6.努、夢を
悲報、俺氏、クソ雑魚であった…。
彼女の、ルルティアのMPが5000で、俺のMPが100……あ、1000か!(※100です)俺のMP1000だっけか!(※100です)
そうだそうだそうだった………。
「ねえ、ルルティアのMPってさ、めっちゃ高いとかだったりする?」
「えっと、平均的なものだと思います」
「今までMPが100の奴って、見たことある?」
「えっと…え、え〜っと…」
ルルティアがわかりやすく目を逸らす。
ないってことか。ナッシングか…。ナッシング〜……エド・はるみ……へへっ。
何が「顔がいい一般人」だ、あのクソ神が。一般人どころかその下位互換じゃねえか。マジでふざけてやがんなあいつ。
…まあいい、俺には創生魔法がある。これで東京タワーでもサグラダ・ファミリアでも造ってやるわコラ。
改めてルルティアのステータスを見ると、〈スキル〉は無く、〈魔法〉のところには回復魔法とあった。
「ルルティアって、回復魔法使えるんだ」
「持っているだけで、使えませんが…」
「魔法を持ってても使えないことがあるの?」
ルルティアが再び手枷を見せる。
「この手枷がある限り私は魔法を使えません。なんでも、魔力の流れを阻害する鉱石と身体能力を低下させる魔物素材が使われているとか。一度奴隷まで堕とされると、一生そのままでいることがほとんどです。ですので、私はもう、魔法を使えません…」
よくできてるな。どれだけ元が強くても、この手枷があれば誰でも奴隷として扱うことができる。もし暴れたとしても、簡単に対処できるだろう。仕組みとしては納得できる。
ただ、目の前の美少女に悲しい顔をさせているのは許せない。見たところ、手枷には鍵穴のようなものがある。鍵があれば外してあげられるだろう。ただ、これに関してはおっちゃんに言っても無理だろうな。知り合ってまだ1日だし。…。
創生魔法、どこまで融通が利くかな。いいや、ものは試しだ。
〈創生魔法〉この手枷の鍵
そうすると、テーブルの上に半透明の鍵が浮かび上がる。
「そ、それが、創生魔法というものですか?」
「うん。少しかかると思うから、もうちょっとお喋りしてようか」
それからおよそ15分。俺とルルティアは互いの出自や半生を語った。といっても、俺はこの世界に来てまだ1日足らずなのでほぼ作り話だけど。
…6話なのにまだ1日もたってないのか、終わってんな。
そんなルルティアは西の共和国の田舎の出身だという。両親と共に平和に暮らしていたが、数年前の北の王国と南野拓実……違う、南の魔族国家との戦争に巻き込まれて、家を失い奴隷になってしまったらしい。ちなみに、いま俺がいるところは王国の西側だ(おっちゃん情報)。
やっぱり奴隷の生活は酷いもので、おおよそ人の暮らしではなかった。ご飯も残飯しか出されず、暴力を振るわれることも珍しくなかった。中には、魔法の的にする奴もいたそうだ。逃げ出す者もいたが、逃げた人たちは誰一人として帰ってこなかった。森に逃げれば魔物に襲われ、街道に逃げれば盗賊に捕まり嬲られ、街に逃げれば騎士に捕まり再び奴隷商人に引き渡される。その手枷こそ奴隷の絶対的な象徴なんだ。
奴隷ハーレムを作るとは言ったが、俺のハーレムにこんなものは必要ない。俺が望むのは道具に頼った支配ではなく、お互いを尊重し合う心だ。
「そろそろ出来たかな」
完成した物を持って感触を確かめる。出来たのはどこにでもありそうな棒鍵。
「あの、その鍵は…?」
「ちょっと両手を出してくれる?」
「は、はい…」
ルルティアが両手をテーブルの上に出す。
俺はルルティアのそばに寄り、手枷の鍵穴を見る。
(入るかな?)
鍵穴に鍵を挿し込む。そのまま鍵をゆっくり回す。カチャという音と共に、手枷が外れ、テーブルの上に落ちる。
顔を見ると、ルルティアが目を丸くして驚いている。そのまま反対の手枷も外してやる。
「これでよしっと、もう魔法が使えないなんて落ち込むことはないよ」
ルルティアは手枷が外れた両手首をジッと見つめている。
12年前
「ママ!」
「どうしたの?」
「これ、見て見て!」
「…ルル、回復魔法を使えるようになったの?」
「うん!」
「さっすが私の娘ね〜!」
「私決めた!この魔法で、ママが風邪ひいてもパパが怪我しても私が治してあげる」
「そりゃあとても助かっちゃうね〜」
「それでね、村のみんなも街の人たちも、世界中の人たちだって、この魔法で私が助けるの!」
「でっかい夢だね。ルルなら、きっと出来るさ!」
ポタ ポタ
ルルティアが涙を流し始める。
「グスッ……うぅ……」
両手で拭っても拭ってもとめどなく涙が溢れてくる。
ルルティアの言葉から、彼女はこれから数十年の人生をすでに諦めていたのだろう。奴隷になって、魔法も使えず、吐き気がするような日々が死ぬまで続くのだろう、と。
そんな未来がいきなり壊れて、再び光り出したのだ。泣き出してしまうのも無理はない。
俺は、泣きじゃくるルルティアの頭をそっと撫でてあげた。