3.この世界で初めて知人ができたから、いい加減目的を決めたい
突き飛ばされて入った路地の奥から突然声をかけられた。
後ろを向くと、ハンチング帽を被った無精髭のオジサンが立っていた。
「おいアンタ、用がねぇならどっか行け。商売の邪魔だ」
「あ、えっと…」
どうしよう、この人に水の在処訊く?でも、見るからに怪しいし…。それに路地裏で商売って、完全にシャブじゃん。スピードじゃん。ヤクの密売人に道なんて訊けるか。言われた通り退散しよう。
「ちょっと待て」
「え、なな、な、なんすか…?」
「ちょっとこっち来い」
オジサンが指をクイクイとして、路地の奥に誘う。
「…」
俺の異世界生活、終わったかも。まだ女の子と出会ってすらいないのに…。
「早くしろ」
「は、はい…」
俺は黙ってオジサンの後をついて行った。奥に進むにつれて段々と暗くなっていき、両側に聳える建物の屋根の間からしか光が届かなくなった辺りで突き当たりの角を曲がる。
「…え!?」
間抜けな声を出して驚いてしまった。なぜなら曲がった先には、手枷をつけてボロ布を1枚だけ着た人たちがずらりと並んでいた。
「…奴隷?」
「ああ、そうだ」
するとオジサンが奴隷の1人に「水を一杯持ってこい」と言った。
指示を受けた奴隷が小走りで路地の更に奥に行った。
「…」
「どうだ?」
「え?」
「欲しいやつはいるか?」
オジサンが並んでる人たちを指さして問いかける。
「奴隷を売ってるの?」
「ああそうだ」
「シャブじゃなかったんだ…」
「そんなもん売ってねぇわバカタレ」
「じゃあチョコとかアンパンは?」
「同じだアホ」
漫才みたいなやり取りをしてると、さっきの奴隷が戻ってきた。
水が入ったコップをオジサンに渡した。そしたらオジサンが少し飲んだ。
「ほれ」
オジサンが、口をつけたコップをそのまま渡してきた。
え、これ飲めって?俺に異世界に来てまでおっさんずラブをしろと言うのか。
「毒とか入ってねぇって証明しただけだ。早く飲め」
「あ、そういうこと」
俺はコップを受け取り、口をつけてない部分から水を飲む。やはり喉が渇いた時の水は何よりも美味い。な〜んだ、おっちゃんめっちゃいい人じゃん。
水を一気に飲み干し、コップを返す。
「ありがとう、マジで助かった」
「貸しにしとくぜ」
「あの、水ってどこにあるの?」
「中央広場の噴水からいくらでも取れる。水入れる皮袋もその辺で売ってる」
「そうなんだ。他にも訊いていい?」
「別に構わねぇ」
こうして俺はこの世界で初めて知り合いができた。異世界もので大体最初に出会うのはメチャカワな女の子だと思ってたけど、頼りになるおっちゃんも悪くない。
おっちゃんに訊いたことを整理すると、貨幣は銅貨・銀貨・金貨の3種類。銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚になるらしい。次に、国は大きく分けて4つあり、その中の一つに魔族国家があるらしい。すごい。歴史についても少し教えてもらった。数年前、勇者と魔王が戦い、勇者が勝って魔王が死んだ。以降、魔族国家は国として存在してるものの、勇者が王に即位した王国に主権を握られている、らしい。最後に一番重要な、種族について。大きく分けて人間・亜人・魔族の3種類がいるという。俺たち人間と、ドワーフやエルフや獣人の亜人と、人の形をした魔物と言われている魔族。
「あれ、じゃあさ、亜人と魔族の奴隷もいるの?」
「当たり前さ」
その時、俺は閃いた。異世界です、亜人です、奴隷です、をガッタイ!!させると一体どうなっちゃうのか〜。奴隷ハーレム、ダメ〜なんて誰にも言わせん。兼ねてより俺の夢だった異世界転生は叶った。ならば、もう一つの夢である、奴隷ハーレムを作ること。これを最終目標にしよう。俺はエルフとかドラゴン娘とかとイチャイチャするんだー!!
「…」