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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第六章 冬
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6.4.Side-チャリー-売却、調達、そして収集

 隣街までは馬車で片道二日半ほどの距離にある。

 ドリーと戦った廃村を経由して街道に出て、それに沿ってずーっと進んでいくだけだ。

 国境が近いため盗賊などが出現するかもしれない、と警戒していたがそんなことはなく、無事に隣街まで辿り着くことができた。


 自分が今持っている所持金を確認し、街へ入るための金額を予め握りしめておく。

 あとは後ろに積んでいるロックブレードベアの素材を見せればいいだけだが、ここが一番不安である。


「何事もありませんように……」


 道中で考えた言い訳を頭の中で再確認し、街の門までたどり着いた。

 鎧を身に纏った兵士の一人が近づいてくる。


「こんにちはお嬢さん。一人かい?」

「こんにちは兵士さん。とある人に頼まれて魔物の素材を卸しに来たんです」

「馬車の中を見てもいいかな?」

「どうぞ」


 兵士は馬車の後ろに回って幌を捲る。

 幾つかの樽に、大きな刃のような尻尾、そして白色の毛皮を見て思わず声を出してしまう。


「おおっ……!? こ、これは……!」

「あっ、兵士さんしーっ! できるだけ目立たずに売却したいんです……!」

「おっと、すまんすまん……。樽の中は油か?」

「それの油です」

「おお……すごいな……。久しぶりに見たよ」


 兵士は丁寧に幌を直して馬車の前まで戻ってくる。

 街に入るための金額を提示されたので、ささっと支払った。

 更にここ街で売却するということであれば、商業ギルドに顔を出したほうがいいと言われたが、チャリーはそれに難色を示す。


「ど、どうしてもいかなきゃ駄目ですかね……」

「なにか理由があるのかい?」

「ギルドに入ると年間で税金がかかりますよね? その年の利益でギルドに納める金額も変わってくるでしょうし……。私たちは不定期で卸しに来るので赤字になっちゃいます」

「ああー、そういうことか。継続して商売する気がないなら冒険者ギルドに卸した方がいいな」

「直接鍛冶屋や防具屋に卸しては駄目ですかね」

「それでもいいんだが、ギルドの方が金持ってるからなぁ。書類的な手続きも冒険者ギルドの方が理解あるし、ちょっと差し引かれるだろうけど面倒ごとなく帰れると思うぞ」


 この面倒ごとというのは税金や金の流れについての事だろう。

 街を維持するためにも金は必要だ。

 そのために商売をする場合には、税を設けて少しばかり徴収するのだろう。


 これは商業ギルドに入っておらずとも、この街で商売や売買をする場合に適用される。

 チャリーもその例外ではないということだ。


 街の決まりごとには従うつもりだ。

 これを前提とするならば……品質の価値を深く理解している鍛冶屋や防具屋より、どちらかと言えば金銭のやりくりの管理を得意としている冒険者ギルドの方に卸した方が利口だろう。


 それから兵士に礼を言って馬車を町の中へと進める。

 国というには小さな場所だが、街としては大きな場所。

 チャリーは周囲を見渡しながら街の様子を確認しつつ、兵士に教えてもらった冒険者ギルドまでの道を進んだ。


 意外と多くの人々がこの街には住んでいる。

 間近くがダネイルの国境線であることを忘れているかのようでもあった。

 とても賑やかで活気があり、新しく建てられている建築物なども多く散見できる。

 このままいけば、この街はもっと大きくなるだろう。


(でも危機感がない……。この街は誰が維持してるんですかね)


 記憶している限り、ここレスト領ではあるはずなのでカノベール家が維持をしているはず。

 なのでご子息か誰かがこの街にいるはずだ。

 とはいえここは最前線。

 カノベール家の重鎮が変わりに住んでいる可能性も捨てきれない。


(まぁ、今の私たちには関係ないですね……。ま、調査はしますけど)


