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第7話 見えないところまで

 お母さん………。どこに行ったの………?

 

 ひとりにしないでよ………。


 ………お母さん…………。


 どうして穴の中から出てこないの……?


 どうして動かないの………?


 はやく………帰ろうよ………。


 お父さんもおうちでまってるよ。


 ズルッ!!


 ドゴォン!!!!










 


         ………………。


 小さな少年のシルエットをした黒い悪霊………は、少しずつ、顔の左側から煙のように消えて行こうとしている。

 終わったみたいだ。

 すると、真っ黒で顔のパーツを識別しずらいが、悪霊の消えかけていた顔の右側から、涙の雫が、ぽろっと流れ出ていた……。少年のような背丈の黒い悪霊から、涙が出ていた……。真っ黒な顔で表情など読み取れない。が、涙を流すその様子だけでなんとなく伝わる……、悲しくて、寂しそうな……そんな感情が……不思議と伝わってくる……。


 …………………。

 あの悪霊は…………、泣いていた……………。


     


      ……………………………………。




 「おいっ」

 「!?」

 背後から突然声が。振り向くと、声の主はレイだった。

 「ぼーっとしているが、大丈夫か?」

 レイは心配してくれた。

 「あっ、うん。大丈夫……」

 

 「…………………ねぇ、レイ」

 「なんだ?」

 「俺はまだ霊媒師になったばっかりで、まだまだ悪霊のこととか、わからないことも多いけどさ。ちょっと、思ったんだ…………」

 

 悪霊や怪異のことなんて、まだわからない事が多い。けど、さっきの悪霊の涙を見て、ふと思ったこと、それは……、

 「悪霊ってさ………、本当に、悪いやつばかりなのかな……」

 言葉を続ける………。

 「いや、もちろん人に危害を加えたりしたし、悪いやつかもしれないんだけど…… 、でも、元々は俺たちみたいに生きていたわけだし、たとえ悪いやつでもそうならざるおえなかった事情とか、同情できる部分ももしかしたらあったかもしれないし、………俺たちが見えるものだけで勝手に悪だって決めつけたり、後ろ指さしているだけかもしれないじゃない………。本当は、見えないところまでちゃんと見ようとすることが………、大切なんじゃないかな………」


 


 「……………たしかに………、そうかもしれんな………」

 とレイ。




 そう俺がレイに話している間に、目の前の小さな少年の怪異は、ゆっくりと夜に輝く月の中へと消えていった………。

 

 ガクッ


 俺は力が抜けるように、体がよろけて尻餅をついた。

 「……大丈夫か?」

 後ろからレイが手を差し伸べてくれた。俺はその手に掴まり、立ち上がる。

 「ありがとう、………ちょっと力が入らなくなっちゃって」

 俺は頭をかきながら、あははと、力なく笑った。

 「飛鳥。今回はお前の手柄だ。よくやった」

 「ほえっ!?あっ、ありがとう……」

 思いもよらなかった言葉に俺は素直に嬉しかった。まさか、レイがそんなこと言ってくれるなんて。だけど……、

 「だけど……、正直、レイ一人でも勝てたんじゃない?あのくらい動きも速かったらさぁ。いやむしろ、俺がいない方がスムーズだったんじゃ………」

 「まあな。けど、お前がいてくれたから、一人で仕事する時よりも、まあ……、その…………、楽しかったよ……」

 レイはそう言うと、ほんの少し、にこりと笑った。

 

 レイぃぃ。なんて嬉しいこと言ってくれるんだ。

 レイはちょっと最初は無愛想に見えたけど、案外いい人で、優しい人なのかもしれない。顔はちょっと強面だけど。


 「やあやあやあ。二人ともご苦労さん!」

 と、急に後ろからさっと現れたのは二階堂さんだ。疲れ切ってて気配に気づかなかった。

 「二階堂さん……。どうしてここに……」

 と俺。

 「決まってるじゃないか。心配になってきたの。けどまあ見たところ、それは杞憂だったみたいだね」

 二階堂さんは「はははっ」と笑う。

 まったく、こっちは随分と危ないところだったというのに。この疲れ切った俺の様子を見てよくいう。

 「いや、見たところって……。俺はともかく飛鳥はへとへとっすよ」

 とレイが軽いツッコミを二階堂さんに入れた。

 周りを見ると神隠しにあった人たちが倒れている。術が解けて皆んな地上に戻ったのだ。二階堂さんが倒れた人たちにかけ寄り様子を見ると、気絶しているだけで特に異常はないとのことで安心した。

 

 安心して肩の力が抜ける。すると二階堂さんが俺とレイに、

 「二人とも疲れたろ。帰ってコーヒーでも淹れるからゆっくり休みな」

 と言ってくれた。こんな時間にコーヒーかあ、と感じたけどまあいいか。確かに初めてでいろいろあったし落ち着いてゆっくり休みたい。

 しばらくすると霊媒師の事務処理班の人たちが、その場にやってきて倒れた人たちを病院へと運んでくれた。

 

 これにて一件落着。後は俺とレイ、二階堂さんの三人で他愛もない会話をしながら夜の山を降りて帰る。

 

 そういう取り止めのない、他愛もない話をしていると、兄さんと二人でどうでもいい話をして笑い会っていた日々を思い出し、なんだか……漠然と幸せだなと感じた。あの時、死ななくて良かったと思えた。こういうパッとしない小さな幸せが今度はずっと続いてほしい……。

 

 帰る場所があるって、やっぱり幸せなのだと、俺は月の光に照らされながらそんな気持ちに浸っている。

 

 

 




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