2.知識が皆無だから、いろいろ知りたい
「…さ〜てと」
喜ぶのもそこそこに、ちゃんと考えよう。
俺はこの世界について何も知らない。ちゃんとした国があるのかどうか、あるとしたら国家間の関係はどうなのか、種族について、金銭について、四季が存在するか、すれば今はいつなのか…。この世界の常識と言えるものを俺は知らない。
だから、浮かれる前に情報を集めよう。そうしなきゃ多分死ぬ…。
改めて辺りを見渡す。後ろにはレンガ造りの一軒屋、その家を円形に囲うように木が立ち並んでいる。小道が一つ、外に続いているだけである。他の家などの人工物は見当たらなかった。
(ここはどこかの森の中なのか…?)
次は、お馴染みのアレが出せるかどうか。
「…スゥ」
深く息を吸い込んで、手で顔を覆う厨二チックなポーズをとって、精一杯のイケボで…。
「Open the status」
そう唱えるとヴゥンという音と共に、マンガでよく見たステータス画面が目の前に表示される。
「マジで出てきた…」
画面には、一番上に「ハルト・イケガキ」と自分の名前が。その隣には「村人」の文字が。名前の下には「MP100/100」の表記。またその下には〈スキル〉、さらに下には〈魔法〉の欄があった。〈スキル〉は空欄で、〈魔法〉のところには「創生魔法」とあった。
「攻撃力とか敏捷性とか細かい数値は無い。MP、つまり魔力の数値だけ。スキル無しで、魔法は創生魔法っていうのだけ。…これ本当に転生した奴のステータス画面か?この創生魔法ってやつ以外本当に一般人じゃねえのか、あの神やろう…」
…まあ、ここで憤っててもしょうがない。文句は後にしよう。
それにこの創生魔法を試すのも後だな。一回使ってMP0になって動けなくなって衰弱死なんて洒落にならん。
ステータスについてはこれくらいにして、お次は…。
レンガ造りの一軒屋。そのドアの前に立つ。
(これが神様が言ってた家だよな。でも念のため…)
コンコン
ノックするも、誰の返事もない。
「…」
コンコンココンコン
「雪だるま作ろ〜♪…ドア開けるよ〜♪」
ガチャリと入り口のドアを開ける。
外観と同じく、内装も西洋の造りであった。
床は自然素材でできており、家具は木のテーブルや椅子。天井にはアンティーク調の照明がぶら下がっていて、さらに壁には暖炉がありとてもレトロな雰囲気だ。浴室もトイレもあるし、かなり現代的な家だ。
…いや、現代的すぎる。この世界の生活水準がどのくらいかはまだ分からないけど、照明って…。今まで異世界マンガで電気通った家とか見たことないぞ。極めつけはこれだ。コンセント。いや世界観。神様世界観が…。しかもコンセントあるくせしてテレビはおろか電化製品が一つもないんだけど。ふざけてんのこれ?
…だめだ、ツッコミだしたらキリがない。
ちなみに時計もあって、ちゃんと12進法だった。
あと鏡に映った自分を見てみたら、銀髪のイケメンがいた。
「え?くっそイケメンじゃん。ほんとに俺かこれ。以前のデブでブスの根暗陰キャとは大違いだ。この容姿ならワンチャン、ハーレムとか目指せんじゃないか?」
それと、2階の一室から地図を見つけた。それによると、ここから遠くない場所に街があるらしい。時間もまだ午前10時だし、次は街に行ってみよう。
そうして俺は、家を出て外に続く小道を歩いていった。
◇ ◇ ◇
なんにも無い草原を歩いておよそ40分、ようやく街が見えてきた。そこそこ大きな街のようで、デカい壁は無いものの、3mくらいの塀で囲まれている。門が開いた入り口には、検問のようなものが見えた。
「検問、盗賊とかの対策か?」
鎧を着た兵士2人が、街に入ろうとしてる人を止めている。少し話をするだけで通しているみたいだ。
今の俺の所持品は、地図と銅貨5枚、銀貨5枚だけ。だから普通に通してくれると思うが、一つ懸念点が…。
言葉が通じるかどうか。通じればどうにでもなるが、そうじゃなければ街にも入れない。
……祈るか、こういう時は必殺「神頼み」だ。
内心で合掌しながら検問に向かう。俺が行った時は幸か不幸か人がおらず、すぐに検問に到達した。
(頼む、日本語聞こえろ、日本語っ)
騎士の一人が近寄ってくる。
「お疲れ様です」
(あ、良かった日本語だぁ…)
「レルテには何をしに?」
「えっと、買い物を…」
(買い物って理由で大丈夫かな…てかレルテっていう街なんだ)
「それでは、ステータスの提示をお願いします」
「ステータス?」
「はい、出来ませんか?」
「あ、いえ。ステータスオープン」
最初と同じようにステータスを表示する。
「…」
「はい、大丈夫です。どうぞ」
そう言うと、もう一人の騎士が鉄柵を開ける。
「どうも」
俺は2人に会釈をして街に入った。
思ったより簡単に通してくれた。ステータスを見せろって言われた時はビビったけど、もしかしてこの世界のステータス画面は身分証の役割なのか。
街に入って最初に目に入るのは、ネコミミがついてる人、立派な髭を生やした小学生くらいの背丈の人、背中に剣を携えた屈強な人。獣人、ドワーフ、冒険者が当たり前に道を歩いている。まさに夢のような光景だ。感動で泣きそう。
まあ泣くのは後にして、こういう街に来て最初に行くのはどこか。ギルド?中央市場?いいや、水飲み場!40分も歩いて喉が渇いた。
とりあえず、歩きながら人に訊いてみよう。
〜10分後〜
俺、気づいちまった…。姿が変わっても中身は前と同じ。つまり、コミュ障の俺が他人に道を訊くなんて、無免で大型バス運転するくらいハードル高い。
でもそろそろヤバいかもな、背に腹はかえられない。内輪差なんて考えてらんない。キョドりながらでも訊くしかないか。
ガツッ
「いたっ…」
考え事をしてたらガタイのいい2人組の片方にぶつかってしまった。
「あ…すいません…」
ドカッ
小声で謝ったら、肩を強く押されて路地裏の中まで突き飛ばされた。
「前見て歩きやがれ、ボケが」
そう言い放って2人組は立ち去った。
「いって〜…なんなんアイツら。ぶつかっただけで突き飛ばすとかモラル終わってんな」
「おい」
突然、路地の奥から声がした。
「え?」
「ここはアンタみたいなのが来るとこじゃねぇよ」