傾けることは出来なかった」
幼い頃から婚約していた国王陛下。
けれど彼の方は美しく育った私に見向きもしない。
…いや、見向きもしないは言い過ぎだ。
彼の方は私を妃として認めてくださってはいるし、気遣っても労ってもくださる。
ただ、そこに男女としての愛を感じないだけ。
「まるでビジネスパートナー、ね」
でも、幸いにして男の子二人と女の子三人。
子宝には恵まれた。
子供たちはどの子も優しくて優秀で、この国の将来を担うに相応しい子たち。
だから、それだけで満たされていた。
十分だと思っていた。
「…政略結婚は、世の常だけど」
政略結婚は世の常。
私と国王陛下だって政略結婚だ。
子供たちにも既に婚約者はいる。
けれどまさか。
「隣国の姫君が同盟の証に嫁いでくる…なんて」
国王陛下は国のためにそれを受け入れたのだろう。
それはわかる。
けれど、どうしても受け入れられないのは…私が国王陛下のことを愛してしまっているから。
それでも妃として、私は笑顔で側室を受け入れなければいけない。
愛しているからつらいなら。
「愛なんて、捨てて仕舞えばよろしい」
泣いて泣いて出た結論。
もう、国王陛下を愛さないと決めた。
決めて仕舞えば、あとは早かった。
子供たちの前では、あるいは人前では仲良く過ごし、プライベートではなるべく近づかない。
子宝には恵まれていたから、夜の訪問もない。
「そして側室は嫁いできた」
愛される自信満々で嫁いできた、側室。
彼女は隣国の姫君らしい美しさを持っていたが、国王陛下は彼女を側室として尊重はしても愛するそぶりは見せなかった。
私と同じ。
私も、妃として尊重されても女として愛されることはなかったから。
私は自然と側室に親近感を覚えた。
「側室である彼女は、自信を挫かれていたところで手を差し伸べた私に懐いてくれた」
側室と仲良くなった私。
子供たちも、やがて生まれた異母妹に優しく接して懐かれた。
一方で国王陛下は、側室との子供が出来ても世継ぎは私の第一子である長男であると明言までしていた。
それに対して側室とその子供は、どこか居心地の悪さを感じてしまったらしい。
側室は私に、側室の子は私の可愛い子供たちに、ますます依存していった。
私たちもそれを拒まなかった。
「結果的に、国王陛下は孤立した」
国王として君臨していることに間違いはなかったから、政の上で問題になったわけではないけれど。
プライベートでは、国王陛下は家族の中で孤立していた。
最初は気にしていなかった国王陛下だけれど、段々と落ち着かなくなったのだろう。
今になって、構って欲しそうにこちらを向いてくる。
けれど。
「政略結婚とはいえ、愛してくれなかったのは国王陛下」
「政略結婚とはいえ、側室を迎えたのは国王陛下」
「政に忙しかったとはいえ、子供たちを構ってあげなかったのは国王陛下」
「政略結婚とはいえ、側室を愛さなかったのは国王陛下」
「側室の子とはいえ、愛情を示さなかったのは国王陛下」
今更『家族』の枠組みに入れて欲しいだなんて、ちょっと傲慢ではなかろうか。
チャンスはいくらでもあったはず。
『家族』が国王陛下の愛を求めていたうちに『愛情』さえ示せばそれで修復可能だったのに。
それをしなかったのも、国王陛下だ。
「…とはいえ、国王陛下の『君主』としての仕事ぶりは歴代の国王の中でも最高」
国はより栄え、発展し、国民の幸福度も飛躍的に成長した。
長年諍いの絶えなかった隣国との関係も落ち着き、同盟まで組めたのは奇跡と言っていい。
その証として側室を迎えたのは、今となっては英断だったと私でも思う。
『家族』としてはこの人どうなのとは思うけれど、『君主』としてはこれ以上ない人。
可愛い大切な臣民たちのことを思えば、この素晴らしい君主を精神的に追い詰めるのもよろしくない。
「…どうしたらいいのかしら」
私たちが家族になれたのも、元はと言えば国王陛下という存在があってこそだし。
とはいえ私たち家族の溝は深い。
どこから埋めていけばいいのか、難しい問題だ。
「…とりあえず、国王陛下に子供たちと接する時間を作ってもらいましょうか」
子は鎹というのだし。
そう思って、私は国王陛下に子供たちともっとたくさん接して欲しいとお願いした。
効果は抜群だった。
「母上、父上が最近やたらと構ってくださるんです」
「そうなの」
「はい。たくさん褒めてくださって、父上に認められているようで嬉しいのです」
将来国王陛下の跡を継ぐ長男は、今まで放置されていたからか国王陛下の変わり様に大喜びして、最近たくさん褒めてもらえると嬉しそうに報告してくれる。
下の子達も同じく。
そして、側室の子も。
それがきっかけで国王陛下と子供たちの話もよくする様になり、自然と国王陛下は『家族』の間に入れる様になった。
そして国王陛下は私に言った。
「すべては君のおかげだ」
「いえいえ」
私は別に、今更国王陛下をもう一度愛したわけではない。
『君主』としては最高である国王陛下を、追い詰めたくなかっただけである。
だから私のおかげと言われても…別に何も感じない。
「今更ながら、君にはたくさん支えてもらった。感謝している」
「国王陛下の妃として当然のことです」
「…今更、愛していると言っても遅いか?」
「そうですね」
「…そうか」
別に悪感情は湧かないが、嬉しくもない。
もう、国王陛下をもう一度愛する気もない。
そんな私に、国王陛下は寂しそうに笑う。
「…妃を顧みなかった私の自業自得だな」
「そうですね」
「でも…それでも、愛してる。今更でも」
その言葉をもっと早く聞きたかった。
そう思ってしまうのは、許して欲しい。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
楽しんでいただけていれば幸いです!
国王は家庭内で孤立してからやっと家庭を顧みるようになりましたね。
君主としては申し分ない方だからこそ、残念でしたね。
彼女は多分、今更もう一度愛するのは難しそうですね。
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