6.6.Side-チャリー-思わぬ拾い物
大した成果がないままチャリーはボーッとしながら馬車を走らせていた。
幌馬車には街で購入した開拓道具を始め、幾つかの衣服に保存食、日用生活品を積んでいるため来たときよりも荷重が大きくなっている。
だが馬はよく鍛えられているのか、全く気にした様子はなくいつも通りのペースで馬車を引いてくれていた。
この調子であればあと一日もあれば到着するだろう。
「はぁー……。村の開拓かぁ……。経験ないから力になれないかもなぁ……」
帰路に着くなか考えるのはそればかりだった。
村民に経験豊富な人物はいるのだろうか?
さすがにこういうことは刃天でもできまい。
だが誰かが指揮を執らなければならないのは事実。
素人だけでこれから来る襲撃に耐えられる村を作れるかどうか……。
チャリーのなかでは不安が燻り続ける。
幸いにも最低限の設備を整える時間はあるがそれもどこまで完成するか……。
「まぁ……やってみないと分からないかっと」
パシッと手綱を操って馬の走る速度をあげた。
なんにせよ、自分が帰らなければ本格的な村開拓の着手はできない。
気を取り直して前を向いてみれば、ドリーと戦った村の近くまで来ていたようだ。
戦闘後から日が短い。
生々しく残る戦闘の傷跡が幾つも散見できる。
そんな何もなくなってしまった場所に……見知らぬ馬車が停まっていた。
(……なにあれ)
最初に感じ取ったのは大きな違和感だった。
一般市民が使うような使い回された幌馬車に、整いすぎた服装をした御者、明らかに騎士らしき護衛が二人、そして白馬……。
異質な組み合わせを見てチャリーは一刻も早くこの場を立ち去ろうと決意した。
パシッと手綱を操って馬を走らせ、できる限り見て見ぬふりをしていたのだが……。
さすがに簡単には通してくれなかった。
「待たれいそこの者ぉ!!」
「げっ」
一人の女騎士がガッシャガッシャと鎧を動かしながらこちらに走ってくる。
猛烈に関わりたくないチャリーはそれでも聞こえないふりをしてそのまま馬車を走らせる。
「ま、待たれい! 聞きたいことがあるだけなのだ!」
「うぇ~……」
このまま走り去っても追いかけて来そうな勢いだ。
村にまで付きまとわれると厄介なことになると思い、渋々馬車を止めて顔を覗かせる。
重い鎧を身につけて走ってきたのにも関わらず息切れ一つしていない女騎士は、騎士敬礼を取った。
「突然呼び止めて申し訳ない! 旅の者、ここにあった村を知らないか……!」
「ぉあ~……。知りません」
平静を装って簡単にそう言った。
恐らく彼らはドリーとの戦闘で崩壊してしまったこの村に用があったのだろう。
申し訳ないが、ここは知らないとしておいた方が楽だ。
女騎士は『そうか……』と残念そうに呟いた。
若干居たたまれなくなったが、この女騎士も、奥にいる馬車も、なにかしら訳アリでここに来ているということが分かる。
幌馬車と服装が釣り合っていないのだ。
彼らに関わると面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。
ただでさえこちらの事情で精一杯なのだ。
彼らを受け入れる余裕もなければ、今のところ得も無さそうだった。
チャリーとしては街で情報を手に入れられなかっただけでなく、面倒事を持って帰ってアオに負担をかけさせたくない。
早々に話を切り上げようと思い、軽く会釈をする。
「で、では私はこの辺で……」
「す、すまないが、もう少し話を聞いてもいいだろうか」
「急いでるので手短に……」
「分かった。この近くに他の村はないか?」
「……? えーと、街なら向こうに進めばすぐですが……?」
なぜ村なのだろう。
チャリーは首をかしげながらテレッド街への道を指差した。
だが女騎士は首を横に振る。
「いえ、村でなければならないのです。我々がテレッド街へ向かうのは禁じられておりますので」
「き、禁じられている……?」
「ああ、いえ。お気になさらず」
女騎士は気を取り直して背をただす。
チャリーは少し気になって遠くの方で停まっている馬車を見た。
子供が一人、執事らしき人間が一人、そして騎士がもう一名いるようだ。
たった四人。
貴族でなくとも良いところの坊っちゃんだろう、ということはチャリーでも分かる。
とはいえ公爵とか王族というわけではないだろう。
もしそうであればたった三人だけで護衛をするとは思えない。
なにか訳アリの貴族。
これが確信に変わったことでチャリーは接触するかどうか思案した。
彼らの事情に首を突っ込んで面倒事を抱え込む以上のメリットがあるか否か。
(判断材料が少ないですし、少し話を聞いてみましょうかね……)
なんにせよ、相手の名前を知らなくては。
もしチャリーの予想通り彼らが貴族であれば、名前に聞き覚えがあるかもしれない。
「まぁここで出会ったのも何かの縁です。私はチャリーといいます」
「はっ……! これはとんだご無礼を……! 私としたことが自己紹介を忘れておりました……! 改めまして、私はカノベール家三男である……」
「かっ……カノベール!? あ、あなたたちはその護衛ですか!?」
「え、ええ……まぁ……」
突然の大声に女騎士は驚いた様子を露にした。
こんな所にチャリーがゆくゆくは必要だと考えていた物が転がっている。
これを今手にしない訳にはいかないだろう。
カノベール家はこの近辺の土地を納める領主。
そんな彼らに取り付くことが今できるかもしれないのだ。
彼らの下で働き、功績を上げればアオが再び貴族として返り咲くのも夢ではない!
そのためにも、まずは彼らの事情を聞き出さなければ。
「分かりました! 村までご案内します!」
「お、おお! 本当か!?」
「ただし条件が一つ」
「む。なんだ、言ってみろ」
この人は話がしやすそうだ。
ニッコリと笑ったチャリーは、条件を口にした。
「貴方たちの現在の境遇を教えてください」




