4.魔法を試してみたから、女の子を助けたい
「奴隷ハーレムを作る!!」と息巻いたはいいものの、やはりそう単純な話じゃない。
奴隷商のおっちゃんからいろいろ話を聞いた後、あの家に戻ってきた。
時計を見るとすでに2時過ぎになっており、自分がとても空腹になっていることに合点がいった。
「よし、異世界に来て初めての食事だ。パン1個だけだけど…」
おっちゃんに市場の場所も教えてもらって、明日の朝食までの食べ物を買ってきた。パン4個と果物4つ、これで銀貨1枚が消えた。
このままいくと5日後くらいには、一文なしになるなぁ。はっはっは…。
………。異世界転生ってここまで切羽詰まるもんなのか…?
そんなことを考えながら、目の前のパンを食べる。
「……美味い」
予想の10倍美味いな、このパン。異世界だからって勝手にパッサパサのものだと思ってたけど、ちょうどいい焼き加減で外はサクッと、中はフワッとしてとても美味しい。ジャムとかマーガリンが欲しくなるな。
「ごちそうさま」
こっからどうするか。夕飯を食べる時間までかなりある。
やっぱり試してみたいよな、創生魔法。
この世界に来てすぐの時に「MPが0になって衰弱死」なんて心配があったから後回しにしてた訳だが。おっちゃんによると、MPは減ったら徐々に回復していくらしい。そしてもしMPが0になった場合、1〜2時間気絶するらしい。即死とか一生動けなくなる訳じゃなくて安心した。
創生魔法ってくらいだから何かしら作れると思うんだが、何作ろう。金貨、刀、ピジョンブラッド、ランサーエボリューションⅢ…う〜ん。
最初はりんごでも作るか。
試しにテーブルの上に向かって魔法を念じてみた。
すると、テーブルの上に半透明のりんごが浮かび上がった。
「え?」
半透明のりんごは、下から段々と色を帯びていき、5分くらいで赤々と美味しそうなりんごになった。
「お〜、こんな感じなんだ」
すぐにステータスを開いてみると、MPは99となっていた。
(1しか減ってないな。もっといろいろ試してみるか)
それからいろんなものを作り、ある程度法則が分かってきた。
基本的に一つ何かを作るとMPを1消費する。何かを作る時、それが完成するまでの時間は前いた世界の「値段」が基準になっている。例えばさっきのりんごは完成まで約5分かかった。5分は300秒。確か近所のスーパーで売ってたりんごが300円くらいだったはず。100均のボールペンを思い浮かべて魔法を使ったら100秒かかった。1円=1秒がデフォルトのスピードだろう。
次に、MPをさらに消費すれば完成までの時間を短縮できることも分かった。通常300秒かかるりんごが、MPを2消費すれば半分の150秒で、3消費すれば100秒で作れることも分かった。この法則でいくと、完成までの時間を何倍速にしたかに応じて、同じMPが減っていくということになる。10倍速なら10、100倍速なら100のMPが減るということだ。
ちなみに途中の半透明のものには、触れはするが全く動かせない。押しても引いてもびくともしない。
(この魔法…思った以上に便利だな)
食べ物やお金も作れるし、下手したら現代の車とかもマジで作れるかもしれん。MPもまだ80あるし、他にも作ってみるか。
そうして次はトランプを作ろうとした時、窓の外からこっちに向かって走ってくる人影が見えた。
「ん?」
目を凝らして見ると、長い黒髪の女の子が、2体の人型の何かから逃げていた。
「あれは…」
肌が緑色で、顔はしわくちゃで醜く、雑魚キャラの定番で、有名作品から薄い本まで幅広く登場している魔物。
「まさか…」
そいつらの名前は…そう、ゴブリン。
「本物だ。モノホンのゴブリン!すっげ…いや感動してる場合か、女の子襲われてんだぞ!」
何か武器…クッソ、この家なんもねぇんだった。
こうなったら、〈創生魔法〉75倍速!
テーブルの上に半透明のものが浮かび上がる。
「早く早く…」
ヤバいこのままだとゴブリンが家に到達する方が早いぞ。
「かくなる上は…」
完成を待たずに、りんごを何個か持って玄関に向かう。
「早く!この中に入るんだ!」
女の子にそう叫ぶと、一直線にこちらに向かってくる。
ようやく、女の子が家の入り口まで来る。
ガスッ
そしたら、女の子が玄関の欄間に頭をぶつける。
(え、この子、身長たっけ。てか洋風建築に欄間?)
ゴブリンが迫ってくる。
いや、いらねえこと考えんな!
「これでも食ってろ!」
ゴブリンに向かって、あるだけのリンゴを投げる。
ゴブリンは防御姿勢をとった後、地面に落ちたりんごを食べ始める。
「ま、まだか?」
テーブルを見ると、ちょうどそれが完成する。
(よっしゃ!)
勢いよくそれを取る。
外に出る途中で女の子に…
「ここで待ってて、すぐ戻る」
と、イケメンが言いそうな言葉(本人の偏見)を言ってやる。
出ると同時にゴブリンが2体ともこっちを見る。
「命が惜しけりゃ、回れ右して帰んな。じゃなきゃ、こいつでお前らをボコボコにしてやんぜ。この、安物の金属バットでな!」
金属バットをゴブリンに向ける。
(帰ってくんねぇかな〜。てか言語ってゴブリンにあんのかな?ヤバいヤバい、またいらんこと考えてる)
そしたら、ゴブリンの1体がジリジリと距離を詰めてくる。
「はぁ〜、お前らブスな上に頭も悪いときたか。そんな奴にかける言葉は一つだけ」
片方のゴブリンが走ってくる。
「バカとブスこそ…」
棍棒を振りかざして飛びかかってくるゴブリンの…
「東大に行けー!!!」
頭にフルスイングを食らわせる。
ギ…ギギャー
もう片方のゴブリンも飛びかかってくる。
「お前は藝大じゃー!!!」
こっちも同じようにして倒す。
どちらも頭から血を流して動かなくなる。
初めて魔物を倒した。人を助けるためとはいえ、いい感触ではなかった。