8.夜は特に何もなかったから、朝食くらいちゃんとしたい
夜。俺とルルティアで別々に体を洗った後、寝室のベッドに2人で座っている。10分くらい無言のままだ。
いや、だってさ…こうなると思わないじゃん。助けたとはいえ、出会って初日なのに股を開けって言われてさ、オーケーするとは思わないじゃん。そういう倫理観なのか、この世界は…。
チラリと隣のルルティアを見る。
でも、これはチャンスなんじゃないか?前世はまだ学生だったが、女子と接点すら無かった。大人になっても童貞なのは決定事項だった。そんな奴が異世界に来て初日で、こんなかわいい子で卒業できるんだぞ?何を躊躇うことがある。据え膳食わぬは男の恥!お互い布1枚取っ払えば隔てるものは何もなくなる。そうなればもう怖いことはない。あとは欲望に従うだけだ。
俺はそっとルルティアの手を握る。
「っ…」
そこで俺は気づいた。ルルティアがずっと震えていたことに。
そうだ、ルルティアは娼婦でも痴女でもないんだ。元はといえば俺が言ったからこうなってるんだ。ここで彼女を襲おうものなら本物のクズに成り下がってしまう。
「ルルティア、横になって」
「…は、はい」
言われた通り、ルルティアがベッドに寝そべる。
俺はそのまま毛布をかけてやる。
「ご主人様…?」
「俺に、怖がってる女の子を無理矢理抱く趣味はないからなっ。お互いが求めるようになってからでも、遅くないだろ。これはルルティアのせいじゃなく、俺の信条の話だからな」
「…申し訳、ありません」
精一杯フォローしたつもりだったが、やはり嫌でも察してしまうだろう。
「大丈夫、時間はたくさんある。だろ?」
俺は優しくルルティアの頭を撫でてやる。
「……ありがとう、ございます」
「だから、今日はゆっくり休みな」
「……はい」
俺はルルティアが眠りに落ちるまで、頭を撫でてやった。
こうして、異世界転生の初日が幕を閉じた。
◇ ◇ ◇
早朝。庭先で倒れたゴブリンを離れたところに運ぶ。
「あ゛〜……」
結局昨日はリビングのソファで寝た。まあ、ほとんど眠れなかったんだけど…。
実際俺は途中までヤル気だった訳だし…なによりルルティアの体が頭から離れなかった。彼女を横から見たら、それはそれはもう立派なオリンポス山が聳えているんですもん。男なら誰しも釘付けになるようなお山が目の前にあった状態で、よく我慢した俺よ。
「よいしょーっ」
ゴブリンを運び終える。
そういや、こいつらって何か素材とかにならないのかな。異世界ものだと、よく素材をギルドに売ったり討伐しただけでお金貰えたりするけど…。
まいっか、金ならいくらでも生み出せる。俺自身が金のなる木だ。金貨1枚作るのに通常速度で3時間弱かかるけど…。変なルールだぜまったく。
そのまま家に戻り、顔を洗う。相変わらず、鏡には銀髪のイケメンが映っている。
「これで強けりゃ完璧なのになぁ…」
「おはようございます」
ルルティアが起きてきた。
「ああ、おはよう」
「すみません、ご主人様より遅く起きてしまって」
「そんなん気にしなくていいのに。じゃあ早速朝ご飯にしようか」
ルルティアが来たことによって昨日の夕飯の時点で食べ物がなくなった。元々、今日の朝ご飯までギリギリの量を買ってたから仕方ない。
そこで、起きてすぐに創生魔法を使って食べ物を生み出した。食パン4枚、牛乳1パック(1L)、レタス半分、ミニトマト4個、ブルーベリージャム1瓶。”さら”に、”皿”4枚、コップ2個、スプーン1本。通常速度とはいえ、これだけでMPが18もってかれる。今更だけど、複数のものを同時に作ることも可能だった。
それより何で昨日ワイングラスなんか作ったんだ、大人しくコップ作っとけや、馬鹿なんか。
そんなことは置いといて、まずレタスを水洗いしてから葉を適当に千切る。ミニトマトも蔕を取ってから水で洗う。それらをいい感じに皿に盛り付ける。
そして食パンを2枚ずつ皿に乗せる。ジャムは食べる直前に塗るのがいいだろう。皿を移すと共にテーブルの真ん中に置いておく。
牛乳をコップに注いで、完成!と言いたいところだけど、なんか物足りない。まあ、たんぱく質がゼロだもんな。俺は別にいいけど、ルルティアを栄養不足にさせる訳にはいかない。
そこで、追加でツナ缶、マヨネーズ、キッチンペーパー、小さいボウルを4倍速で作る。MP-16…残りMP66、まだ朝っぱらなんだけどな…。
キッチンペーパーでツナの油を切る。十分切ったら、小さいボウルにツナとマヨネーズを1:1の量で入れる。空気を入れるようなイメージで、スプーンを使ってよく混ぜる。
出来たツナマヨを食パンに塗って半分に折る。ついでにもうジャムも塗ってしまおう。もう片方の食パンにジャムを塗って、今度こそ完成!ジャムとツナマヨを塗った食パンと適当サラダと牛乳。
なんかあれだな、ほとんど料理しなくても美味そうな飯って作れるんだな。…今のは撤回、全世界の料理してる人に謝ろう。
「さあ、食べようか」
「はい」
「「いただきます」」
その直後に俺は箸が無いことに気づいた。めんどくさいからこれも後でいいや、ルルティアなんて全く気にせず食い始めてるもん。
ルルティアがジャムを塗った食パンを食べる。
「ん〜〜…ふわふわのパンに果実の甘みと少しの酸味が絶妙なバランスで美味しいです」
今度はツナマヨサンドを頬張る。
「こちらは少ししょっぱさがありますね。さっきの甘味との対比で美味しさが引き出されている感じがします。野菜もみずみずしくて大変美味しいです」
この子食レポ上手すぎない?それに相変わらず食べるスピードが早い。
俺も食べてみる。
「美味え…」
思ったよりも美味かった。
だが朝食の出来よりも、ルルティアの嬉しそうな顔が見れたことの方が、満足している。それに加えて、なんか新婚さんみたいだなと思う俺であった。