6.13.新築
スッキリとした心持で軽快に歩いていると、ようやくアオとディバノを発見することができた。
どうやら大工と話をしている様だ。
刃天はそちらへと近づく。
するとこんな会話が聞こえてきた。
「ん~……確かに木材だけで作るだけなんで簡単なんですけどぉ……」
「あれ? なにかある?」
「ほら、暖炉には煙突があるでしょう? これも石材で作るので燃える心配はありません。だけど煙突も木材で作るってなると……」
「ええ~! でも刃天は木材だけで作れるって言ってたよ?」
「まだ知らない知恵があるみたいですね。もう少し詳しい話が聞きたいです」
「なんだ? できぬのか?」
「「あ、刃天!」」
丁度いいところに、と喜んだ二人は刃天の手を取って大工の目の前まで引っ張られた。
大工はすぐに会釈をして話を始める。
「そのイロリ……という物を作るにあたって必要な材料が少ないことは把握しました。ですが煙突はどうしていたのですか?」
「越屋根造りだ」
「コシヤネヅクリ?」
「まず囲炉裏は居間の中心に置く」
「「「中心!?」」」
……これはしっかり説明しなければならなさそうだ。
刃天は近くにあった木の枝を折り、雪かきがされて露わになった地面に平面図を描いていく。
正方形の中に、さらに小さな正方形を描いた。
「これが居間だとしよう。そうするとここに囲炉裏はある。天井は吹き抜けで、屋根は……。むぅ、説明が難しいな」
口で説明することを諦めた刃天は、地面に側面図を描いていく。
長方形を描いたあと、屋根の部分に当たる面を描いた。
最終的に刃天が描いた側面図は、居間のある屋根の上にさらに小さな屋根がある。
「屋根の上にちっちゃい屋根がある?」
「ああ、そうだ。ここから焚火の煙を外に出す」
「ええと……。なるほど。ですが……今ある家屋を改装してこれを作るのは難しいです。いっそのこと、新築を作った方が手っ取り早いかと」
「うう~んそっかぁ……。じゃあ仕方ないかぁ~……」
ディバノは難しそうに眉を顰めて肩を落とした。
どうやら資材の節約をしたかったらしく、可能であれば改装でやりくりできればいいと考えていたらしい。
それもいいだろうが……もう少し頑丈な家屋が欲しいというのが刃天の理想だ。
この冬の間、多くの準備はできるだろうが積雪のせいで柵や堀を作ることはできない。
であればせめて頑丈な家屋を作り、それらを盾にできるようにしておきたいのだ。
この世にある魔法で簡単に吹き飛ばされるようなものでは困る。
そうなると石材がいよいよ欲しくなってくるのだが……ない物ねだりをしていても仕方がない。
すると、アオが指を折りながら何かを数えていた。
「何を数えている」
「今の木材の数だよ。ディバノ、トールさん。家を一軒建てるのにどれくらいの木材が必要かな?」
「そうですな……。まず柱、そして板材が家屋を構築する基本的な材料になります。柱に関しては適切な大きさの木々を伐採すればよいのですが、板材となると大きな大木の方がより多く板材を制作できます」
「丸太で壁とかできるよね?」
アオがそう尋ねると、ディバノが近くにあった木をぺちぺちと叩いた。
「ログハウスだね。でもここにある木は全部大きいんだよ。だから板材を作る方が効率がいいと思うよ」
「ん~そっかぁ~……。あ、でも木の上の方は使えるんじゃない? そっちの方が労力少なくて済むと思うよ?」
「あ、そうだよね。んじゃその方向で考えるとぉ~……」
着々とログハウスを作る算段が決定されていく。
建築に関して刃天はほとんど知識を持っていないので、この辺は彼らに任せていいだろう。
大工もログハウスであれば作れる、との事だった。
壁は丸太を使い、屋根だけは刃天が教えてくれた越屋根造りにしてみるとのこと。
それに当たって木材の調達が急務になってくるわけだが……。
まずログハウスの大きさを決定する。
これは既存のぼろ小屋と同じ大きさでいいという話にまとまったので、その長さを正確に割り出す。
あとは切り倒した木を大きさごとに選別して組みを作る。
それらを調整しながら丸太を組んで持ち上げていく予定だ。
そして切り株付近の大きな丸太は板材に加工し、これで内装を作る。
どうやら内装づくりはこの大工が得意とのことなので、彼にすべて任せても問題はないだろう。
さて、ここまで考えただけではあるが既にやることは多い。
伐採した木材の選別、決まった長さ通りに切断、組み上げるための丸太の加工、板材の加工……そして着工。
まずは切り倒した木々を見に行かなければならない、とディバノは颯爽と走って行った。
トールはまた振り回されながら追いかけていく。
「俺は丸太の選別に向かいますね。まずは太さだけ揃えておきますので、お二方は解体する家屋の大きさを測ってきてください」
「分かった!」
大工はそう言い残すと、ディバノとトールの後を追いかけていった。
長さを量るだけであれば簡単だ。
何を基準にするのかさっぱりではあったが。
「で、どうやって測るんだ?」
「簡単だよ」
アオは持っていた魔法袋の中をまさぐると、長いロープを取り出した。
「これをピンッと張れば測れるよね」
「確かに簡単だ」
では、あとは建て直す家を決めるだけだ。
そこでアオを見る。
ここは彼の決めてもらおうと思った向けた視線だったが、アオはすぐに意図を組んで歩いていく。
そして到着した場所は、最もぼろくなっている小屋であった。
農具置き場に使われるような小さな小屋だ。
何故ひと回り小さい家を最初に選んだのか、と首を傾げているとアオが簡単に説明する。
「練習としては丁度いい大きさだし、雪が積もってもすぐにどかせられる。あとは、僕たち上の人間が自分たちを先に贔屓しないって証明」
「良く回る頭だ」
申し分ない。
刃天とアオはこの小さな小屋の正面と側面の長さを測り、結果を伐採場所へと持って行ったのだった。




