18.ルルティアの夢を応援したいから、教会に行ってみたい
おっちゃんから教会の話を聞いた翌日。早速ルルティアを連れてレルテの教会に向かう。
「その教会がよく人の怪我とか治してるらしいんだ。そこでなら安心してルルティアの魔法で人助けができると思ったんだ」
「本当にありがとうございます。自分の夢だと言ったのに、結局ご主人様に頼ってしまって…」
「”妻”の夢を応援するのは当たり前だろ?」
「…ありがとうございます、えへへ」
ルルティアがはにかんだ笑顔を見せる。
可愛すぎ。
そんなこんなで歩いていると、教会が見えてきた。
外壁は白く、横の窓は大きなステンドグラスになっており、屋根のてっぺんにはなぜかひし形がついていた。こういうのって普通十字架だと思うんだけど、この世界ではひし形なのか。というか俺、この世界の宗教観とかミリも知らないな。…まあ、宗教も何も実際に神に会ってんだけどね。
そんなことを考えながら教会の扉を開けようとした時…。
「待っでぇぇ!!あなたしかいないのぉ!お願いだから見捨てないでぇぇぇ!!!」
大声で懇願するのと同時に、ドタドタとこちらに向かって走ってくる音が聞こえる。それを察知した俺とルルティアは扉の横に移動する。次の瞬間、バタンッと勢いよく扉が開かれ中から男が走って出てくる。
「結婚してくれるって言ったじゃない!!後生です!後生ですからぁ…!」
後から修道服を着た赤い髪の女が出てきて、目の前で倒れ込む。男の姿はすでに見えなくなっていた。
「……クソォォォォォ!!結婚したいって言ったのお前やろがいっ!ざっけんなよおマジでぇ!」
いやもうどこからツッコもうか…。教会に着いたと思ったら男が飛び出てきてそいつにシスターが結婚どうこうって喚いてる。
帰ろっかな。
「あ、の…」
ルルティアが目の前のシスターに話しかけた。よくこいつに話しかける気が起きたな。
「へ?」
そこでようやくシスターは、俺たちが見ていることに気づいたようだった。
「…」
「「…」」
そしたらシスターはスッと立ち上がって、服についた汚れを手で払い…。
「教会にようこそ。今日はどうなさいました?」
一連の流れを全て無かったことにした。
「えっと、こちらの教会で人の怪我を治していると伺いました。よろしければ、その活動に私も参加させていただけませんか?」
ルルティアがそう言うと、シスターは少し考えて…。
「それは…治してほしいじゃなくて、治したいってことですか?」
「はい、そういうことです」
「ん〜…とりあえず、中で話しましょうか」
シスターが扉を開けて、俺たちを教会の中に入れる。
教会の中は天井がとても高く、その天井や壁には華やかでよく分からない絵が描かれており、奥には煌びやかな祭壇がある。身廊には普通人が座る席がたくさんあると思うが、この教会には一つもない。お祈りする人が来たらどうするんだろうか?
「教会に来るのは初めてですか?」
「はい」
「何か、献金とか必要でしたか?」
「いえいえ必要ないですよ」
「そうですか。…あの、あなたはシスターってことでいいんですか?」
「はい、私はこの教会で唯一のシスター、クリスティーナです」
できれば「いいえ」と言って欲しかった。しかも唯一って言った?こいつだけでよく潰れないなこの教会。
まあ、潰れないならそれなりの理由があるんだろうが…。
「私はルルティアです」
「俺はハルト」
「それでお2人は、修道士・修道女見習いになりたいということでいいですか?」
「俺は違うけど、やっぱり部外者のまま治癒活動に参加は出来ないのか」
「そうですね…治癒活動は教会の主な活動の一つですし、重要な資金源の一つでもあるので」
シスターの口から資金源て…。
「教会の専売特許を揺らがされても困るので、出来れば見習いになって欲しいんですが」
う〜ん、修道女見習いか…。ルルティアの夢には近づくが、一緒にいられる時間は減るよな〜。結婚してすぐだってのに…。
はぁ…俺が怖気付いてどうする?ルルティアの夢を応援するっつったのは俺だろ!ルルティアがそうしたいって言ったら笑顔で応援するしかねえだろうがこのタコ!!
「ルルティアはどうしたい?」
「私は…なりたいです。私の魔法で人を助けられるなら」
ルルティアが俺を真っ直ぐ見つめる。
よし、なら決まりだ。
「ルルティアを…」
「なりますね?なるんですね??修道女見習いに!」
そしたらクリスティーナは俺の肩を掴んでめっちゃ顔を近づけて再三の確認をした。
こいつからは、酒の匂いしかしなかった。
「あ、うん…ル…」
「ちょっと待ってて!!」
そう言うとこいつは告解室に全速力で突っ込んでいった。
そういえば、冒険者と掛け持ちってできるんだろうか?それに俺たち結婚してるし…。
そんなことを考えていると、後ろからルルティアが俺の両肩を掴む。
「ルルティア?」
ルルティアの顔を見ると、少しムスッとして俺を見ていた。あ〜…さっきあいつが寄ってきたやつか。俺はそのままルルティアの頭を撫でる。
「嫉妬?」
「はい、多分」
「大丈夫、あんなのには靡かないよ」
「…はい」
「あったぁぁぁ!!!」
バタバタと告解室から出てきたあいつは1枚の紙を差し出してきた。
「じゃあ、これに名前書いて」
紙には一番上に宣誓書とあり、その下に『私はこれより先の人生を女神様に捧げ、体が朽ちても仕え続けると誓います』との文章があった。
「その前に、俺たちは冒険者だ。それに結婚もしてる。それでも見習いにはなれるのか?」
俺はさっきの疑問をクリスティーナに訊く。
「大丈夫大丈夫〜。そんなこと気にしないよ〜」
「…あ、そう」
ルルティアが近くの机で自分の名前を書く。そしてその紙をクリスティーナに渡す。
「では早速明日から来てもらうことになりますけど、いいですか?」
「…それでいい?」
「あ、はい、構いません」
「明日から一緒に頑張りましょうねルルティアちゃん!」
「は、はい。頑張ります」
いきなりちゃん付けで呼んでやがる。キャラが不安定すぎるだろこいつ。
まあでも、これでルルティアの夢の第一歩にはなったかな。
「それではご一緒に…」
するとクリスティーナが目を瞑り、手の指を絡めて祈りのポーズをとる。
いきなりだったが、俺とルルティアもすぐに同じポーズをとった。
「努努、魂は清らかであれ。信仰は心の支柱、人生の指針、命の道標。祈りは懇願に非ず。教えは束縛でなく、まして他人を害するものでもなく、ただ、心の豊かさを問うものであるべし。愛は自他共に尊くあれ。己を信じながら疑い、戻りながら進め。光を見失うべからず。女神様、ありがとうございます」
「「…」」
「…じゃあ明日からよろしくね!」
そう言ってクリスティーナは教会の外に飛び出していった。
「イヤッフゥゥゥ↑↑↑!!!!!」
奇声を上げながら…。
明日の期待2割、不安8割って感じだ。
「明日、少しでも変なことされそうだったらすぐ逃げて俺に言うんだよ」
教会燃やすから。
「多分、大丈夫ですよ」
あんなの見た直後でよく大丈夫って言えるね。ルルティアを信じるしかないな…。
それから俺たちは外食してから帰路に就いた。




