第3話 竜崎レイ
二階堂さんに助けられた俺は、二階堂さんのところで、霊媒師として共に働くことになった。主にバイトとして、住み込みでいいとのことだ。二階堂さんに生き返らせてもらったあの日から、一週間ほどが経つ。俺は家の荷物をまとめ、私服の白いパーカーに黒い長ズボンを履き、約束の時間に間に合うように外を出た。
俺の家の最寄駅に集合とのことになったので、それからそこで待ち合わせて二階堂さんと共に電車に乗り、俺が住んでいた街からだいぶ離れた都内の街にやってきた。俺の街も人が多く、それなりにビルや建物も多かったけど、この街はさらに人混みがすごく、ビルや建物がとても高い。自動車は途切れる事なく道路を行き交いながら走り続け、バイクの騒音やラップや人の笑い声など常に何かしらの爆音が流れていた。まさに都会といった感じだ。
しかし、元々インドア派で外にはあまり出ないし、人混みが苦手なため、なんだか少しだけめまいがしてきた。
人が多いうえに、初めてきた場所だったので、二階堂さんとはぐれないようにしっかりとついて行く。
それからしばらく歩き、都から少し抜けて山の方へと入っていく。随分と街から離れていったが、山を登り続けるとやがて大きな屋敷が見えてきた。どうやらここが二階堂さんの家、というか屋敷らしい。
「随分と大きな屋敷ですね」
俺は少し興奮した。まさか山の中にこんな大きな屋敷があるなんて。しかもとても立派だ。そして和風っぽさがあってかつ綺麗。
「ここが私たちの主な拠点になる。まあ中を紹介するからついておいで」
二階堂さんの少し後ろをついて歩いていたら、横から、
「あっ、二階堂さん。どうもです」
「うおっ!?」俺は少し驚いてしまった。なんせ人型で緑色の体をした得体の知れないものがすれ違い様に話しかけてきたのだから。といっても、話しかけたのは二階堂さんにだ。
「あっ。河童さん!どうもです」
二階堂さんも挨拶を返した。見た目でなんとくわかっていたが、あれは河童だ!本物!しかも丸メガネをかけていて、雰囲気的には少しおっさんぽさがある。
その河童はすでに俺たちの後方へと通り過ぎていったが、俺は今でも動揺している。なんせ本物の河童を見てしまったのだから無理もない。そうしていると、二階堂さんが教えてくれた。
「あの怪異は河童だよ。まあ名前くらい聞いたことあると思うけど。君の中には怪異の部分がほんの少し残っているわけだから、怪異も見えるようになっている。まあでもすぐに慣れるさ。彼は二階堂家と昔から親しくってね、もう何百年も前からこの辺りの敷地に住みついているらしい。まあ私たちの家族みたいなものさ。あっ、君のこと紹介し忘れてたな……。まあいいか、怪異のことならいろいろ詳しいからまたそのうち挨拶がてら話に行ってみてね」
「あ、はい」
何百年も前からこの辺りに住みついてるのかあ。河童………。初めて見たし、まだ衝撃がわずかに残っている。けれど、前に大きな恐ろしい怪異に襲われたばかりだし、あれと比べたらまだ親しみやすそうで安心だ。優しそうな怪異だし、ぜひまた挨拶しに行こう。
屋敷の中に入り、いろいろ説明してもらった。屋敷の中はそこそこに広く、とても和風感があり、静かでなんだか落ち着く。木材でできた柱や、襖と障子に囲まれた部屋などがあり、なんというか江戸時代にでもタイムスリップしてしまった感覚で、非常にワクワクした。
この屋敷は二階堂家代々の屋敷らしく、今は二階堂さんが引き継いでいるみたいだ。屋敷の入り口から入って右の廊下を少し歩いたところに、一つ部屋があった。中には二階堂さんの仕事仲間、〝霊媒師〟の人たちがいらっしゃった。霊媒師というより事務処理とかの人だろうか?見た限り十六人くらいだ。みんな大人だ。二階堂さんの紹介に預かり、俺も皆さんに挨拶した。元々人付き合いが苦手なタイプなため、見上の人に挨拶するのはとても緊張したけど、声は届くくらいには出せたようだ。どの人も気の良さそうな人たちだったけど、どこか暗い雰囲気を感じた。
この屋敷に来るまでに、霊媒師は命懸けの仕事だと二階堂さんに何度も言われた。俺もそれは覚悟の上で来たが、この人たちを見ていると、本当に命懸けで苦しい仕事なのだと改めて認識した。
俺の部屋の場所も教えてもらい、一通り屋敷と仕事の説明はしてもらった。霊媒師とはだいたい平安時代から国が直接設立した組織であり、霊媒師の仕事は悪い怪異、〝悪霊〟を社会から秘密裏に除霊し、人々を助ける事だ。
それから俺は襖と障子に囲まれた個室で待つことになった。二階堂さんが俺と同じく住み込みでバイトとして働いている子を紹介してくれるそうだ。
(…………静かだなあ)
部屋で一人待っていると、本当に静かだ。都から離れて、自然という山の中だからというのもあるだろうけど。
五分くらい待っていたら、襖が横にスライドした。襖から二階堂さんと一緒にもう一人、俺と同い年くらいの青年がやってきた。女の子に好かれそうなキリッとした整った顔立ちをしていてイケメン、ハンサム顔だ。ショートの黒髪に、身長は俺より少し高めで、白いTシャツの上に黒いカーディガンを前を開けて着ており、黒い長ズボンを履いている。目つきが悪く少々強面な感じで、率直な第一印象はちょっと冷たくて怖そうな人、といった感じ。
二階堂さんが紹介する。
「やあ、待たせたね。紹介するよ。この子は「竜崎レイ」霊媒師として住み込みでバイトをしている。まあ君と一緒。ちなみに歳は君と同じだ。仲良くしてやってくれ」
俺と同い年か。気が合いそうだ。俺も彼に自己紹介した。
「あっ、はい!あの、俺は火野飛鳥って言います。あのっ、よろしくお願いします!」
兄さん以外の人とあまり話すことはなかっため、緊張して言葉が詰まり、なんと挨拶すれば良いのか分からなかった。あぁ……。自分が嫌になる。つくづく俺はコミュ障なのだなと痛感する。
「………竜崎レイだ。………よろしく」
竜崎君は無愛想に俺に挨拶した。
さて、これから俺はちゃんとやっていけるのだろうか……。
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