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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第七章 人・鬼・獣
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7.4.物資奪還


 わいわいとやかましく酒盛りをする洞窟へと入り、まず出迎えてくれたのは酒臭さだ。

 空気の通り道がないようで酒の臭いが充満していた。

 どうやらこの洞窟は地割れが起きた時にたまたま作られたもののようで、三角形のような形をしている。

 それが奥まで続いている様だ。


 手前にはかがり火、その奥には見張り、更に進めば酒盛りをしている盗賊共が座っている。

 方々で手に入れた物資を使って飾りつけをしている様だ。

 中には明らかに高価な物品すら置いてある。

 真っ赤な絨毯はもちろん、頭付きの熊の毛皮など様々だ。

 その中で一際目立つのは宝箱に納まりきらない金銭である。


 この世の金は金色と銀色。

 金色を見れば衣笠と地伝もそれが高価な物であり価値がある物だと理解できる。

 そこにはそれが山のように積まれていた。


「おいなんだ貴様!」

「あっ!! そ、そいつ……! 頭! そいつらっす!」

「おおん?」


 この盗賊団の頭である男が立ち上がる。

 それと同時に取り巻きが武器を持って一斉に構えた。


 男は細身ではあるがしっかりとした体つきをしており、たらふく酒を飲んでいたのにも拘らず酔った素振りは一切見せない。

 ぼろくなったローブを身に纏い、幾つかの武器をベルトで体に固定している。

 恐らく投擲用のナイフだろう。


「てか……お前らつけられたな?」

「「えっ……!?」」

「ったく用心しろっつっただろうが……。こうなったらこいつら殺すしかねぇぞー」


 頭の言葉を聞いて、二人はすぐさま前に出た。

 だが衣笠の恐ろしさを知っている数名は震えながら武器を構えているだけだ。

 愚直に突っ込むのは二人を知らない者だけ。


 バッと飛び出した二人は前にいる地伝目がけて武器を振るった。

 地伝は目だけで動きを見た後、スッと手を持ち上げて片手だけで攻撃を往なす。

 一人は転倒させ、もう一人は手首を掴んで出口の方へと放り投げる。

 だがその前に、衣笠へ警告した。


「そこをどけろ」

「嘘だろ」


 とんでもない殺気を感じ、衣笠は飛び退くようにして壁際へと寄った。

 背をぴったりと壁に這わせたその瞬間、地伝は握っている盗賊の手首を握りつぶしながら放り投げる。

 その威力は弾丸を射出した時と同じくらいだろうか。

 目に見えない速度で男が消え去り、瞬きをしている間に少し離れた壁に何かが着弾して真っ赤な色が飛び散った。


「……これは何割だ……?」

「二」

『……は?』


 盗賊全員が疑問符を口にする。

 地伝はギロリと袋小路の子鼠共を睨みつけた。

 足元に転がっていたもう一人の盗賊を軽く蹴飛ばすと、凄まじい勢いで壁にぶつかる。

 大量の血液を口や体から噴き出して倒れ込んだ。


「……なっ……なんなんだこいつ! なんなんだお前は!!」

「賊に名乗るななど持ち合わせておらぬわ。咎人めが」


 手に力を入れ、パキリと音を鳴らす。

 スッと足を動かして盗賊共を仕留めようと接近するが、さすがに危険を察して全員が遠距離攻撃を仕掛けてきた。

 弓、投擲物、魔法。

 この連携が普段通りで来ていれば粗はなかったのだろうが、恐怖と動揺を抱いたままでは碌な攻撃にならない。


 地伝は鯉口だけを切った。

 ボウッ、と強い炎が噴き出して飛んできた魔法を無力化する。

 他の物理攻撃はもう片方の手で払いのけた。


「刃天のお陰で魔法についての知恵はある。そして私に飛び道具は効かぬと思え。殺したくば刀で来い!」


 轟くような大声に二名が気絶する。

 その他多くの者たちが震えながら武器を構えていたが、圧倒的な力量差に戦意を喪失して膝から崩れ落ちる者もいた。


 咎人に情けは無用。

 鯉口を閉じ、素手で対峙する。

 誰一人としてかかってくる盗賊がいないので、仕方なく足元に転がっていた指の爪程度の石ころを手に取って投げつけた。

 四名の肉体を貫通して最奥の壁に着弾する。


「……は……?」

「次はどうするか。まとめて仕留めてもいいが」


 壁に手を突っ込んで岩を砕く。

 手の中でしっかりと握りつぶした後、横凪に腕を振るって投げつけた。

 それは散弾のように拡散して一気に十数名が即死する。


 何もしなければ、殺されてしまう。

 ヒステリックに叫びながら一人が立ち向かうが、地伝は攻撃の直前に前に踏み込んで肉薄し、八卦で胸部を打った。

 その衝撃で内臓が破裂したらしく、激しく体を痙攣させて前のめりに倒れる。


 どうしようもない。

 逃げることもできず、戦っても勝てず、何もしなくても殺される。

 盗賊たちの心の中には絶望しか残っていなかった。

 戦う気力すら何処かへ去り、次々に得物を落としてしまう。


 彼らの心は完全にへし折られたようだ。

 それを見た地伝が問う。


「それでいいんだな?」


 その問いには誰も答えない。

 これ以上どうすることもできないのだから、そうなるのも仕方がないだろう。

 咎人が素直に罰を受けるというのであれば印象としてはいいものだ。

 ただ、それだけだが。


 地伝は片っ端から賊を殺してしまった。

 何百何千何万何億何兆と咎人を殺したことのある地伝だ。

 どうすれば苦しまずに死ねるかも熟知していた。


 最後の一人を殺した後、地伝は手に付着した血液を拭う。

 返り血を浴びないように殺すのは流石鬼といったところだろうか。

 それだけいい方法を知っている。


「さて、戻るか」

「そうだな。ではお前がすべて荷物を持て」

「……ふむ、さすがに人間の身では無理か。荷車はあるか」

「ない」


 そんなことはないだろう、と衣笠を訝しげに見た地伝だったが、彼は呆れたように指をさす。

 そちらを見てみれば地伝が投げ飛ばした石で完全に破損した荷車があった。


「……」

「殺すのは荷物を運ばせてからでもよかったかもな」

「……まとめやすいように整理だけ手伝ってくれ」

「ハハ、鬼が人間に救いを乞うとはな。滑稽だ」

「私の落ち度よ……」


 必要な物資と比較的価値のありそうな物だけを選び、それらはすべて地伝が持つ。

 二人はゆっくりとした足取りで村へと戻ったのだった。

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