11.ギルドに来たから、冒険者になりたい
俺は今、初めてルルティアを連れてレルテを訪れている。
おっちゃんの手回しのお陰で、ルルティアも問題なく検問を突破できた。
初めてレルテに入ったルルティアの目には街のほぼ全てが目新しく映ったようで、街並みや行き交う人々をじっくりと見ていた。
「こういう街に来るのは初めてなんだっけか?」
「は、はい。以前は家で農作業ばかりしていたので、こんな街に来たことはありませんでした」
…。やっぱり見られてるなぁ、ルルティア。
今朝になってようやく気づいたことがある。ルルティアが着る服がない。今まで着ていたのは薄汚れたボロ布1枚で、およそ服と呼べる代物ではない。
それにルルティアは身長が高いし、何より一番の問題は…そのとてもとてもご立派な胸だ。そんなものを堂々と見せつけて街中を歩けば、嫌でも視線を集めてしまう。そうなればルルティアは嫌だろうし、それに俺自身がすっごい嫌だ。自分をご主人様と呼び慕ってくれる健気な女の子が他人にそう言う目で見られるのはごめんだ。
だから、ルルティアには悪いが、体をじっくり観察させてもらい、頭の中のメジャーと定規を頼りに魔法で服を作った。なるべくルルティアでも余裕のある物で、さらに上からローブを羽織ってもらった。中にはブラジャーをつけてもらい、少しでも胸が小さく見えるようにする。
いや、分かってる…。俺が女の子の胸のこと考えるのは、キモいって自分でも分かってんだ。
でも、あまりにもルルティアが自分の体に無関心なんだもん。歩くだけでバルンバルン揺れる胸を見せられてるこっちの身にもなってみろよ。
この際だからルルティアにはちゃんとした服に慣れてもらおう…俺の理性が生きている内に。奴隷になる前はどうだったのかわからないが、ルルティアには色んな可愛い服を着て欲しい。
今のルルティアも十分可愛いが、キラキラに着飾ったルルティアもいずれ見てみたい。
「ところでご主人様、街に来るのにどうして武器を持ってきたんですか?」
俺は今日、いつも買い物する持ち物に加えて、ゴブリンをぶん殴った金属バットを持ってきた。
「まあ、念のため…」
俺はレルテに来ると、まずおっちゃんがいる路地裏に行く。だけど今日は先に行きたいところがある。
「あ、あそこかな」
「あれって…」
周りの建物と違い、白いレンガでできた建造物。入り口の扉の横の看板には、『ギルド』とあった。
本日ついにわたくしは冒険者になります。
おっちゃんにはお金を稼ぐ手段として冒険者があると教えられたが、ぶっちゃけならなくても創生魔法があればお金には困らない。
杞憂だとは思うが、質量保存の法則が伴っていない場合、『バイバイン』や『景気のいいケーキ』と同じようなことになるかもしれない。指数関数の恐怖…。
ただそれ以前に、お金とか関係なく冒険者になりたいという思いがある。やはり異世界に来たからには冒険者になってみたい。たとえ魔物討伐などの楽しそうな依頼ができなくても、薬草採取とかの平凡な依頼しかこなせなくとも、俺は構わない。
俺は転生者として無双したいんじゃなく、この世界で一人の人間として生きていきたいのだ。
「ギルド、ですか…」
「今更だけど、俺は今日から冒険者になろうと思う。ルルティアにもなって欲しいけど、もし嫌なら無理にとは言わないよ」
「ご主人様がなるのであれば、私もなりたいです」
「了解」
そういうことで、扉を開けて中に入る。
ギルドの中には鎧を纏った人や、剣や弓、杖を持った人がたくさんいた。その人たちはギルドの職員と話したり、壁に貼り付けられた依頼書を見たり、ただ仲間と談笑したりと各々の用でギルドを利用していた。
この世界に来て何度目かの、童心のような高揚感が湧き上がってきた。
「やっぱリアルで見るとワクワクするもんだな…」
「ご主人様?」
「いや、何でもない。手続きしに行こうか」
