12.パーティーを組んだから、見極めたい
「すまなかったな。あいつら、図体がデカいくせして弱いから、新人イジメて憂さ晴らししてたんだ。今回で懲りてくれるといいんだが…」
「ああ、うん…そうなんだ」
俺は、さっき喧嘩を止めた黒髪の男と話をしていた。背中に剣を携えて、高そうな防具を身に纏って、まさに冒険者といった風貌だ。
是非とも仲良くしたい。仲良くしたいんだけど…。
「その、隣の人は何で俺たちに向かって弓を構えてるの?」
男の隣には、同じ黒色で長い髪をして鋭い眼光でさっきから殺気を飛ばしてきている女がいる。
…なんか寒いな。
「ああ、気にしなくていいよ。多分撃たないから」
「多分て…そもそも俺ら何かした?」
「え〜っと……俺と喋ってる」
「え?」
「こいつ、すごい嫉妬深いんだよ。なるべく俺には他の人と接してほしくないらしいんだ。こいつとは幼馴染みだけど昔からそうでさ…今は男のお前と話してるから弓を構えてるだけだけど、お前の彼女さんと一言でも喋ると矢が飛んでくる。恐らく俺にも」
すげぇ。純異世界で重度のメンヘラ女とかいるんだ。
ていうかこいつ今、ルルティアのこと俺の彼女って言ってたよな!いや〜、やっぱそう見えちゃうかな〜。
内心ヘラヘラしながらルルティアの方を見ると、本人はメンヘラ女にビビり散らかしているようで、男の話を聞いている余裕は無さそうだった。
「…そんで、話はそれだけ?」
「いや、実はお前たちに頼みがあるんだ」
「頼み?」
「俺とコイツ(メンヘラ女)は今からギルドの依頼を達成するために森の中に行く。そこで、お前たちにも一緒に来て欲しいんだ」
「…」
「もちろん報酬は出す。依頼額をこっちとそっちで、1:1で分ける。どうだ?」
「…ルルティアは分かるけど、俺まで連れていくのは何でだ?」
ルルティアを連れてくってのは分かる。恐らく冒険者登録の時のヒーラーという言葉を聞いたんだろう。
ちょっと前におっちゃんから、回復薬ってのがあって、それがまたバカ高いって話を聞いた。それに伴ってヒーラーは、とんでもない無能でもない限りどこでも大事にされるそうだ。
見たところ、目の前の2人は武器的にどちらもアタッカーなのだろう。
以上からコイツらがルルティアの能力を借りたいってのは分かる。まあ、確定ではないが…。
でもそこで、どうして俺まで同行させるのかが分からない。俺は屈強でもないし武器もこれだけだし、何よりさっき冒険者になったばかりだ。
はっきり言ってこんな戦闘力たった5のゴミみたいな奴に何の用があるのか。
「ん?そこそんなに疑問に思うとこか?」
「え?」
「好きな人が近くにいた方がやる気出るだろう」
…コイツは恋愛脳なんか。キヨリンクかよ。
「それに、お前はなかなか伸び代がありそうだ」
かと思ったら急に師匠ヅラしてきた。何だコイツ。
「…分かった、一緒に行くよ。ルルティアもそれでいいよね?」
「…」
「…ルルティア」
「えっ…は、はい!」
「レミもいい加減弓を下ろせ」
男がそう言うと、メンヘラ女はゆっくり弓を下ろした。
「それじゃあ臨時パーティーの結成にあたって、お互いのステータスを見せ合おうか」
「そういうのがあるの?」
「ああ、臨時とはいえ、今から背中を預ける仲間になるんだ。互いの手の内を明かすことで少しは信用できるはずだし、何より戦闘になった時に誰がどんなスタイルで戦うか全員が理解しておけば生存率はいくらでも上がる」
「なるほど。でも…」
俺はルルティアをチラッと見た。
ステータスを見せるということは、この2人にルルティアが奴隷だと知られることになる。
さっきの冒険者登録の時にギルド職員が、奴隷が主人と冒険者になるのはよくあると言っていた。多分ルルティアが奴隷だと知っても2人は驚かないだろう。
ただ、ルルティア本人がどう思うか。それが重要だ。もしルルティアが見られたくないと言うならば、その時は…。
そんなことを考えていると、隣からヴゥンという音が聞こえてきた。
音の方を見たら、ルルティアが真っ先にステータスを開いていた。
「えあっ、ちょ、み、見せんの?」
「え?今の、お前から見せろと合図したのでは?」
…当の本人はこれだもんな。俺が考えすぎなのかな…。
続いて前の2人もステータスを開き、俺もすぐにステータスを開いた。
2人のステータスを見てみると、男の方は名前をシドと言いMPは3000で〈スキル〉のところに剣術、格闘術とあり〈魔法〉のところには風魔法とあった。
メンヘラ女の方の名前はレミ、MPは9500!?〈スキル〉は弓術、魔力操作とあり〈魔法〉は火炎魔法とあった。
この女やべぇな、MP9500ってルルティアのほぼ倍の魔力量だろ?それに男の方はステータスだけ見ればそこそこの冒険者だと思うが、オーラで分かる。こいつは強い。
「やっぱり回復魔法持ちだったな。…創生魔法って初めて見るな。どういう魔法なんだ?」
「戦闘には役に立たないとだけ言っておく」
「なるほど。じゃあ早速、依頼達成に行こうか」