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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第五章 疑念の答え
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5.12.Side-地伝-神の下へ


「よくやった刃天!!」


 水晶を見て歓喜の声を上げた地伝は勢いよく立ち上がる。

 そしてすぐに顎に手を当て、沙汰の間を歩き回りながら思案した。


(異なる世の神が戦を引き起こそうとしていることは分かった。神の下知であれば戦をさせる必要が神にはあるという事。人間は言われたことを実行させようとしているだけ……。商い人と荷馬車の道は発生するものではない。神によって引き起こされてしまう事象なのだ)


 では何故、神はそれを地伝に教えたのか。

 その理由は定かではないし、恐らく今後も分からないだろう。

 考えても仕方がないことは早々に思考を放棄する。


(そして『幸喰らい』……。刃天が今まで殺したのはドリーとその配下らしき者共。ドリーは利用されておったし、あの雑魚共はドリーを利用していた者の配下だとするならば、邪な輩と繋がっているはず。神の下知が邪な輩と通ずる者に下され人間が動いているならば……。刃天は戦を引き起こさせる原因となる邪な輩のみを斬っている……)


 この考えが正しいならば。


(『幸喰らい』は戦を最大の悪としている……? 刃天が殺した人間が戦争の火種、もしくは戦争に参加する者共の場合……沙汰を下さないということか)


 ドリーは配下らしき者共と共にアオを殺すように命じられていた。

 その意向はゼングラ領の現領主からだろうが、ドリーの最後の言葉から邪な輩が関わっていたということは分かる。

 そして邪な輩は神と何かしらの手段を通じて繋がっている。

 これは先ほど刃天が聞いた教会とやらに通じているはずだ。


 つまり……神からの下知を実行させようとしている者を、『幸喰らい』は悪としている。


(だが審判である『幸喰らい』が殺人を許容するのであれば、それ相応の理由があるはずだ。その理由は何だ……)


 地伝は眉間にしわを深く寄せて考える。

 この沙汰は地獄で作られたものだが、記録にはほとんど残っていない。

 調べに調べたがやはりこの沙汰が下されたのは刃天で三度目だった。


 『幸喰らい』はなにを拒んでいる?

 ふと湧いて出た疑問はこれだった。


「…………違う。阻止しようとしているのか」


 思ったことを口にしてみると、それが次第に現実味を帯びて来る。

 刃天が人を斬っても幸が減らない理由は、その行動が正しいからだ。

 だが『幸喰らい』が何を基準にそう判断しているかは未だに分かっていない。


 人を殺めても余りある罪は何だ、と地伝が考えるとその答えは意外にもすぐに出てきた。

 神が人の世に干渉するのはご法度だ。

 それはこの世でも異なる世でも同じことなのではないか。

 だから神は人間に下知を下して戦争をさせようとしている。


「地獄を……いや、この世を守ろうとしているのか」


 異なる神々の目的を、この幸喰らいが阻止しようとしている。

 つまり神話的な何かが絡んでいるはずなのだ。


 ではその目的は……なんだ!!


「国造りの神、大国主命様であれば何か知っているか……! いや、私程度の小鬼に時間を割くような方ではない……。であれば共に国造りの旅をした少名毘古那神(すくなびこなのかみ)様ならば……!」


 地伝は懐から矢立を取り出し、さらさらと文を書いて沙汰の間の机に置いておく。

 しばらく留守にするという文だ。

 数百年休みなしで働いているのだから文句は言わせない。


 それからすぐに旅支度を整えて現世へと向かうことにした。

 変化の術で角を隠し、笠を被って刀を腰に差す。

 阿鼻地獄で打たれた刀はどんな灼熱にも耐え、鬼の力でも破壊することができない名刀となる。

 これを好んで打つ鍛冶師は相当な変わり者だが、地伝はこれを気に入っていた。

 金砕棒よりこちらの方が技量が必要なのでこちらの方がいいのだ。


 支度を済ませた地伝はすぐに歩き始め、三途の川へと向かった。

 八百万の多くの神々は日ノ本にいるはずだ。

 目的の神が祀られている神社に行けば、周囲にいる者たちに話を聞いて何処にいるか聞けばいい。


 獄卒たちとすれ違う度に軽い挨拶をしながら向かえば、三途の川にはすぐに辿り着いた。

 そこで一人の死神を捕まえる。


「おい」

「んん~? 鬼さんが客たぁ珍しや。どちらまでぇ?」

「現世まで」

「あっしに頼まずとも行けるでしょうよぉ」

「足が付かぬようにしたいのだ。グダグダいうな早くしろ」

「……只ならぬ理由があるようですなぁ。承知いたした」


 大鎌を回した後、ふわっと移動して船に乗った。

 地伝もそれに乗って席に座る。


「急ぎで?」

「急ぎだ」


 死神は骨だけの手を持ち上げて広げる。

 すると霧が濃くなって周囲は何も見えなくなった。

 それから数秒もすれば船が岸に乗り上げるような感覚が襲って来た。


「おと……」

「着きやした。出雲でよろしかったですかなぁ」

「十分だ」


 会えるかは分からないが、試しに出雲大社を訪れてもいいかもしれない。

 船から降りれば瞬きをする間に死神が消え去った。

 地伝は一つ息を吐き、出雲大社へと足を向けた。


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