俺とルルティアはギルドの窓口の1つに向かい、冒険者の登録手続きを行った。
自分の名前と住所、年齢とか色んなことを訊かれた。住所は、地図を広げてもらってここだと指差したら了承してもらった。次にステータスを見せろと言われた。「ど、奴隷でも冒険者になることってあるんすかね?」とキョドりながら訊いたら、よくあることのようだった。一瞬ヒヤりとしたが、多分ルルティアのステータスを見せても大丈夫だろう。そもそも検問を通っているのだから問題はないと思うが…。俺とルルティアのステータスをギルド職員がささっと目を通す。そしたらすぐに次の過程に移った。本当に大丈夫だったみたいだ。お次はポジションの確認だそうだ。前衛か後衛、さらにアタッカーやディフェンダーなどの選択肢があった。俺は前衛のアタッカーを選択した。ルルティアは魔法的にヒーラーだが、どうやらヒーラーには前衛後衛の区別がないらしい。最後に、クソ長い注意事項を読まされた。許可無く冒険者同士の戦闘の禁止、月に1回銀貨2枚の料金の支払い義務、他冒険者の利益の強奪の禁止、その他諸々の事項、そしてそれらを破ったら即冒険者ライセンスを剥奪するというものだった。冒険者はC〜Sのランクに分けられ、俺らはもちろんCランクから。
冒険者登録が終わったら、次はパーティー登録があった。こっちはすぐに終わった。俺とルルティアの名前を紙に書いて、リーダーを決めて、パーティー名を決めるだけだった。パーティー名は「ユピテル」にした。特に理由はない。
そんなこんなでようやく手続きが終わった。予想の50倍はかかった。こういうのって大体石板に手をかざすだけで終わるイメージだったけど、普通にアナログだった。でもこれでいつでも依頼を受けることができる。
「ちょっと依頼書を見るだけ見てくるから、少し待ってて」
「分かりました」
依頼書がたくさん貼ってある壁に近づく。
魔物討伐や薬草採取に加えて、家の修理や教会の人員募集などの依頼もあった。結構依頼って幅広いんだなと思った。
また後でルルティアと選ぼうと考え、彼女の元に戻ると…。
「ねーちゃん、めっちゃ可愛いね」
「せっかくならさ、俺らのパーティーに入れよ。俺らけっこう強いんだぜ」
「…」
ちょっとゴツい男2人に絡まれていた。まぁ、こうなるかもと思ってはいたけど…ていうかこいつら、初日で俺のこと突き飛ばしてきた奴らだな!話通じっかなぁ〜…。
「あの、その子、俺の連れなんだけど」
「「…」」
ゴッッ
その瞬間、頭に強い衝撃が走った。男の1人が俺の頭を殴ってきた。
「ご、ご主人様!」
「おっと、あんな奴ほっといて俺らと一緒に来いよ」
俺の元に駆け寄ろうとしたルルティアの腕をもう片方の男が掴む。
(いって〜…クソ野郎が、いきなり殴ってきやがった。いっか、さきに手ぇ出してきたのはアイツらだし)
「おら、さっさと来い」
「は、離してください!」
「いい加減にしねぇと、お前も…」
ガボッ
一番手前の男にバケツを被せる。
「!」
それから素早く奥の男の足元に入り込み、脛をバットでカンッと打つ。
「ッ…グアッ、アァァ…」
すぐにその男がしゃがみ込む。
「おやおや、金貨でも落ちていましたか?」
「テメェ…」
バケツを被せた男が、ナイフをこちらに向ける。
「デカい図体で得物ちっちゃ…」
「死ねえぇぇぇ!!」
男が思い切りナイフを振り下ろす。俺はバットを構えて、ナイフに向かってスイングする。
ガキッッ
金属がぶつかる音と共に、折れたナイフの刃がギルドの壁に突き刺さる。
「っ…!」
「…まだやるかい」
「う、うあああぁぁぁ!!」
男は折れたナイフを捨てて殴りかかってくる。それと同時に俺も再びバットを構える。
「そこまで」
その声が聞こえると共に、男の首元に剣の刃が当てられる。
「これ以上、恥を晒すな」
気がついたら間に、黒髪の若い男が立っていた。