6.9.強制加入
刃天たちが村に戻って見れば、相変わらず剣で木を切っている若い男たちの姿があった。
丁度一本切り倒せたようで、大きな音をたてる。
力を使い果たしたのか、肩で息をしながらその場に座り込んだ。
あの姿はラグムだろうか。
効率のよい方法をようやく見出だしたのか、剣で木を切る速度が早くなっている。
よい傾向だ。
「ここが俺らの村だ」
「村なんて初めて見た……。こんな感じなんだ」
肩に乗せていたディバノを丁寧に下ろしてから刃天は声を張る。
まずは村民に彼らのことを説明しなければ。
「皆の者! 聞けぃ!」
大きな声を聞き、村民のほとんどがこちらに顔を向けた。
さてここまでは良かったが、刃天は彼らのことを上手く村民に説明はできない。
説明すれば利用する気満々だということが漏れ出してしまうからだ。
さすがに失言は避けたいので、チャリーに丸投げする事にした。
彼女はガックシと肩を落としたが、小さく嘆息して居ずまいを正す。
元々刃天がこういうことは不得手だと知っていたので、何となく予想はできたことだ。
的中してしまったので呆れただけである。
咳払いをして気を取り直す。
「皆さん驚かずに聞いて欲しいんですが、この方々はこのレスト領領主、ウルスノ・レ・カノベール様のご子息で、ディバノ・レ・カノベール様といいます」
紹介した瞬間、村民はぞっとした様子で顔を青ざめさせた。
それもそうだろう。
恐らく彼らは今までの行いが露見し、こうして貴族が確認にきたとしか思っていない。
だがそれは間違いだ。
チャリーは落ち着くように言い聞かせながら話を続ける。
「大丈夫です。彼らはそういった目的で来ているわけではありません」
「ほ、本当ですか……?」
「もちろん。むしろこの村を統治しようとしてくださっています。と、いうことはこの村の問題も抱えてくれるということです。ですよねっ!」
ニッコリと笑いながら振り向いたチャリーを見て、トールは眉間を押さえるしかなかった。
クティとテナも苦笑いをしている。
彼女が今向けている視線は『同意を得なければ追い出すぞ』という脅しでもある。
ただ街から物資を購入して移動していただけの女ではない。
してやられた、とトールは諦めるしかなかった。
もしこの事を報告しにいったとしても、そう簡単に屋敷の敷居を跨げるわけではない。
門前い払いされるかもしれないし、そもそも追い出されているのだから帰る場所がないのだ。
何故帰ってきた、と言われるのは目に見えている。
それに、任された村はこの近辺にある。
ここ以外の場所で活動するわけにはいかない。
それがバレてしまえば領地を放棄したと捉えられても仕方がないのだ。
他の村へ行くことはできない。
「僕はいいよ」
「ディバノ様……」
「でもなにか考えがあるんだよね? 刃天さん」
「手柄を立てりゃいいだけよ」
単純だが難易度は相当高い。
しかし貴族という存在をここで得られたのは非常に僥倖。
この村がしでかした罪を弁明する事だってできるかもしれない。
なにより……ゆくゆくはアオの助けになるのだ。
この手綱、意地でも放してやるものか。
「話の通りだ! 名のある領主が来てくれたんだ。必ず俺たちの助けになる。そうだろぅ?」
「うん」
この会話でようやく安堵したのか、村民は胸を撫で下ろして作業に戻っていった。
まだまだやることは多いのだ。
一人一人が挨拶をするわけにもいかない。
とりあえずは村民に認められたことを確認したディバノたちは小さく息を吐く。
トールが馬車を片付けようとしているチャリーに近づいた。
「チャリー殿」
「なんでしょう?」
「あなた方は……何が目的なのですか?」
「ん~そうですね~」
馬から手綱を外しながらもったいぶるようにしていたが、外し終わったところで彼に視線を向ける。
「今は双方にとって必要な関係。そうですよね?」
「む……。そ、それはそうですが……」
「私たちも生きるのに必死です。貴方たちも同じはずです。では手を取り合って頑張りましょ」
ニコッと笑って強制的に同意を押し付けたあと、スッとトールの横を通りすぎて行く。
スッキリしない面持ちのトールは彼女の背を見送ることしかできず、未だにもやもやは晴れなかった。
だが今の会話の中で、この村には何かあると確信できただけで十分だ。
今はまず、村にたどり着けたことを喜ぶ事にした。
「トールさーん! まずは村の状況を把握しにいきませんか~?」
「……そうですね。分かりました、今向かいます」
腑に落ちないことがいくつかあるが、今はテナの言葉に従って村を見て回る事にしたのだった。




