14.神様が出てきたから、説教みたいなことされた
あれから俺は、ルルティアが抑えてくれてたウルフも倒してシドとレミの所に戻った。もちろんそいつに噛まれた左腕を治してもらってから。
2人の足元にはウルフの亡骸が10体くらいあった。やっぱりこいつらは強い、圧倒的に。
それから俺たちはレルテに戻って、ギルドから報酬を受け取った。何も役に立っていないから、もしもらえたらラッキーくらいに思っていたが、約束通り報酬の半分を渡してくれた。なんというか、申し訳ない気持ちになってきた。
今現在、俺とルルティアは家に帰ってきている。ただ、ルルティアをリビングに居させて、俺は寝室で一人落ち込んでいた。
あの依頼、ルルティアがいなければ俺は間違いなく死んでいた。異世界主人公が本来1秒もかけずに倒す相手に死にかけたんだ。
俺はまだどこかでこの世界をラノベとかゲーム感覚で過ごしていたのかもしれない。だがそれでも、現実はこうも早く飲み込んでしまうんだろうか。
今回は違かったが、いつかルルティアが傷ついてしまう時が来るかもしれない。いや、このままの状態で冒険者を続けていれば確実にその時はやってくる。そうなったら、俺は…。
今の選択肢は2つだ。1つは冒険者を辞めて、ルルティアとこのまま静かに暮らしていく。俺の創生魔法があれば、日々の生活費は心配ない。もう1つは、強くなって冒険者を続ける。浪漫はある、だけど危険だ。それは身をもって経験した。
前者が現実的だろう。所詮俺は物語のモブだったってことだ。でも、モブにしては上出来じゃないか。ルルティアって可愛い子と暮らしてるんだから。
ルルティアに謝らないとな、優柔不断で弱くて世間知らずな主人ですまないって。
俺は寝室を出て1階のリビングに向かう。
「お兄さま大丈夫ですか〜♡」
リビングに着いた瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきた。それに俺をお兄さまなんて呼ぶのは1人、いや1柱しかいない。俺は声がした方を見る。
「なんでここにいるんだ」
「いちゃいけない理由があるのかな?」
俺の目線の先には、輪郭が胡乱で、まるで光が人の形をしたような存在がいた。
「とりあえず、久しぶり。数ヶ月ぶり…ああ、君にとっては1ヶ月も経ってないか。めんごめんご」
「今更なんの用ですかい?」
「大した用はないかな。お喋りがしたいだけだよ」
神様はそう言いながら一番近くの椅子に座った。
ルルティアがこいつを認識してるのか気になって彼女を見たが…なんか、時間が止まってるようで微動だにしない。
俺も近くの椅子に座った。
「で、お喋りがしたいって?」
「うん。でもその前に、君さぁ、神様に対して敬意ってものが無さすぎない?ちょくちょく君のこと見てたけどさ、不満があれば神やろうとかクソボケとかイカれ外道とかデジタル般若とかさ、酷くない?」
「ほとんど身に覚えがないんだけど。今日はそれについて説教しに来たわけ?」
「冗談だよ冗談。言っただろ、お喋りがしたいって。どう、念願の異世界は楽しいかい?」
「どうって、もう全部知ってるんだろ?」
「君の口から直接聞きたいな」
「…高望みしすぎたんだ、強くないのに…。これからはルルティアとゆったり過ごすつもりだ。誰かさんがチート能力くれれば違ってたかもだけど」
「チート能力ならあげたじゃん」
「攻撃用じゃないだろ」
「まあそうだけど…。で、1回死にかけたから冒険者やめるって?ビビりだね〜、それでも主人公かい?」
「主人公じゃねえだろこんな奴…。ていうか、死にかけた時に脳内に語りかけてきたのって…」
「あぁ、それ私 私」
「やっぱり…こんなのが主人公の作品があったって誰が見るってんだよ。少なくとも俺は見ないね」
「そうだろうね。奴隷ハーレム作るとか冒険者になるとか調子乗っといて、急にスローライフ始めようとするんだから。そんなんじゃ読者人気獲得できないよ?」
「読者人気って…しょうがないだろ、ここはマンガの中じゃなくて現実なんだから」
「まあそうだよね、他人の正論なんて蛆が這いずる音にしか聞こえないしね。ただ、冒険者は続けたほうがいいと思うよ?」
「なんで?」
「詳しくは言いたくないけど、その方が結局楽しくなると思うよ。私が望む結末にも近づくしね」
「じゃあ尚更従いたくないね。あんたの傀儡人形になるなんてごめんだ」
「傀儡ってまた難しい言葉を…。君もへそまがりなのか頑固なのか分かんないね。そんな君の心を抉るようなこと今から言うけど、良い?」
「…なんだよ」
「その選択をしたらルルティアを幸せにはできないよ?」
「っ…」
「もっと言うと、近いうちにおたく死んでまうで。ほんでもええってんなら、ウチは止めへんけど」
「…ルルティアを、幸せにするにはどうしたらいい?」
「そのくらい自分で考えなよ。ていうか、自分が死ぬかもしれないのは、どうでもいいの?」
どうでもよくない…。でも、それよりルルティアが傷つかないようにするために冒険者を辞めるつもりだったのに、それで幸せにできないって言うなら、俺はどうすれば…。
「ルルティアを傷つけたくないってんなら、家に居させて君だけ外出すればいいじゃん。自分より彼女が傷つくのが嫌なんだろ?」
「それじゃ軟禁してるみないじゃないか。奴隷扱いと変わらないだろ」
「ウハハ!我儘だねぇ君は。じゃあ君が強くなるしかないんじゃない?」
強くなるったって、レベルも詳細なステータスも無い。武器を強くするにしても、バットでいっぱいいっぱいな俺は剣もろくに振れないだろうし、まして弓なんて絶対無理だ。となると…。
「良んじゃない、それで」
俺が今思い浮かべたのは、銃火器だ。魔法も何も使えない俺でも、慣れれば扱えるだろう。戦闘力も今とは桁違いになるはずだ。
ただ…銃を作るのはあまり気乗りしない。何故なら…。
「へ〜、そこまで考えてたんだ」
火薬も車輌も飛行機も、本来人の生活を助けたり単に夢を追いかけて作られた物なのに…結局兵器に成り下がった。
科学が発達すれば、まず戦争兵器が発達する。俺が人類2000年の歴史から学んだことだ。
「私は人間のそういうところ好きだけどなぁ。愚かさの象徴っていうか、地球の癌細胞っていうか、数千年の歴史を数年勉強しただけで理解した気になってるとことか、面白くってしょうがないんだけど」
さっきからこいつうるせえな。
「まあでも今はそれくらいしか出来ることないんじゃない?そのくらい理解があるなら大丈夫でしょ、銃作ってもさ。作った瞬間にこの世界の科学力がいきなり発達する訳でもないんだし。君が気をつければ大丈夫だよ」
「…」
「まあさっきも言ったけど、君がどんな選択をしても止めるつもりはないから安心して。あくまで1つの提案として受け取ってほしいな。最初に言っただろ?君の未来は君自身のもの、って」
「…」
「そこら辺はこの後よく考えるといいよ。あ、あとちょっとした文句なんだけど、『結婚を前提に!!』とか言っときながらちゃんと付き合ってすらいないのはどうかと思うな〜」
「…」
「それじゃ、まったね〜」
そう言うと、神様は跡形もなく消えた。
「…あれっ!?ご主人様、いつの間に…」
…。俺が取るべき選択は…。