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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第六章 冬
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6.12.暖


 木材を伐採し、丸太をまとめている場所に赴いてみれば数名の村民とディバノ一行がいた。

 ローエンとリッドが今し方大きな木を伐採したらしく、二本の木に付いている枝を切り落とす作業を行っている様だ。

 鉈や鋸が手に入ったので、以前より作業効率は上がっている。


 そう考えるとチャリーは本当にいい仕事をしたと思う。

 また街へ向かわせるのは彼女に任せよう。


 刃天とアオが来たことに気付いたのか、ディバノが笑顔でこちらに手を振った。

 テナは控えめに会釈をしたが、トールとクティは若干警戒している様だ。

 トールの場合は警戒というよりも嫌悪に近いのかもしれない。

 自分が仕えているディバノを存外に扱われて御立腹になっているときがあった。

 どうやらまだそのことを引きずっているらしい。


 クティに関しては敵対意思を持っているように感じる。

 己が何かしただろうか。

 まぁ別にどうでもいいのでさっさと本題に入る。


「ディバノ。食料と衣服はどうにかなった。あとは住む場所をどうにかならんか」

「今やってるところなんだけどー……。石材何とかならないかなぁ……」

「鉱石の前に石材と来たか……」

「この辺は粘土もないしね……」


 ない物ばかりである。

 まったく、この村は退屈させてはくれなさそうだ。

 さて、楽観的に考えていても解決はしないので真剣に考える。


「暖炉がなぁ~……」

「ああ、あれは石材が必要ですね」


 石材が欲しいというのは、どうやら暖炉を何とかしたいからという理由らしい。

 確かに雪が降り積もって更に冷え込んだ気がする。


 刃天は昔の事を思い出してみた。

 冬は火を絶やさぬように誰かが寝ずの番をずっとしていたか。

 だがそれは外にいる時の話。


 家屋の中だとどうだっただろうか?

 刃天は鷹匠と共に過ごしていた時の事を思い出した。


「囲炉裏か」

「いろり?」


 囲炉裏であれば木材と灰があればなんとかなる。

 アオやディバノが知っているような暖炉とは違い、石工技術は必要ない。


 刃天は簡単に囲炉裏の構造を説明し、必要な材料を口にする。

 すると二人は感心したように驚いていた。


「暖炉と違ってしっかりした造りにしなくていいからいいね!」

「うん。灰の上だったら確かに燃えない……。枠組みが木材ってのがちょっと不安だけど、枠組みを大きく作れば大丈夫そう」


 そんな会話を聞きながら思う。

 なんで己はこんなクソ寒い中、雪が降るまで囲炉裏の事を忘れていたのか……と。


 ぼろいとはいえ今住んでいる家屋には多少たりとも暖炉はある。

 だが崩れかけていたり、既に使えなくなったものを何とかやりくりして使っているに過ぎなかった。

 別にこれでいいと感じていたのだが、雪が降ると寒さが一気に襲い掛かって来たのであれではいけないと今更ながら気づいたわけだ。


 我ながらあほである。


「「大工さん呼びに行こう!」」

「ちょ、ディバノ様! アオ殿! お待ちくだされー!!」


 話がまとまった二人は、早速大工を探しに走って行った。

 子供の速度についていけるはずもなく、トールは雪に足を取られながら懸命に背中を追いかける。

 とりあえず家の暖についてはこれで問題ないだろう。

 今まで燃やしてきた木々の灰があればすぐに作れる。


 だがそうではないのだ。

 刃天が話したかったことはこれではない。


「……囲炉裏を作るのではなく……新築が……欲しいのだがな……」

「刃天」

「んん?」


 何故か怒気を含んだクティが前に現れる。

 相変わらず敵対的な姿勢を見てげんなりしつつ、彼女が口を開くのを待った。


「やはり私は納得できない」

「何が……」

「チャリー殿が口にした『貴女では貴殿に勝てない』という台詞だ。それは真実か知りたい」

「はぁ……?」


 何を言うのかと思えば、どちらが強いか確認したいだけの単純な言葉だった。

 そんなとんでもなく小さなもやもやの為に己は常に敵意を向けられていたということに気付いて、なんだか腑に落ちない心持ちになる。


 だが元をただせばチャリーの言葉のせいではないか。

 あとで説教ものである。


 すると、クティは持っていた槍の石突で地面を叩く。

 雪を押しのけてジャッという音が鳴った。


「手合わせ願おう」

「面倒くさいんだが」

「なっ……!? 断る奴がどこにいる!」

「どこって……。ここ?」


 腕を広げておどけて見せる。

 だがその台詞が彼女の逆鱗に触れてしまったらしく、額に青筋が入った。

 槍を握る手に力が入ったようで音も鳴る。


「貴様……!」

「おお、怒りに任せて飛び込んでこないだけまともと見える。ああ~もうしゃあねぇなぁ……。これ以上因縁付けられても面倒だし相手してやるよ……。ほれ、かかってこい」


 無手のまま手で軽く挑発する。

 完全に舐められていると感じ取られても仕方のない行為だ。

 もちろん自尊心が高い彼女にとってはこの上ない侮辱になったらしく、すぐさま身を引いて槍を構える。


 刃天はいつまで経っても刀を抜かない。

 それに眉を顰めたクティは目つきを更に鋭くさせた。


「剣は」

「けん? ああ、このままでいいぜ。もう面倒くさいから早くかかって来いって……」

「どこまでも……!! 怪我じゃ済まんぞ!!」

「やかましいな! はよかかってこいや!!」


 その言葉がようやく合図になったらしく、クティは大きく踏み込んで鋭い突きを繰り出す。

 槍は点で来るからこそ対処が難しい。

 だが刃天は……気配でなんとなく動きが分かる。


 突きが来ると同時に一歩前に出て、槍を跳ねのけた。

 既に肉薄されてしまったクティは即座に身を引こうとするが、その途端に槍をがっしりと掴まれてしまう。

 時すでに遅しである。


「槍の弱点は間合いを潰されること。んでお前面倒くせぇから本気で殴る」


 右手で張り手の構えを作った刃天は、その手に本気で力を込める。

 骨が浮き出て筋肉も盛り上がった。

 その状態で肩の力を最大限利用して思いっきりビンタを繰り出す。


 乾いた音が村中に響き、その後に誰かが倒れる音が続いたのだった。


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