 まずは任されたことをこなさなければ。

 情報収集はその後でも問題ない。


 周囲を注意深く見渡しているといつの間にか冒険者ギルドの前まで馬車を持ってくることができた。

 冒険者ギルドは改築中らし。

 だが古い方の建物は残す方向で改築が進められているようだ。

 多くの冒険者が出入りをしており、そこでいくつかの袋を背負って入っていく者たちの姿を発見する。

 低ランクの冒険者が小者を討伐して換金しに来たのだろう。

 あちらに行けば買い取ってくれるかもしれない。


 とはいえまずは職員に話をしたい。

 だれか都合よく外に出てきていないだろうか、と見渡してみるがそれらしき影は見えなかった。


「参ったなぁ~……。あんまり冒険者に話しかけたくはないんですよねぇ……」


 この街の冒険者の治安レベルがどの程度なのかよく分からない。

 道案内をしてもらって難癖付けられてしまうと面倒だ。

 それに可能な限り多人数との接触を避けたいチャリーにとって、無駄に顔や声を晒したくはなかった。

 ロックブレードベアの素材を売るとなると……注目されるのは避けられないかもしれないが……。

 まぁその時はその時だ。


 さて、さすがにこの素材を放置して冒険者ギルドに顔を出すわけにはいかない。

 仕方がないので今し方幌馬車の隣りを通った少女に声をかける。


「ごめんなさい、少しいいですか」

「はい?」

「積荷を売りたくてここまで来たんですが、冒険者ギルドのどこに行けば買い取ってもらえますかね」

「えーと……。冒険者ギルドの職員さんを呼んできましょうか?」

「そうして頂けると助かります」


 申し訳なさそうにそう言うと、少女はコクリと頷いて冒険者ギルドの中に入っていった。

 とりあえずはこれで問題なさそうだ。

 あとは裏手にでも回してもらって積荷を売り捌くだけである。


 しばらく待機していると、少女が女性職員の手を引いてこちらに近づいて来た。

 話ができるほどの距離まで近づいたのを確認し、声をかける。


「わざわざ申し訳ありません。よい物が手に入ったので冒険者ギルドに積荷を卸したくて」

「大きな幌馬車ですね……。分かりました。表だと邪魔になっちゃいますので、こちらに付いてきてください」

「ありがとうございます。お嬢ちゃんもありがとうございます」

「いえいえー!」


 これで何とかなりそうだ。

 冒険者ギルド職員の案内に従っていけば、少し離れた解体小屋のようなところに辿り着いた。

 どうやらここは冒険者が討伐した魔物を解体する場所の様だ。

 価値を見るために一度職人に見てもらおうということなのだろう。


 それであればなおのこと丁度いい。

 指定された場所に幌馬車を停めてから静かに降りる。

 職員は職人を呼びに行ったようなので、その間に幌馬車の中を今一度確認した。

 盗まれたりもしていないらしく、あったままの素材がそこにある。


 さて、どれだけで売れるだろうか……?

 頭の中で見積もりは出しているつもりだが、まぁ何とでもなるだろう。

 すると、職員が職人を連れてやってきた。


「おやどうもぉ」


 軽く会釈をしながら歩いてきたのは初老の男性だった。

 革のエプロンはずいぶん使い込まれているようで黒っぽい。

 洗ってももう落ちない魔物の血液が染みついているのだろう。

 彼はチャリーの顔を見て首を傾げる。


「初めての方ですかな?」

「そうですね。兵士の方に冒険者ギルドに卸した方がいいと言われまして尋ねた次第です」

「ああ、そうでしたか。ご足労頂き感謝します。ええと、ギルドでの買取になると品質や作業工程によって、手間賃が掛かりますが宜しいですかな」

「その辺は大丈夫です。ギルドですべて清算してくれるんですよね?」

「価値によって若干変動しますが一割程度差し引かれると思っていただければ」

「分かりました。ではこちらです」


 諸々を了承し、チャリーは幌を捲る。

 そこには積み込まれたロックブレードベアの素材がたんまりと積載してあり、それを見た職人は目を瞠った。

 だが声を出すことはせず息を飲み、すぐに品質を確認しはじめる。

 職員はあまりこういった物を見たことが無いのか、特に反応することなく作業を見守っていた。


 鑑定が済んだところで職人は幌馬車から降りる。


「……これはあなたが?」

「いやいや、私は頼まれて卸しに来ただけですよ。なんせこういうのは疎いらしくて」

「この尻尾……使われた形跡がない。だが革に残ってるのは首の刀傷のみ……。ブレードを使わせることなく接近武器でロックブレードベアを討伐できる者など、ワシは知らんぞ……」

「へ!?」

「た、たまたまなんじゃないですかねぇ~!(刃天さんロックブレードベアと打ち合ってないんですか!?)」


 職員も名前くらいは知っていたらしく、聞いた途端大きく反応する。

 冷汗をかきながら平静を装っているチャリーではあるが、どこで墓穴を掘るか分かったものではない。

 一刻も早く換金を終わらせて逃げたい衝動に駆られた。


「そ、それでどれくらいになりますかね……?」

「無傷のブレードは一級品ですな。なめされた毛皮は粗があるが悪くはない。脂肪は高値で買い取らなければならない……かのぉ」

「ひょああ……。ぎ、ギルドマスターに相談してきますぅ……」

「えっ……!? ちょっと待って!」


 チャリーは思わず職員の手を掴んで引き留めた。

 ギルドマスターにこの事が知られれば面倒なことになるに決まっている。

 ロックブレードベアの生息域だとか、これを討伐した人物の特定だとかスカウトだとか……。


 噂が立つ分にはいい。

 だが刃天をスカウトされると非常に困る。


「大きな騒ぎにはしないようにって言われてるんです……! 何とかここで清算していただけませんか……!」

「え、え、ええー……! ど、どうしましょうディバンさん……」

「うーむ……。匿名で卸すのは聞いたことが無いが……何か事情がありそうだ。とはいえロックブレードベアの素材ともなればこちらも黙ってはおれんしな……」

「そこをなんとかぁ……!」


 二人は難色を示し続ける。

 冒険者ギルド側としてもやはりこの一件は放置したくはない案件のはずだ。

 だがこうなってくると……卸し先を変更せざるを得なさそうである。


「で、では冒険者ギルドで卸すのは諦めますぅ……」

「ん!? えっ、あ……!」

「ディバンさん……!」

(……おや?)


 二人の反応が一気に変わった。

 首を傾げて顔を見やれば、どうやって引き留めようか逆に思案している風だ。

 どうやらロックブレードベアの素材は欲しいらしい。

 ここに来たのだから当然卸してくれるものだと考えていたのだろう。


 これは好機である。

 チャリーはわざとらしく大きくため息をついてから、幌を戻した。


「では……失礼しましたぁ……」

「まま、待ってくれ! わかった! 配慮しよう!」

「ええ? 本当ですかぁ?」

「な、何とかしますんで!」

「ああ~よかったぁ! これで叱られずに済みます~!」


 それからはチャリーの提案が尽く綺麗に通る様になり、無事にロックブレードベアの素材をすべて売却することができた。

 きっちり一割差し引かれてしまったが、それでも十二分の資金が手に入った。

 彼らには何も聞かせなかったのでロックブレードベアの生息地も、刃天のことも、村のことも教えていない。

 だが今度はもっと一般的な物を売りに来るべきだと反省したチャリーだった。


 とはいえ資金は手に入れた。

 これで開拓道具をある程度購入してから、この街の調査をする事にする。

 そのためにも……宿を取りに行かなければならない。


「よし、じゃあここからですね」


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